第16話 肉祭り
「ねぇ······シル。こんな···ことして······意味···あるの?」
「ああ、俺はこの方法で強くなったぞ」
「私······もうムリ」
「エリー、頑張れ。俺のスキルで体力は直ぐ回復するから頑張れるはずだ」
「おばさんにはキツイわぁ」
「母さんも頑張って」
エリーと母さんと3人でダンジョンの一階に潜っている。人目につかないように奥まで進むと訓練を開始した。
取り敢えず二人のステータスを【固定】した。
何か掛かりが弱いのだが一応は固定できているっぽい。
固定して気づいたのだが、固定しても二人の魔力はブレなかった。その代わり俺の魔力のブレが大きくなった。
まぁ、そうなるか。
多分、2人が魔力を使えばブレるんだろうと思っていたが、試した結果やはりそうなった。
それで今は【重力】を俺達3人に掛けて負荷をかけている。
そんな中、各々が魔導具を使っている。
俺は新しく購入した送風の魔導具で風を起こしている。
母さんは着火棒とランタン、エリーは水筒とマジックバッグを使用している。
魔導具は順番に交換しながら使っている。
そんな俺達にスライムがビシバシ突っ込んでくるが、打たれるがまま放置している。
俺が使う魔法も【重力】だけでなく、たまに威力を落とした【落雷】も順番に使っている。【落雷】を自分達に使っている時にスライムが突っ込んで来ると勝手に自滅するのでスライムが増えると使うようにしている。
2人に耐性が付いたら次は【火弾】でも耐性が付かないか試してみようかと考えているが、火弾】だと服が燃えると思うので何か方法を考えないとダメだなとは思っている。
自分でも自覚はあるが、客観的に見て狂気を孕んだ訓練であるのは間違いない。
「シル、こんなことしてたのね······。強くなるって······大変なのね」
「でも、絶対に強くなれるから二人とも頑張って」
二人ともキツそうではあるが、力強く頷いた。
「まぁ、出産よりはマシかな」
母さんの言葉が重い。
そうか、出産は命懸けだしな。
母さんに頭が上がらない。
ホーリースライムが出るのは倒したスライムの数ではなく、ダンジョンから吸収した魔力量だと思われるのでスライムを倒すことにこだわってはいない。
二人には魔力の流れや魔力を使う感覚に意識を向けてもらっている。
スライムを倒して次のスライムを探すまで間が空くよりは、スライムに攻撃させ続けた方が経験値効率は良いのではないかと思っているので絶え間なく攻撃してもらえるように全滅させることはしない。
エリーに関してはスライムは格下のモンスターになるので経験値の入りはあまり期待できないが、それでも多少は入るだろう。
狙いは当然宝箱とその後に出てくる格上のモンスターだ。
そこで一気に経験値を稼ぎたいと思っている。
3人で訓練しているためか中々に魔力の吸収量がいい。
試してみたら、足からもスキルを使用することが出来たので、【魔力吸収】を使用してダンジョンから吸い上げている。
その結果、半刻も経たずにホーリースライムが三匹出現し、宝箱が出現した。
エリーと母さんは当然興奮していたが、早すぎて俺も驚いた。
中に入っていたのは青い魔石だった。
早速魔石に魔力を込めてみたら、周囲の温度が下がり地面が凍りついた。
宝箱の中にから出てくる魔石の属性はどれも一般的なものではない。
この魔石たちの魔法を修得するだけでも相当強くなれるのは間違いない。
そうこうしているうちに、格上モンスターの出現を感知した。
だがこれは······複数いるのか?
まさか複数で現れるとは思っていなかった。
嫌な予感が過るが、こうなってはもう引けない状況だ。何とか2人を守りきらないといけない。
幸にして母さんの武器は弓、エリーはスキルが【鼓舞】で支援系のため後衛となる。
俺が正面で迎え撃てば守り切ることは出来るだろう。
そう思っていたら後ろからもモンスターの魔力を感知する。
「ゴメン、二人とも。後ろからもモンスターが来る。警戒して」
「「了解」」
何だ?
これはモンスターが······増えていってるのか?
やがてモンスター達が姿を現す。
そのモンスターは猪顔の二足歩行。身の丈は俺の1.5倍ほど。横幅は俺の倍以上あり、重量感に溢れた体躯をしている。手には棍棒を持っている。
「オーク!」
オークが次々と現れる。
人を上回る巨大と、武器を操る知性を持っている。そのため強い。
並の冒険者では倒せない。ランクは六級だ。
本来の出現階層は15階であるためその肉は高級肉として市場で扱われている。
一体一体は俺の敵ではない。
どういう事だ?
今回はご褒美回なのか?
