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第18話 チームワーク

 昨日、三人で話し合ってそれぞれ武器を扱えるようになろうと決めた。


 特に、母さんとエリーは俺の【固定】が外れた時にも戦える備えが必要だ。

 昨日みたいに魔力ゴリ押しの戦い方しか出来なければ魔力切れで詰む可能性がある。


 普通、魔法系のスキルをもっている場合は武器の訓練などしないのだが、ステータスがかなり向上しているので物理攻撃もそれなりに効果があるはずだ。出来ないよりも出来る方がいいに決まっている。常識にとらわれずやってみようということになったのだ。


 一般的に戦闘系のスキルの中でも魔法系のスキルに比べ物理攻撃系のスキルはハズレとされている。


 多くの冒険者が所持しているのが物理系のスキルなのだが、物理系のスキルではオークでさえ倒すのが難しいのだ。


 俺はかなり体格には恵まれているが、それでもオークは俺の1.5倍位大きい。体重に至っては恐らく6倍以上ある。


 如何にスキルを磨いても、レベルを上げても、その体格差を覆すことは難しく棍棒一振りで弾け飛んでしまう。

 ランクが上がりモンスターが大型化する程、攻撃力と耐久力は上がる。接近戦を強いられる物理系のスキルは通用しにくくなる上、危険が大きすぎてとても生業には出来ないのだ。


 そのため上位の冒険者になるためには遠距離で戦える魔法系のスキルが必須と言われている。


 だが、俺達はステータスの伸びが格段にいい。モンスターの中には魔法が効きにくいモンスターもいるし、普通の冒険者よりも物理攻撃が活かせる場面はあるはずだ。

 危機管理というだけでなく、ダンジョン攻略という側面から見ても武器を扱えて損はない。


 それで何日かかけて武器の基礎を学ぶことにした。

 ギルドではそういった講習を受けることが出来る。講習料を払えば冒険者上りのギルド職員が教えてくれるし、他にも冒険者に依頼を出して教えてもらうことも出来る。


 講習を受けるほうが格段に安いし、いつでも受けさせてもらえるので講習の方を選んだ。


 講習では短剣、剣、槍、盾、弓の基本的な扱い方をそれぞれ一日ずつ時間をかけて学ぶつもりだった。

 だが実際受けてみたら、知能や感覚が上がったせいか学んだことを一度で覚えられたし、基本的な動作の要点が直ぐに理解できた。その上体もイメージ通り動かせたので基本的な扱い方は1日で5つとも覚えてしまったのだ。


 勿論、実戦で使えるように更に技を磨いていく必要はあるが、これは嬉しい誤算だった。

 少なくとも母さんの弓の構えが普通になったのでそれだけでも満足ではある。


 基本的な武器の扱い方を覚えたので、次の日は予定を繰り上げダンジョンに潜ることにした。


「ねぇ、シル。本当にこの格好にならなきゃダメ?」

「勿論」


 エリーは少し不満があるようだがこれも訓練のためだ。

 わざわざ防具屋さんに特別にすね当て、手甲、胸当てを作ってもらったのだ。

 と言っても難しいことは何もしてもらっていない。単に重くしてもらっただけだ。

 そのためちょっと無骨になっていてエリーは気に入らないらしい。


「母さん的にも可愛気が足りないと思うわ」


 いや、確かに若々しくなりましたけども。

 可愛気という歳ではないですから!


