第20話 下層へ
「歓迎しないわよ」
ギドさんのパーティ加入に一人反対しているのがエリーだ。
まぁ、その気持ちは分かる。
俺も母さんと一緒にパーティ組むのは抵抗があったからな。
「おい、ギド。マジで抜けるのか?」
「すまん。ロイ。まさかこうなるとは思わなくてね」
影響があったのは俺達だけじゃない。
ギドさんのパーティ。「悠久の剣」にとっても大きな問題だ。
何と言ってもギドさんは四級冒険者パーティのリーダーをしているからな。
パーティ内の連携も変えなきゃいけないし、戦力は勿論落ちてしまう。パーティメンバーの収入も当然落ちるだろう。
その補償くらいはしてもいいかもしれない。ギドさんが自分で言い出したことではあるけど、ギルドマスターも決闘で認めていたことだからな。
俺なら揉めないように何とかすると思ったんだろうか?
むしろ、こうなることを歓迎していたような節もあった気がする。
「えっと、それなら一度一緒に潜ってみませんか?」
「は? お前ふざけてんのか? 俺等が一緒に潜って何のメリットがある?」
格上の冒険者と一緒に潜ることはそう出来ることではない。
それはつまり、格下の冒険者がレベルの壁を突破する手助けをするということでもある。
これをキャリーと言うが、これは殆ど行われない。八級以下の冒険者に対して行われる事はあるが、かなりの依頼料が取られたりする。
七級以上へのキャリーはそれこそ親しい関係の者にしか行われない。その為派閥が出来る。
四級ともなると傘下に多くの冒険者パーティが名を連ねていたりする。
では、派閥内の冒険者をどんどんキャリーするかと言えばそんな事はない。
格下が同格になってしまうと力関係が変わるからだ。同格になった途端、それまで媚びへつらっていた奴が急に掌を返してくる。そんな話はよくあることだ。
腕力で序列が決まる冒険者にとってキャリーはそう滅多に行われることではないのだ。
「そうですね。皆さんにレベルの壁を越えさせてあげますよ」
「「「「「はぁ?」」」」」
これにはギドさんを含め、悠久の剣のメンバーも「何いってんだコイツ?」みたいな顔をしている。
「キャリーすると言ってるんです。十分なメリットじゃないですか?」
「てめぇ、舐めてんのか? それとも分かってねぇのか?」
「まぁまぁロイ。落ち着いて。シル、君は三級のモンスターを倒せるって言ってるのかい?」
ギドさんが嗜める。
ギドさんは冒険者にしては言動が落ち着いているので人望がある。
「ポイズンリザード、アサシンカメレオン、アイアンゴーレム、オークジェネラル、死鬼蜂、俺が倒した三級のモンスターです。オークジェネラルと死鬼蜂は母さんとエリーの三人で倒しています」
「証拠は?」
「ここでは無理ですが、ダンジョンの中なら見せられますよ」
「なるほどね。エリーが僕より強いと豪語するわけだ。ソロでアイアンゴーレムを倒す実力があるのか」
「それが本当ならな」
「嘘に決まってる」
「嘘にしたって盛りすぎだろう」
「それだけ倒してるなら十級のままってのが変だろうが。破綻してるぞ?」
まぁ、実際に見ないと信じられないと言うか受け入れ難いよね。俺十級だし。
「四級の皆さんに嘘ついたら、それこそバカですよね?」
直ぐバレる嘘をついたらそれこそ殺されてもおかしくないだろう。ギドさん達はそんな事はしないと思うけども。
「どうします? 一緒にダンジョン潜りますか?」
「いいだろう。お前の言葉が本当か確かめてやる。皆もいいか?」
「ああ」
「おもしれぇ」
「行ってやろうじゃないか」
ロイさんが取りまとめてくれて悠久の剣の皆さんと一緒に潜ることになった。
ダンジョン一階の人気のないところに進む。
「この辺でいいかな。じゃあ、証拠をお見せしますね。【収納庫】」
アイアンゴーレムの体の一部とオークジェネラルを取り出した。
「「「「はああああああ?」」」」
ダンジョン内に4人の声が木霊する。
「さ、皆わかったろ? シルは強い。このギルドで誰よりもね」
ギドさんも驚いていたが、俺のステータスを見ていたからか他の四人程ではなかった。
エリーと母さんが何故かドヤ顔している。
「信じらんねぇ。あ、いや、疑ってるって意味じゃねぇ。三級のモンスターってのはどいつもこいつもバケモンだ。それを倒せるってことが俺の理解を越えちまってる」
