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第17話 称号

「あああああっ」


「母さん!」

「サラさん!」


 母さんは身を捩って苦しみだす。

 相当の痛みのようだ。


 しかし、何処にも攻撃を受けたような形跡はない。


 つまりこれは――


「レベルアップしたのか」


 収納していた毛布を取り出し、その上に母さんを寝かす。


 気がつけば母さんにかけた【固定】が解除されている。掛かりが弱いとは思っていたけど【固定】では抑えられないほどの経験値が溜まっていたということなのか?


「レベルアップでこんなに苦しむの?」


「ステータスを【固定】するとレベルアップも抑え込むからな。解除された時は大量の経験値が肉体を更新してその反動はでかい。俺がレベルが上った時は死ぬかと思った」

 

 三級というはるかに格上のモンスターを一人で倒したからか?

 いや、それ以前に相当オークを倒していた。三人で分散してるとはいえ、一人当たり100体近くオークを倒していると思う。たまっていた経験値は相当なはずだ。


 かなり焦ったが、母さんの呼吸は次第に落ち着いてきた。これなら大丈夫だろう。


「良かった。落ち着いてきた。オークジェネラルを倒すとエリーの【固定】も外れるかも知れないから一応覚悟しといて。無理そうなら俺が倒すよ」

「えぇ? わ、私が倒すわよ。置いていかれたくないもの」


 エリーはビビリながらも引かなかった。雷の魔法を使うことにしたので、一先ず母さんを魔法の範囲外に運ぶ。


「いいぞ。エリー」


 合図の後、エリーは魔法を放つ。

――バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ――

「ブゴオオオオオオオオオオ······」


 しばらく雷の音とオークジェネラルの叫び声が響き渡っていたが、やがて叫び声が消えた。


「きゃああ」

 オークジェネラルの魔力が完全に消えると。エリーが悲鳴を上げた。


 やはり【固定】は解除されている。


「ああああああああああああっ」


 母さんよりもエリーの方が得ている経験値は少ないはずだ。

 エリーの方が【固定】のかかりが弱かったから判断が難しいが、蓄積した経験値の量というよりも三級のモンスターを倒したことが原因なのか?


 おっと、エリーをこのまま倒れさせるわけにはいかない。

 母さんの時は完全に不意を突かれたけど、今回は想定出来たからな。


「よっと」

 倒れる前にエリーを抱き抱える。

 これは不可抗力だ。


 決してやましい気持ちがあるわけじゃない。

 俺は平常心だ。

 うん。女の子の匂いがする。


 オークジェネラルを収納してエリーを母さんのところまで運ぶ。

 エリーも相当キツそうだったけど、既に呼吸は落ち着いている。レベルが元々高かったから反動にも耐えやすかったのかもしれない。


 エリーを抱えながら相当軽いなと驚く。

 今思えば母さんも軽かったな。

 筋力が上がった影響を改めて感じることが出来た。


 とは言え、これからどうするか。

 二人とも目を覚まさない。


 このままダンジョンにいて目を覚ますまで待つのもありかも知れないけど、何が起きるか分からないから長居はしたくない。


 仕方がないので2人を両肩に担いで帰ることにした。


 【身体強化】を使い、急ぎダンジョンを脱出した。2人を担いで走っても息は切れない。体力が減らないため全く疲れなかった。


 2人を担いで帰ると一瞬ギルド内の空気が固まった。どうも二人が死んでしまった、もしくは相当な重傷だと思われたようだ。


 二人が気を失っているだけだと分かると安堵の息が漏れたが、俺には刺すような視線が向けられていた。


 ギルドの診療所で2人を寝かせてもらうことが出来たので、目を覚ますのを待ちながらギルドマスターに何が起きたのかを説明した。


「······」

 説明を終えるとギルドマスターは眉間に手を当てて、渋い顔で考え込む。


「オーク2〜300体をたった三人で? ジェネラルオークをあの二人も1体ずつ倒した?」


 小声でブツブツと独り言のように話していたが、一応聞こえたので答えておいた。


「そうですね。その経験値でレベルアップしたので二人は反動で気を失ってしまいました」


 ギルドマスターはゆっくり息を吐き、目線を上げて俺を見据えた。


「なぁ、シルフィス。お前のスキルは自分だけじゃなくて他のやつも無敵に出来るのか?」

「そうですね。体内魔力のせいか俺自身に使うよりもスキルが掛かりにくいのは感じますが······ある程度は効果を及ぼせました。レベルが高い人に使えるかどうかは分かりませんが」