 そう心の中でツッコミを入れても決して声に出しはしない。


「でもあと一回、二人のレベルが上がるまでは一階で訓練するって決めたでしょ? この格好は訓練だと思って割り切ってよ」


 ステータスの上がり幅が大きく、もし次のレベルアップでも同じくらい上昇したら、母さんは二級、もしくは一級相当のステータスになる。

 エリーはもう少し低いかも知れないけど、相当強くなるのは間違いない。


 そこまで強くなれば階層を上げて、不測の事態に陥ったとしても大抵のことは乗り越えられるはずだ。


「仕方ないわね。できれば今日レベルアップしないかしら」

「その可能性はあるかもね」


 三級のモンスターを倒した時に【固定】が外れるかどうかだね。外れたら上がるはずだ。


「ダンジョンの下の階層にも興味があるわ」

「私もです。宝箱に魔石以外の何が出るか楽しみですよね」


 俺達は下の階層に行けば魔石以外の宝が出るのではと予想している。

 宝箱というご褒美があるから否応なしにテンションは上がる。


「じゃあ、早くレベルが上がるように今日も頑張ろう」


 既にダンジョンの一回の奥に潜っている。人目につかない所まで来て重たい装備を身に着けたところだ。

 訓練はここから始まる。


「じゃあ始めよう」

「「「【重力グラビティ】、【落雷サンダーボルト】、【身体強化】」」」


 それぞれ自分に【重力グラビティ】と【落雷サンダーボルト】をかけて【身体強化】を使用する。

 既に耐性があるので主な目的としては単に魔力の無駄遣いをしているだけだ。重たい装備がより重くなるので多少は訓練になっている。


 武器の素振りなどをして時間を潰す。

 スライムは湧き次第瞬殺している。


 経験値を得るのはこの後に湧く格上のモンスターからしか考えていない。


 やがてホーリースライムが三匹出た後、お待ちかねの宝箱が出た。


「あ、宝箱みっけ!」

「でかしたわエリーちゃん!」

 二人は宝箱に駆け寄った。


「シル、開けていい?」

「いいよ。開けてくれ」


 最初の頃より宝箱に動じなくなった自分がいる。


「今回は緑色よぉ!」

「何の魔法かしらね」


 出てきたのはやはり魔石で、今回は緑色だった。


「ま、取り敢えず使ってみるか」


 魔力を込めると魔石が光り魔法が発動する。すると俺達3人の体が淡く緑の光りに包まれた。


 何かが起きてるのは間違いない。

 でも、見た目的には少し光っているくらいでその他の変化はない。


「何だこれ? 何が起きてる?」

「う〜ん。何も起きてないわね」


 熱くもないし、寒くもない。痛くもないし、光以外は何も生じていない。


「バフかデバフ、もしくは回復系の魔法かしらね」

「おお、流石エリーだ。そうかもな」


 確かにステータスを固定しているから分からないだけでその可能性はある。


「ちょっと、私の【固定】解除してみて」

「そうだな。やってみるか。はい、解除したぞ」

 今なら大して経験値は獲得していないので解除しても問題ない。


「う〜ん。やっぱり何も変化ないわね」

 一旦エリーの【固定】を解除して魔法を試してみたけど何も起きなかった。


「じゃあ、回復系かな?」

 バフやデバフの線も消えた。恐らく回復系だと思われる。

 まぁ、何を覚えるかはレベルアップ後を楽しみにしよう。


「じゃあ、エリー。ステータス出して」


 再度エリーのステータスを【固定】しようとしたら待ってと言わんばかりに掌を俺に向けて制止する。


「【火弾ファイヤーショット】」


 どうした? 

 と思ったたら徐ろにエリーは【火弾ファイヤーショット】で自分の手を燃やした。


「あっつう」

「エリー!」

「エリーちゃん!」


 しかし、火が消えるとエリーの手はみるみる回復していった。

 どうやら回復系の魔法だったようだ。


「おいおい、無茶するなよ」

「へへっ、何か気になっちゃって。それにこれも訓練よ、訓練」


「エリーちゃん、回復系じゃなかったらどうするつもりだったの? あなた女の子なのよ」

 母さんが珍しく怒ってる。


「すいません。······私のスキルってこのパーティだと役に立たないし、何か寄生しているみたいで······何でもいいから役に立ちたかったんです」


 エリーの頭を軽くチョップする。

「あたっ」

「バカ、気にすんな。エリーがいるお陰で宝箱が出るのが早くなってるからな。助かってるぞ」


「それって、私じゃなくてもいいじゃん」


 もう一回チョップする。

「あたっ」

「俺のスキルの秘密を知ってるのは母さんとエリー、あとは司祭様とギルドマスターしかいない。他の人は信用できなくて打ち明けられないからな。エリーの代わりなんて誰もいないぞ」