「ははっ、スゲェな。マジか」
「とんでもねぇガキだな」
「こりゃ、ギドが勝てんわけだ」
「おいおい、それを言うなよ」
悠久の皆さんに笑いが起きる。
良かった。どうやら受け入れてもらえたようだ。
「それで、何で俺達とダンジョンに潜りたかったんだ? それだけ強いなら必要ないだろ?」
ロイさんが当然の疑問をぶつけてくる。
「ええっと、それには色々と説明が必要なんですが、さっきのスキルのことも含めて秘密にしてもらいたいんですよね」
「勿論だ」
三級モンスターのインパクトのせいか悠久の皆さんは大分好意的になってくれたようだ。
そこで俺は悠久の皆さんにもステータスを見せて、【固定】スキルの説明をした。
ここでも驚かれたが、俺の話を信じてもらうために、また今後彼等の協力を得るためにステータスを見せた。
ステータスを見せるのは信用を得るための手段でもある。
魔力を吸収しながらダンジョンに潜るとレアモンスターが3体出現し、その後宝箱が出ること、更にその後三級の格上モンスターが出現することを伝えた。
またエリーと母さんのステータスを【固定】できること、しかし、三級のモンスターを倒すと【固定】が外れてしまう事を説明した。
話すこと一つ一つに驚かれたが信じてもらえたようだった。
「······というわけで、二人には三級の格上モンスターを相手にしてもらいたくはないんですよ。今の俺一人だと3体の三級モンスターが出た場合、一人で勝てないこともあるかもしれません。それで始めはギドさんに三級のモンスターを相手にしてもらえたらと思ってたんですが、それだと悠久の剣の皆さんに迷惑が掛かりますし、いっそのことパーティ全員で相手にしてもらった方がいいのかなと思ってます。あ、勿論俺も戦いますから安心して下さい」
「何だ、そういうことだったのね」
エリーは俺がギドさんをパーティに入れようとした理由に納得したようだ。
「シル、簡単に言うけど僕達から見たら三級のモンスターってのは化物でね、四級のモンスターでさえ普段はそう相手にしないんだよ」
あ、そうなんだ。
まぁ、無理はしないスタイルなのかな?
それが長く冒険者を続ける秘訣なんだろう。
「そうですね。今は母さんもエリーも回復魔法が使えますし、ピンチになったら二人にも参戦してもらいます。あと、可能なら皆さんのステータスも【固定】して戦ってもらおうかと思ってます。どうですか?」
「······少し皆と相談させてもらってもいいかい?」
「もちろんです」
ギドさん達は相談を始めたが、否定的な意見は特になさそうだった。それよりも今後どうするか細々したことを調整していた。
その間に俺も2人と相談した。
「······そんなわけで、急にこんな話になったけど二人のステータスを良くするためには三級の相手をする人がパーティにいた方がいいと思うんだよ」
「それは分かるけど、パパと一緒っていうのが何か嫌なのよ。まぁ、事情は分かったから我慢はするけど」
「じゃあ、悠久の剣の皆さんと合同の探索だったら?」
「そっちの方がまだマシね」
そうか。よく分からないけど分かった。
マシな方になってくれるとありがたい。
「母さんはどう?」
「そうねぇ、母さんは別に構わないけど報酬の分配はどうするの?」
うーん。そういうのもあるか。
「宝箱は譲れないけど、中身次第では譲ってもいいかな。その代わり三級モンスターの素材は向こうでいいかと思うけど。あ、複数出たら一体は欲しいかな。他のモンスターは倒したパーティのものでいいんじゃない?」
「母さんは揉めなければ何でもでいいわよ」
「私も問題ないわ。十分稼げてるし、その辺はシルに任せる」
「じゃあ、そんな感じで」
こっちは何とかまとまったかな。
「シル、いいかい?」
「はい、どうなりました?」
「まず、結論から言うと是非君の提案を受けさせてもらいたい。これは悠久の剣全員の総意だ」
「ありがとうございます」
「その上で、幾つか取り決めと言うか、条件がある」
「はい、何ですか?」
まぁ、条件がつくのは当然だろう。
四級の冒険者パーティが安いわけがないからな。
「まず、僕達はシルのパーティの傘下に入る」
「えっ? 何で傘下に?」
どうしてそうなる? 四級のパーティだぞ?