「そうか······、お前と一緒にパーティ組めるやつらが羨ましいよ。それでお前はまだレベル2のままなのか?」

「そうですね。まだ暫くは上がらないと思います」


「オークジェネラルを倒す冒険者が十級のままなのか······」

「レベルを上げようと思えば上げるのは簡単ですが、それだと強くはなれないのでじっくり上げていきたいと思っています」


「それだと一級になるのは相当先になるぞ? レベルが低くても強いやつはいる。だがそういう奴は直ぐに実力に見合ったレベルまで上がるからな。冒険者のランクは純粋にレベルで決められてるんだ」

「そうですね。俺も『出遅れ』って言われてますから早くランクは上げたいですけど、だからと言ってそのために将来得られるはずの強さを捨てたくはないんです」


「まぁ、そうだろうな。俺がお前の立場ならそうするよ。それならもう一つ聞かせてくれ。騎士に興味はあるか?」


 騎士も冒険者と並び男の子の憧れる職業の一つだろう。俺も小さい頃は憧れた。


 だが、今その憧れはもうない。

 騎士は下級とは言え貴族であり、冒険者を見下すのだ。

 そのことを知ってからは憧れは消えた。むしろ極力関わりたくない存在だ。


「いえ、全く」


 貴族は優雅なイメージがあるが階級社会であり、騎士はその最底辺でもある。

 名誉ある立場ではあるが、色々と縛られる立場でもある。それなら俺は気楽な冒険者の方が良い。


 司祭様との約束もあるからな。俺は世界一の冒険者を目指したい。何処までいけるか自分でも見てみたい。

 

「なら覚えとけ。貴族は稼ぐ冒険者を騎士として召し抱える事があるのは知ってるだろ?」

「はい」


 それを期待する冒険者も多い。


「稼ぎが大きい冒険者、特にランクの低い冒険者で稼ぐ奴は目をつけられやすい。今のお前はかなり目立っているからな。変に目をつけられないように気を付けろ」

「えーっと、オークの素材が山程あるんですけど売ってもいいですか?」


 やれやれとギルドマスターは首を振る。

「今の話聞いてたか? まぁ3体は引き取ろう。後は売らずに持っておけ。マジックバッグの中なら多少は保ちがいいはずだ」


「あ、そうなんですか? 初耳です」

「俺も原理は良く知らんが、マジックバッグの中は時間の流れが遅くなるぞ。物によって変わるかもしれんが、俺が使ってるやつは出来立ての飯を入れとくと一日経ってもそこそこ温かいからな」