「う〜」

「でも、回復系の魔法だって確かめられて助かった。ありがとな」


「うん」


 エリーもそんな気にする必要はないのに。

 しかし、今では必要性を感じなかったけど、これからはポーションも常備するようにしよう。

 何があるか分からないからな。


 そんなやり取りをしていたら格上のモンスターが現れた。

 今回は3体のようだ。


――ブウウウウウウウウウウウン――


 羽音がする。

 音からして虫の羽音のようだ。


――ブン――


 いつの間にかそのうちの1体が目の前にまで迫っていた。


 速っ。

 危なっ。


 咄嗟に顔を逸らすが撃ち出された針が顔を掠る。掠った頬から血が流れる。


「いったぁ」

「きゃあっ」


 他の2体が母さんとエリーに針を飛ばしていた。


 血が出たということは俺の【固定】を貫通したということだ。


「「あああああああああああああああっ」」


 エリーと母さんの悲鳴が響く。


 毒耐性が仕事をしたようで俺の方は毒を受けなかったが、二人は毒に苦しめられている。


 現れたモンスターは死鬼蜂。

 虫だけあって、サイズは非常に小さく動きは極めて速い。


 そして撃ち出される針は鎧さえ貫通し、毒は大型獣も一発で絶命させる程強力だ。


 小さい上に動きが速いため攻撃を当てることが困難で討伐することが非常に困難なモンスターだ。


 レベルアップして感覚が上った俺でも捉えられないくらい速い。

 何てスピードだ。


 【固定】のお陰で二人も何とか持ち堪えている。


 ただ、【固定】の防御を上回ってくる相手だ。下手したら死ぬ。


「【重力グラビティ】!」


 俺達を中心に輪が広がるように【重力グラビティ】を放つ。


 死鬼蜂は当然のように魔法を避けて離れる。


「【固定】」


 死鬼蜂と距離が空いたのでその間の空気を【固定】する。


 一先ず【固定】で空気の盾を作った。

 これでしばらくいけるか?


「二人とも大丈夫?」

「うう······」

「げほっ······」


 母さんはお腹に、エリーは胸に針を飛ばされたようだ。

 

 二人とも体内に針が埋まっているようで直ぐに針をどうこうできない。


――ガガガがガガガガガガ――


 振り向くと針が3本俺目掛けて飛んできていた。【固定】された空気を採掘するかのように音を立てて飛んできている。


 ただ速度は遅く、二人を抱えて避ける余裕があった。


 速度は遅いのに、不思議と止まることなく【固定】した空気を貫いてくる。


 恐らく何らかのスキルの効果なんだろう。

 エリーの場合は胸当てを貫通して体内に針が刺さっているようだし、単に物理的に飛ばしているだけならこうはならない。


 頼む効いてくれ。


 緑の魔石に魔力を込める。

 淡い光に包まれると母さんの傷口から針がポロっと出てきた。


 多分、エリーも同じだろう。

 二人の表情が和らいだ。


「シル、ごめん」

「もう、大丈夫よ」


 よしっ、効いてくれて助かった。


「敵は死鬼蜂だ。今は向こうに追いやったけど、針は飛んでくるから気を付けて」

「死鬼蜂ですって?」

「倒せるの?」


「どう倒せばいいか分からない。動きが速すぎて捉えられないし、範囲攻撃の魔法も避けられた」


――ガガガがガガガガガガ――


 また針が飛んできた。

 落ち着いて針を躱す。


「こんな感じで【固定】した空気も貫いてくる。俺のスキルじゃ防げない」

「逃げるしかないわね」


 名前に死が含まれるだけあって、狙われたら死を待つしかない。しかし、攻撃頻度は少なく単体攻撃のため運が良ければ逃げ切れる。勿論その過程で運の悪い奴らが何人か死ぬことになる。


「何言ってんのよ。所詮虫じゃないの」

「か、母さん?」


「あんなに小さいのにビビっちゃダメよ。魔力だってちょっとしかないじゃないの」

「あ、本当だ。魔力が大分少なくなってる」


 言われて気づいたが、相当魔力を消費していたようだ。

 あの針か。


「撃ててあと1〜2回かも知れないわね」

「それなら少し希望が見えてきたか?」


「あたっ」

 母さんからチョップされた。

 別に痛くはなかったが思わず声が出る。


「だから普通に勝てるわよ。そんな辛気くさい顔しないの」


 えっ、マジで言ってる?

 相手はあの死鬼蜂なのに?


「言ったじゃない。所詮虫だってシルは氷の魔法を使って辺りを凍らせて。エリーちゃんも【氷結フリージング】を地面にかけて。私は【水操作ウォーターコントロール】で倒すわ」


「返事は?」

「「はいっ」」


 氷で倒せる?

 えっ、母さん死鬼蜂の弱点知ってるのか?