「キャリーする側がされる側よりも上なのは当然だ。それに傘下ならば必要に応じて上のパーティに補充メンバーとして招集されることもある。補欠要員としての側面もあるからバーンズさんも決闘の約束を違えたとは言わないだろう」
「な、なるほど」
「よって、パーティのリーダーは君だ。探索中僕らは君の指示に従う」
「そ、そうなっちゃいます?」
いや、ベテランの方々に指示を出すとなると何か緊張するな。
「もちろん気が付いたことがあればアドバイスすることはあるだろうけど、決定権は君にある」
「分かりました」
「そして、報酬についてだ。ちらっと聞こえたが、本来キャリーしてもらう側に報酬なんてない。むしろお金を払って頼む立場だからね」
「あ、でも······キャリーとは違いますから」
「もちろん分かってる。これは取引だ。その上で僕らの報酬は三級モンスターの売却金額の半分でいい」
「半分でいいんですか?」
「もちろん、日によっては思ったより稼げないこともあるかも知れない。でもそもそも大きなモンスターを運ぶこと自体困難でね。半分でも今までよりも相当稼げるはずだ」
マジックバッグが無ければそうなるのが普通か。
「分かりました。何か貰いすぎな気もしますがこちらは構いません」
「もし、気が引けるなら僕らも鍛えてくれないか?」
「はい、でも皆さんレベルが高いですからどれだけ効果があるかは分かりませんよ?」
「ありがとう。それで構わない。あと一つ聞かせてくれ。シルは何を目指してるんだい?」
「目標と言うことであれば、取り敢えず一級冒険者になることです。夢としては――」
司祭様と沢山話していくうちにいつしか芽生えた夢。
それまでは想像すら出来なかった夢が芽生えた。
そして司祭様も期待してくれている。
「――世界最強の冒険者です」
「そうか。出来ればその夢に、力の及ぶ限り付き合わせてもらえないだろうか?」
「はい、もちろん」
再度、ギドさんと力強く握手した後、悠久の皆さんとも握手を交わした。
悠久の剣のメンバーは
・ギドさん スキル【飛剣】
・ロイドさん スキル【結界魔法】
・カイルさん スキル【看破】
・ファングさん スキル【強化】
・アークさん スキル【回復魔法】
こうなっており、かなりバランスのいいパーティだ。
試しに全員のステータスに【固定】を掛けられるか試してみたところ一応出来た。
魔力の消費を抑えるのために今は解除しているが、三級のモンスターと戦う前に再度【固定】する予定だ。
幾つ同時に【固定】出来るのか自分でも分かっていないが、試した結果少なくとも40以上は出来ることが分かっている。それ以上は魔力が枯渇しそうになったのでやめたが、もっと出来そうな気はしている。
「では皆さん、覚えたい魔法を選んで下さい。皆さんレベルが高いので覚えられても一つじゃないかと思っています」
早速悠久の皆さんへ早速訓練所を始めることにした。
その結果、全員が空間魔法を覚えたがったので、その辺はパーティ内で相談してもらおう。マジックバッグは一つしかないからね。
覚えると便利だよね【収納庫】。
これまでの訓練とは違い、魔力を極力使用せず下層へと降りていく。
下層に行くこと自体は難しくない。
ダンジョンは一つ一つの階層は広いが、下に降りるための階段は入り口からそう離れていないところにあるからだ。階段の場所さえ把握していれば案外簡単に深い階層にまで行くことが出来る。
取り敢えず、今日は下層の入り口、15階に行くことにした。
各階の階段の場所は悠久の皆さんは当然把握していて、駆け足で降りていくことが出来た。
半刻もせず15階に到達する。
「さぁ、着いたぞ」
「流石に早いですね。助かりました」
カイルさんのお陰で特に罠にかかることなく、モンスターに遭遇することもなく駆け抜けることができた。