良く分からないが、ご褒美ならありがたく受け取らないとな。
「【固定】」
オーク達の体周辺の空気を固定し前進を止める。オーク達は突然見えない壁に阻まれ混乱していた。
「母さんは【精密】を使って矢が切れるまで矢を放って。狙うのは顔ね」
「分かったわ」
「エリーは【鼓舞】を使ってくれ。効果が切れる前に次の【鼓舞】を使うようにして。その間は魔導具と魔石を使って魔法の訓練をしてくれ」
一旦【重力】を解く。かけたままだと矢が当たらないからな。
「ああ、体が軽いわ」
「よし、【鼓舞】」
エリーのスキルで皆の体が淡く光る。
本来ならこれで一時的にステータスが上がるのだが、【固定】しているため上がらなかった。
司祭様曰く、スキルの効果が衝突する場合、熟練度の高いスキルが効果を及ぼすらしい。
つまりエリーの【鼓舞】と俺の【固定】では【固定】の熟練度の方が高かったということになる。
母さんは拙いながらも矢を放つ。
当然弓は素人なので矢はまともに飛ばなかった。
ところが【精密】を使っているからなのか矢を放つたびに狙いに近づいていく。
構えは明らかに変だ。
弓を持つ腕は伸び切ってないし、引く手は顔の前、鼻先まで引いて矢を放っている。体も敵に対して正面を向いたままだ。
うん。母さんには弓の訓練を受けてもらおう。
それなのに【精密】のお陰なのか矢がオークの顔に当たり始める。ただ、構えが個性的すぎるせいか矢の威力は強くない。
頭蓋骨を射抜くには至らないようだ。
しかし、何度か矢を放ち続けると正確に目を捉えるようになった。
流石に目を射抜かれるとオークでも相当なダメージを受けていた。
「何であれで当たるんだ?」
良く分からないが、母さんは何年も【精密】を使い続けてきた。熟練度はかなり高いのかも知れない。
しばらくすると矢が尽きたので母さんにも魔導具を一通り使ってもらい魔法を発動してもらった。
ここまでは準備運動だ。
オークも動かないただの的だし、危険も無かった。
エリーに黒い魔石、母さんに黄色い魔石を渡す。
「今日の訓練はここからが本番だから。これに魔力を込めて魔法を発動させて。俺達も感電するし、重力もかかるけど、オークも倒せるはず」
「ウソでしょ? オークと戦いながら訓練するってこと?」
「シル、母さんそろそろお昼寝したくなってきたわ」
いや、母さん。やりたくないからってその言い訳はないでしょ。こんなにオークに囲まれて本当に眠くなってたらある意味凄いよ。
「オーク程度なら危険もないし、訓練しながらが戦うのが丁度良いんじゃないかと思うよ」
「「······」」
二人は何も言わず固まっている。
「じゃあ、5つ数えたらオークにかけた【固定】は解除するから」
「くっそぉ、やってやるわよ。シルについていくにはこれぐらい出来なきゃ無理ってことでしょ」
「お、オーガよ。シルはオーガになってしまったんだわ」
二人は自棄気味に魔石に魔力を込め始める。
「5、4、3、2、1、解除」
【固定】を解除したことでオークが動き出す。
――バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ――
――ズゥゥゥゥゥゥン――
「シルルルルルルル······ムリリリリリリリリ」
「アバババババババ······」
「二人とも頑張れ。今は格上のモンスターを相手にしているから経験値はガンガン入ってきているはずだ。耐性も直ぐにつくはず。段々楽になるよ」
俺も青い魔石に魔力を込める。
――パキパキパキパキ――
気温が下がり地面が凍る。
魔石の魔法は指向性がなく無差別に周囲に影響を及ぼす。
範囲は大体20歩から30歩の間くらいだろうか。
オーク達は足が凍りつき、重力で動けなくなり、感電して死に至る。
次々とオークが倒れていくが次から次へとオークが押し寄せてくるので直ぐに足場が無くなる。
「【収納庫】」
俺は嬉々として死んだオークを収納していった。
「あ、確かに楽になってきたわね」
母さんはもう耐性がついてきたようだ。
「そう······ですね。私も······少しはマシになったかも」
エリーの方がレベルが高いから得られる経験値が低いのだろう。
母さんは感電してても普通に喋れている。
重さもさほど感じなくなっているようだ。
「あ、私ももう大丈夫かな」
更に数十体程倒すとエリーも耐性を獲得できたようだ。
レベルが上がってからスキルを得ようとすると大変だというのがよくわかる。三人で経験値が分散されるとは言え、格上のモンスターを数十体倒して漸くか。
とは言え、普通に訓練して何年もかかるところを一刻とかからず修得しているのだから相当早いけどな。
これで二人ともレベルアップすれば、ステータスに耐性のスキルが表示されるはずだ。
「でも、最初は怖かったけど、ここまで簡単に倒せるのが分かっちゃうとオークというよりは最早お肉にしか見えないわね」
「あら、エリーちゃんも? 私もねぇ、さっきから笑いが抑えられないのよ。うふふふふ」
「か、母さん?」
「さぁ、祭りよ。肉の収穫祭よ!」
「サラさん。肉祭りですね!」
あ、あれ?