 生き延びるには逃げるしかないと言われてる死鬼蜂だぞ?


「あ、でもその前にスキルの熟練度を上げておきましょう」


 俺とエリーは母さんの強気に圧倒されるばかりだった。母さん頼もしすぎるだろ。


 母さんに言われるがまま、各々スキルや魔石を使い熟練度を上げるために時間を使った。死鬼蜂にスキルは何も届いていないが、戦闘中に使用することに意味がある。


 その間に死鬼蜂は針で攻撃してきたが、それも一回だけで、それ以降は何も攻撃してこなかった。

 まだ少し魔力は残っているから、あと一回くらいは針攻撃をしてくるかも知れない。

 おそらく【固定】が解けるのを待っているんだろう。


「さて、そろそろいいかしらね。二人とも倒すわよ」

「「はい」」

 今回は完全に母さんが仕切っている。


「【水操作ウォーターコントロール】」

「【氷結フリージング】」


 俺も母さんに指示された氷の魔法を発動する。


「準備出来たわね。シル、【固定】を解除して」

「了解。3つ数えたら解除する。3、2、1、解除!」


 空気にかけた【固定】を解除すると、それを察知した死鬼蜂が待ってましたと言わんばかりに距離を詰めてきた。


「さぁ、くらいなさい!」


 母さんは上にとどめておいた水を豪雨のように強烈に降らせる。


 死鬼蜂はその雨を躱すことが出来ず地面に叩きつけられた。


――ブウウウウウウゥゥゥ······――


 そして次第に羽ばたきが弱くなっていく。


 何でだ?

 さっき【重力グラビティ】は躱されたのに、何故今の母さんの魔法は躱せなかったんだ?


 そう思いつつもこのチャンスを逃しはしない。


「【重力グラビティ】」

 俺は落ちた死鬼蜂に【重力グラビティ】をかけて押さえつける。


「あら、思ったより呆気なかったわね」


 こうなっらもう逆転はないだろう。


「とどめ刺します。【落雷サンダーボルト】!」


 エリーが【落雷サンダーボルト】を使った瞬間に死鬼蜂は息絶えたようだ。


「「きゃあっ」」


 そしてまた母さんとエリーのステータスにかけた【固定】が外れたようで二人はレベルアップしたようだった。


「二人とも大丈夫?」


 あ、またこのパターン?

 二人とも担いで帰らないと行けない感じ?


「う、うん」

「きついけど······今回は何とか」


「······良かった」


 そう思ったが、今回は二人とも気絶はせずに割と直ぐに元気になった。


 良かったけど、良くわからん。

 何で今回は気絶しなかったのか。

 単純に経験値が少なかったからか?


 まぁ、今回は3体しか倒してないしな。

 それよりも何で母さんは死鬼蜂の倒し方を知っていたんだ?

 そっちの方が気になった。

 

「ねぇ母さん。何で死鬼蜂の倒し方を知ってたの?」

 帰途につきながら母さんに尋ねてみた。


「ん? 知らないわよ。死鬼蜂って名前も知らなかったもの」

「えっ? そうなの?」

「でも、サラさん。魔法当ててたじゃないですか?」


 エリーも驚いて母さんに質問した。


「だって虫でしょ? 虫は寒さに弱いのよ。冬とかずっと動かないじゃない。それで動きが鈍くなったから当たっただけ」

「えっ、それだけ?」


「それだけって何よ。シルは気が付かなかったんでしょ? 虫何かにビビっちゃって情けないわね」

「いや、そう言われると厳しいな」


 っていうか、毒針くらってもビビってない母さんが逞し過ぎるんですけど。


「まぁ、でも皆で足りないところを補い合えばいいのよ。それがパーティでしょ?」

「そうだな。今回は俺一人じゃ勝てなかったと思うし。皆で掴んだ勝利だな」


 そう言ってポンとエリーの頭を叩く。


「そうね。シル、いっぱい感謝していいわよ」

 勝ち気にエリーが笑う。

 そうだな。エリーはこれくらいが丁度いい。


「じゃ、昼は肉食べよう」

「いいわね!」

「賛成!」


 この日は半刻程で探索を終えて、豪華な昼食を楽しんだのだった。


 ちなみに、死鬼蜂は素材的な利用価値はあまりなかったが、それでも貴重だということで3体で金貨1枚で引き取ってもらえた。

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