「カイルさん。引き続き罠があったら教えて下さい」
「任せろ」
おぉ、頼もしい。
「では訓練を始めましょう」
今日は負荷をかけるのではなく、なるべく長い時間この階層でモンスターを倒すことを目的にしている。
格上のモンスターはまたオークジェネラルなんかが出てきてくれたら最高なんだけどね。
魔力を感知した方に進むと早速オークと遭遇する。
「母さん」
「【鼓舞】、【氷結】」
「任せて〜、【精密】、【身体強化】」
エリーもしっかりスキルを使ってオークの足を止める。
――ジュバッ――
弦の音が空気を切り裂く。
母さんの弓は強弓でかなり重い。
しかし、向上した筋力で問題なく矢を射る。構えも様になっている。
矢は正確にオークの眼球を穿ち、頭蓋を破壊した。
「ヒュ〜、やるねぇ」
「一発かよ」
「これで九級はねぇな」
「サラさん、かっこいいよ〜」
オーク相手なら悠久の皆さんも問題なく勝てる相手であるため空気は緩い。母さんに賛辞が贈られる。
「ありがとうございま〜す」
エリーはそのままオークを氷で包む。
その方が悪くなりにくいのではないかという判断からそうしている。
「【収納庫】」
収納するのは俺の役目だ。
そんな感じで探索を続けること半刻。
最初のレアモンスターが出た。
「オークナイト!」
「マジでレアが出やがった」
「エリー」
「【精密】、【氷結】」
「任せて、皆耳塞いで!【鼓舞】、【落雷】」
――ドガァァァァァァァン――
母さんがオークナイトの足を凍らせ、動きを止めた所にエリーが魔法を放つ。
オークナイトはその一撃であっさりと崩れ落ちた。
そのまま母さんの魔法でオークナイトを氷で包む。
「オークナイトも一発なのか!」
オークナイトのランクは五級。悠久の皆さんが普段相手にしているモンスターと同じランクだ。
五級のモンスター相手に初めて【落雷】を使ったが一撃で倒せるとは思わなかった。かなり威力の高い魔法だと分かる。
「エリー、凄いよぉ」
ギドさんの声援にエリーは笑顔で応える。
「どんなもんよ」
あんなに嫌がってたのにノリノリじゃないか。
まぁ、嫌なのは親同伴が恥ずかしいってだけで、周りの目が無ければ別に嫌じゃないんだろうな。
そんなこんなでレアモンスターも問題なく倒し、更に一刻程が過ぎると宝箱が出た。
「ぬほぉっ、宝箱!」
「これも本当に出た!」
「スゲェ、初めて見たぜ」
「滾るなぁ」
「シル、さぁ、開けてくれ」
「早く開けましょう!」
「うわぁ、中身が楽しみ」
今回の宝箱は俺も楽しみだ。
魔石も十分お宝なんだけど、何が入っているのか分からないワクワク感がたまらない。
「開けます!」
宝箱の中に入っていたのは不思議な魔導具だった。
平べったく円形の透明な石に金属の板がくっついている。
「何だろ、これ。誰か分かりますか?」
見た目だけだと誰も分からなかったようだ。
取り敢えず俺が魔力を通してみることにした。
「あ、反応した」
魔力に反応して金属部分に文字が浮かび上がる。
『シルフィスの手』
「おいこれ、もしかして鑑定出来るんじゃねぇか?」
「ええ!? 鑑定って凄いじゃない!!」
「マジかよ。そんなのあるのか?」
皆が一斉に反応する。
鑑定のスキルを授かる人は極稀にいるのだが、稀少過ぎて引っ張りだこなのだ。
冒険者的にはあまり必要としない魔導具かも知れないが、俺達は宝箱から出たものを調べるのに使えるな。
高く売れそうだし良しとしよう。
三級のモンスター出現に備え、悠久の皆さんのステータスを【固定】する。
待ってる間、新しく手に入れた鑑定の魔導具で遊んでいた。
オークジェネラルが来てくれないかと思っていたら大きな魔力を感知する。
「お、来たよ皆」
その数は二つ、三つ、四つとどんどん数を増やしていく。
「当たり引いたかも!」




