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第2話 スキル【固定】

 司祭様はやけにレベル上げやステータスのことに詳しくて、色々とアドバイスをしてくれた。


 お陰で『出遅れ』の俺でも希望を持つことが出来た。

 いや、他の人が俺のことを『出遅れ』と蔑もうと、俺は自分のことを蔑むのはやめよう。


 司祭様は『出遅れ』ではなく『土台を築いた』のだと教えてくれた。


 その司祭様の教えに従い、レベル上げではなくスキルの熟練度を上げることに注力しよう。


 司祭様が言うにはレベルが上がる際には、レベルが上がるまでの行動次第で上がる数値が変わるらしい。


 そして数値には表れないが、スキルを使うとレベルが上がる際に熟練度が大きく上り、スキルが強力なものになっていくらしい。


 レベルは最初は上げやすいが、次第に上げにくくなっていくため、レベルが上がるまでに何をするかが将来的な強さを左右するらしい。


 そして一番重要なものはステータス上は数字に表れないスキルの熟練度とのことだ。

 

 底辺冒険者として受注可能な下水掃除の仕事を終えてから家に帰ると母さんが出迎えてくれた。


「お帰りシル」

「ただいま母さん」


「ご飯出来てるわよ。食べながら儀式の話を聞かせてちょうだい」

「ああ、分かった」


 夕飯はいつもの硬いパンに質素なスープだ。

 

「はい、召し上がれ」


 と思っていたら追加でボア肉のステーキが出てきた。


「母さん! こんなご馳走······」

「ごめんなさいね。儀式のお金は出せなかったけど、これくらいのお祝いはさせて」


 高級なためお祝いの日でも滅多に食べる機会のないステーキだ。


「母さん、ありがとう。とても美味しそうだ」

「いいのよ。おめでとうシル」


 食べながら母さんに【固定】のスキルを授かったことを話した。

 母さんは祝ってくれたけど、微妙な反応だった。


 まぁ、強そうなスキル名ではないから仕方ない。

 反応が微妙だったから神スキルと言われたことは黙っておいた。


「さてやるか」

 食事を終えて、寝る準備を済ませるとスキルの訓練を始めた。


 スキルは魔力を消費するものが多いため、寝る前に訓練したほうがいいとのことだった。


 取り敢えず、軽そうな短剣を手に持つ。

「【固定】」


 それを空中に固定してみようと思いスキルを使ってみた。


 スキルは無事に発動し、短剣は宙に浮いていた。触っても動かない。


「本当に固定されてる」


 自分が起こした現象に驚いていると急に頭痛が襲ってきた。


「うっ」

 体から力が抜けていくのが分かる。


 固定を維持できなくなり短剣が床に落ちると俺も意識を失ってしまった。



「あれ、もう朝か」

 翌朝目を覚ますと、特に体調に問題はなかった。寧ろよく寝れて清々しさまである。


 ステータスを確認すると昨日と変わりはなかった。


 司祭様によると、スキルの訓練でも経験値が入りレベルが上がるらしいが、少しスキルを使ったくらいではレベルは上がらないようだ。

 

「しかし······やっぱりハズレじゃないか?」

 昨日少し固定しただけで魔力切れになってしまった。これだと戦闘では使えそうにない。


 どこが神スキルなんだろ?


 俺の魔力が少ないのか、それとも魔力消費量の大きいスキルなのか、いずれにしろ使えないなら無いのと変わりない。


 せめて魔力の消費が少なければなぁ。

 これだと1日1回しかスキルが使えない。


 司祭様の指示に従うならレベルが上がるまではスキルを使って経験値を得るべきだが、そうすると折角ステータスを授かったのにレベルを1上げるのにどれだけ時間がかかるのか分からない。

 ずっとレベル1のままならステータスを授かっていないのと変わらない。


 この使えないスキルをどう活かせるだろうか?

 何を固定すれば強くなれるだろうか?


 ステータスを開いたまま考えを巡らしているとふと気付く。


 一応神スキルなんだから「もの」以外も固定出来るんじゃないか?