「それは知りませんでした。ありがとうございます」


 これはいいことを聞いた。

 今度確認してみよう。【収納庫ストレージ】もその効果があるかも知れないしね。


 悪くならないなら自分たちで食べるためにある程度持っておいてもいい。食べきれないとは思うけども。


「あと、高級素材を大量に売ると買取価格が落ちるからな。他の冒険者の生活にも影響が出る。そのことも頭に入れとけ」

「あ、なる程。勉強になります」


 取り敢えずオークを3体売却し、別に3体を解体してもらい肉を引き取った。

 3体の売却金額は金貨30枚になった。

 ポイズンリザードより遥かに小さいのに同じくらいの値段で売れた事に驚いたが、肉の値段を考えると不思議ではない。

 流石は高級肉だ。


 解体所の担当者には丸々3体、しかも殆ど損傷のないオークの素材に驚かれた。

 普通は倒しても1体丸ごとをギルドまで運ぶことは出来ないらしい。


 色々やって時間を過ごしたが、エリーと母さんは目を覚まさなかったので、二人はそのまま診療所に泊めてもらうことになった。


 次の日、朝一番にギルドに向かうと、二人とも目を覚ましておりとても元気そうだった。


「良かった。2人ともおはよう。元気そうだね」

「あ、シル! おはよう」

「おはよう、シル。そうね。とても調子いいわね。シルがギルドまで運んでくれたんでしょ。助かったわ。ありがとね」

「私も。ありがとう」


「いやいや、そんなの当たり前だから気にしなくていいって。それに母さん。かなり若々しくなってない?」

「あら? やっぱり? 何かエリーちゃんにも同じこと言われたのよ」

 それでか。母さんはかなり上機嫌だ。


「二人ともレベルアップしたんでしょ? ステータス見せてもらっていい?」

「いいわよ」

「もちろんよ」


『サラ:レベル5

 HP:72

 体力:38  

 魔力:42

 筋力:38

 敏捷:35

 頑強:40

 知能:40

 感覚:48

 スキル∶【精密】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】

 称号∶【絶望を超えし者】』


『エリー:レベル15

 HP:182

 体力:68  

 魔力:82

 筋力:68

 敏捷:64

 頑強:70

 知能:78

 感覚:64

 スキル∶【鼓舞】、【物理耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【風魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【氷魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】

 称号∶【絶望を超えし者】』


 エリーは子供の頃にステータスを得ていたので数値はかなり高い。ステータスはレベルアップしなくてもトレーニングしたり成長することでも変化する。その代わり基準値も低くなる。

 それを踏まえてもエリーのステータスはかなり高い。母さんもかなり伸びている。


 ただ、複数の属性を組み合わせたような魔法は覚えていないようだ。あと、体力や魔力を回復させるスキルも覚えていない。


 経験値が足りなかったからだろうか?

 魔法系のスキルに関してはそうかも知れないな。

 回復関連のスキルは俺の【固定】がやっていたことで二人はそこに関して何もしていなかったからスキルを得られなかった可能性はある。


 そして何より気になるのは――


「称号がある!」


 レベルアップの際に極稀に称号を得ることがあるらしいが初めて見た。


 称号はスキルみたいなもので特別な効果を発揮する。ただスキルと違うのは魔力を消費しないのだ。


 気になるのは称号の内容だな。


「絶望するようなことってあったっけ?」

「う〜ん。無かったわね」

「身に覚えはないのよねぇ」


 二人が称号を得ていると言うことは、俺も同じ称号を得ている可能性はある。

 でも絶望したような状況は無かった。逆にオーク達に絶望を与えていた可能性の方が高い。


「ただ、似たような称号なら知ってるわよ」

「お、流石受付嬢」

「元・受付嬢ね。【逆境を超えし者】って言う称号があって、それは自分たちよりランクが上のモンスターに囲まれて生き残った人につく称号みたい」


「ああ〜。それなら何となく分かるかも。オークに囲まれてたからな」

「自分たちが絶望を感じたかどうかではなくて、状況そのものが条件ってことね」

「オークのランクは私よりも二つ上だったし、数も凄く多かったから普通なら絶望的な状況よ」


 そう考えると、普通だったら死んでてもおかしくない状況だったわけか。


「ちなみに効果が何だったか分かる?」

「確か、似たような状況になるとステータスが上がる······だったかしらね」


 なる程な。その効果が分かってるってことは、2回以上ランクが上のモンスターに囲まれた運の悪いやつがいたってことだな。

 いや、生き残ったなら運がいいのか?


 何にせよ発動にも条件があるなら効果を発揮する機会があまりない称号のような気がする。


「まあ、それと似たような効果なんだろうな」

「ランクの高いモンスターに囲まれるって状況がそうそうないからね。飾りになりそうね」


 称号はもってるだけで箔が付くからな。


「あ、そうだ。二人ともはいこれ」

 二人にそれぞれ金貨10枚ずつ渡す。


「昨日のオークを売った分。3体だけ買い取ってもらえて金貨30枚になったんだ」


「えっ? こんなにいいの?」

「あんな短い時間でこんなに稼げてしまうなんて······」


 二人とも驚いているが、母さんに至っては金貨を持つ手が震えている。


 昨日何百体とオークを倒し、そのうちのたった3体を売った金額で一人金貨10枚も貰えたのだ。

 母さんにとってみれば金貨10枚は年収とそう変わらない。その事に衝撃を受けているようだった。


 今日はダンジョンに潜らず休日にして、二人のレベルアップと昇級をお祝いすることにした。

 そう。肉を食う日にしたのだ。

 レベルが上がったことで、母さんは九級に、エリーは七級にそれぞれ昇格となった。


 また、今後の報酬の分配や、自分をどう成長させていきたいか、今後のパーティの活動場所や訓練の内容について三人で話し合ったのだった。


 

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