二人とも訓練がキツすぎておかしくなっちゃったかな?
「死ねぇぇぇ」
「肉ぅぅぅ」
二人とも叫びながら魔法を発動している。
ちょっと訓練見直したほうがいいかも。
「えっと······、魔石交換してやってみようか」
耐性が獲得できたので魔石を交換しながら魔法を発動し、経験値を獲得していく。
白い魔石の魔法を発動したら、不思議と落ち着いてくれた。
うん。良かった。
落ち着いてくれて。
白い魔石の魔法には精神を落ち着かせる効果もあるのかも知れない。
二人が積極的にオークを倒したいようなので俺はサポートと手持ちのスキルの訓練に勤しんだ。
しかし、いつまでオークが湧き続けるんだろうかと不思議に思っていたら、突然オークの波が止まった。
何体かオークは残っているが、こちらに攻めてこなくなった。
「どうやら終わりが見えてきたな」
魔力を感知すると奥にやけに魔力の小さいモンスターが3体いる。
どうも、オーク達はその3体のモンスター達を守っているようだ。
「奥に蹲ってるモンスターが3体いる。あのオーク達はその3体を守ってるっぽい」
「あれ······オークジェネラルよ!」
エリーはモンスターの正体が分かったようだ。
「なる程な。道理でこんなにオークが湧くわけだ」
「オークジェネラルって言ったら、超高級お肉じゃないの!」
母さんの少しズレたコメントはいいとして、オークジェネラルは野生よりもはるかにダンジョン産の方が強い。
オークジェネラルは仲間を呼ぶスキルを持っていて、野生の場合は集落からオークを呼ぶのだが、ダンジョン内ではオークは集落を作らない。
ダンジョン産オークがスキルを使うと呼び寄せる代わりにダンジョンがオークを生み出すのだ。
オークジェネラルのランクは三級とされているが、それはオークジェネラル単体のランクで、オークの群れを伴った場合は一級冒険者パーティでさえ全滅した記録がある程強くなる。
それが超高級お肉にしか見えない母さんは逞しいとしか言いようがない。
「シルじゃなかったら、スタンピードが起きてたかも知れないわね」
「そうだな」
エリーの一言でゾッとした。
確かにそうかも知れない。
多分、2〜300体くらいのオークを倒している。
確認はしていないけどそれだけのオークが『食べる』モンスターだったら?
大量のモンスターがダンジョンから這い出たかも知れない。
「シル、何としても最高の状態で仕留めないといけないわ」
母さんや。
真面目に考えていたのが何か馬鹿らしくなった。
まぁ、変に考え込むよりいいか。
「あぁ······そうだね。でも経験値的にもかなり多く入ると思うから一人一体仕留めたいと思う。使ったスキルは大分熟練度が上がるから神授スキルは必ず使ってから倒すようにして」
「まったく······十級冒険者の会話とは思えないないわね」
エリーがやれやれと呟く。
「二人とも耳塞いで。【落雷】」
耳を防ぎながら魔法を発動する。
一先ずオークジェネラルを守っていたオーク達を始末した。
「【収納庫】」
残ったオークジェネラル達は魔力が切れかけていて、辛うじて気絶を免れているといった様子でかなり消耗していた。
色んな意味で美味しい相手だ。
「取り敢えず1体は先に俺が倒すから、二人で残り2体倒して」
二人が安全に倒すなら魔法を使うしかない。しかし魔石の魔法は範囲攻撃なので1体ずつ倒すのは難しいのだ。
「【熱線】」
ただの的であるオークジェネラルの頭を撃ち抜いて始末した。
「じゃあ、次は私がやるわ。ちょっと試したいことがあるのよ」
そう言って母さんが名乗り出る。
「へぇ、じゃあお手並み拝見だね」
1体だけ倒す手段があるのだろうか?
母さんの手には青い魔石が握られている。
「【精密】」
どうも【精密】を使いながら魔法を使うようだ。
すると驚いたことに、魔法の範囲が狭まりオークジェネラル1体のみに魔法を発動させた。
――パキパキパキパキ――
オークジェネラルは氷漬けになった。
呼吸も出来ないだろうから直に死ぬだろう。
「サラさん凄い!」
「へへっ、私もやるもんでしょ」
そう言って腕を曲げ力瘤をつくってくる。
「いや、正直言って驚いたよ。【精密】でこんな事が出来るなんて······」
もしかして、魔法を使わせても凄いんじゃないだろうか?
【精密】ってあんまり強そうに思えなかったけど、スキルは熟練度次第で強力になる。そのことを再認識した。
「きゃあっ」
敵も残り1体。
その敵ももう弱り果てている。
だから油断していた。
警戒もあまりしていなかった。
ドヤ顔していた母さんが突然叫び声を上げて倒れたのだった。