 例えばステータス。


 ステータスを【固定】出来たら魔力も減らないし、スキルを使い放題になるんじゃないか?


「おいおい、俺は天才か?」


 自分の閃きが凄すぎて柄にもなく自画自賛してしまう。


 気付いてしまったら試さずにはいられない。


「【固定】」

 目の前のステータスを対象にスキルを使ってみた。


 消えるかな?

 試しにステータスを消すように念じてみたら普通に消えた。


 ステータスは出し入れ可能で特に固定された感じもない。


「失敗か······。いや、何か不思議な感覚があるな」


 まぁ、目の前に固定されたままだとそれはそれで不便だから失敗して良かったのかも知れない。


 そう思ったがどうもスキルを使い続けている感覚がある。


 でも、特に魔力が減っている様な感覚はない。


「ん? これはもしかして成功したのか?」


 ステータスを開いて見ると魔力の数字が高速でブレていた。

 ばっと見は魔力は10なのだが、よく見ると10と9を行ったり来たりしている。


「ん? どういうことだ? 成功したのに固定できていない? 何か動いてるよな?」


 しばらく考えて俺の中で仮説を立ててみた。


 まず、スキルを使っている感覚がある。これは間違いない。

 だから今もスキルを実行中なんだろう。


 俺のスキルは凄く魔力を消費する。

 だからステータスの魔力は減少するが、そのステータスを固定しようとして魔力を補充している? のか?


 その仮説が合っているかどうかは分からないがステータスの魔力の動きを見るとそう見えるし、今まで経験のない魔力の流れを体に感じる。


 とすれば狙い通りスキルを使い続けることには成功したわけだ。


「何か希望が見えてきたな」


 じゃあ、昨日スキルを試した短剣がどのくらい固定できるか試してみるとしよう。


「【固定】」

――ガタッ――


 そう思ってスキルを使ってみたが短剣は全く固定されずに、手を離した途端床に落ちてしまった。


「あれ?」


 どういうことだ?

 

「【固定】、【固定】、【固定】」


 何度試してみても短剣を固定することが出来なかった。


 と言うことはこれは一度に複数の対象を固定する事は出来ないということだろう。

 まぁ、それは仕方ない。今は熟練度も低いしね。


 仕方ないんだが、上手くいかなかったことで気落ちしてしまう。


「はぁ、いい方法だと思ったんだけどな······益々使えない」


 スキルを解除して仕事に行くとするか。


 さあ、解除だ。


 うん。解除するぞ。



 そう思ってスキルを解除しようとしてまた気付く。


「あれ? 解除ってどうやるんだ?」


 肝心のスキルの解除の仕方が分からなかった。


 嫌な予感が頭を過る。


「いやいや、大丈夫だ。昨日はスキルは解除出来たじゃないか」


 思い出せば良いだけだ。

 昨日はどうやってスキルを解除したんだ?


 そう······魔力が切れて勝手に解除されたんだ。


 ならちゃんと解除出来·················。

 


 ない。


 今の俺は魔力切れがない。


 そして熟練度が低いせいか解除の仕方が分からない。


「解除、解除、解除、止まれ、固定解除、スキル解除······」


 ダメだ。取り敢えず試してみたものの解除出来ない。


 つまり、ステータスを固定したままスキルが使えなくなってしまったわけだ。


「はぁ〜」


 大きなため息をつく。

 折角スキルを授かったのに、そのスキルも使えないのと同じ状態になってしまった。


 後ろ向きに考えるなら折角スキルを授かったのに全くの役立たずになってしまった。


 前向きに考えるなら昨日の俺と今日の俺は何ら変わらない。だから何も悪いことにはなっていない。


 うん。そうだな。

 前向きに考えよう。


 スキルのことは後で司祭様に相談しよう。

 取り敢えず仕事に行かないと。


 気落ちしていても金がもらえるわけではない。

 働かないと食っていけないのだ。


 朝からやらかしてしまったが、自宅を整え冒険者ギルドへと足を運んだ。

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