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第15話 賭け

「『出遅れ』先ずは俺が相手だ。訓練場にこい!」

「てめぇ、何勝手に決めてんだよ。俺が先だ」

「ふざけんなオメェら。ここは年長者に譲れ」

「まぁ、あんたらは言い争ってればいい。『出遅れ』行くぞ」


 決闘の権利を有する冒険者達が誰が先に俺と決闘するかで揉めている。

 ギルドマスターが特例で認めたのは俺との決闘だけだ。通常パーティの所属メンバーを巡っての決闘は認められていない。本人の意思に任せられるべきことだからだ。


 ギルドマスターも俺が勝てるという確信があるから言ったことで普通は認めていいことではないと思う。

 

 当然、冒険者の中でも上位の彼等は俺に負けるなど微塵も考えていない。つまり早い者勝ちなのだ。

 最初の一人が勝者となると信じて疑わない。


 あぁ、無駄な時間が過ぎていく。

 今日は買い物で時間を使ったから早くダンジョンに潜りたいんだけどな。「ちょっとダンジョン潜ってるんで、出てくるまでに順番決めといて下さい」とか言えたらいいんだがとてもじゃないけど口に出せない。


 決闘の権利を得られなかった冒険者からは怨嗟の声が漏れているが、既に賭けを提案し始める者もいた。ただ、順番が決まらないことには賭けも始まらない。


「ああ、一人ずつは面倒なんでまとめてかかってきてもらってもいいですか?」


「ああ? 何だとコラ?」

「舐めてんのか?」

「ふざけんなよ」

「上等だコラ」


 冒険者達に母さんがとんでもないことを口走っていた。いや、闘うの俺なんだけど。


「ちょっと、母さん。何言っちゃってるの? エリーが賭かってるんだよ?」


 思わず突っ込んでしまった。


「ふざけんなママに逆らってんじゃねぇ」

「逃げんのか? 『出遅れ』」

「こうなったら全員で闘おうや」

「一度口にしたんだ。引っ込めんじゃねぇぞ」


 文句を言いつつも四人も本心では全員で闘いたいようだ。


「シル。エリーちゃんが賭かってるのにあんな奴等に負けるっていうの?」

 母さんが小声で凄んでくる。


 母さんも、エリーも、ギルドマスターも俺が三級のモンスターを討伐していることを知っている。だから負けるわけないと思ってるんだろう。


 俺はダメだな。長い間蔑まれてきたせいか無意識に怒らせちゃいけないと思ってしまう。それで頭では負けないと思っていても、何故か弱腰になっている自分がいた。

 習慣とは恐ろしいものだ。

 

「分かった。時間が勿体ないし四人全員を相手にする。そっちの全員を倒したら俺の勝ち。そっちは最初に俺を倒したやつが勝ち。それでいいか?」


「おうおう、『出遅れ』のくせに言うじゃねぇか。乗ってやるよ」

「俺はそれで構わねぇぜ」

「俺もだ」

「ワリィな。競争となったら手加減出来ねぇぞ。死んでも文句言うなよ」


 相手の四人が了承したので五人で闘うことになった。まぁ、相手も手を組むことはないだろうし。寧ろ負担は減るかも知れない。


 対戦が決まったことで賭けも動き出す。

 しかし、一対一からバトルロイヤルに変わったことで賭けが複雑化し、賭けに参加する冒険者も大勢いたため、賭けはギルドが仕切ることになった。


 ギルドが賭けを仕切ったことで決闘参加者のレベルが発表された。レベルは冒険者のランクで推測可能なので秘匿する対象とはなっていないのだ。


「ザッカス∶『紅蓮の翼』所属レベル24、バルバ∶所属なしレベル24、マイン∶『勝組』所属レベル24、ローエン∶『闘剣』所属レベル24、シルフィス∶所属なしレベル2、以上。さぁお前ら賭けろ」


 エリーのパーティ所属を賭けた決闘なので、同じパーティから複数人出場するのは禁止されたのだが、誰も被っていなかった。


 俺達は今朝買い物をしてきたからギルドについたのは大分遅かった。今日仕事がある奴らはとっくに居ない。

 今朝からなのか、昨日の夜からなのかは分からないが酒場で呑んだくれているのが今いる奴らだ。

 ソロで活動しているバルバってやつはいいとして、他の奴らは仮に勝ったとしても後でパーティメンバーから怒られたりしないのだろうか?

 まぁ、酔っ払いだから何も考えていないのかも知れないが。


「レベル24が4人もいたら賭けるのが難しいだろう。だからこうする。どっちかに賭けろ。シルフィスが勝つか、それ以外が勝つかだ。俺はシルフィスが勝つ方に金貨10枚出す」


――ワァァァァァァァァ――


「シルフィス以外に銀貨5枚」

「シルフィス以外に銀貨10枚」

「シルフィス以外に大銀貨2枚」

「シルフィス以外に銀貨8枚」


 そして、賭けの対象も何かおかしい。

 普通なら5人のうち誰が勝つかを賭けるのものだろう。

 そして普通に考えたら全員が「シルフィス以外」に賭けるため賭けが成立しなくなる。でもギルドマスターが俺に大金を賭けたものだから場が盛り上がった。


「私はシルに金貨30枚賭けるわ。ほらシルお金出して」


 えっ、母さん。

 こんな豪快に賭ける性格だったっけ?


 まぁ、今までお金がなかったから賭ける機会がなかっただけかも知れないけど。

 とは言え、当然俺も自分に賭けるつもりだっため背嚢からお金を出すフリをして【収納庫ストレージ】から金貨を取り出して母さんに渡す。


 俺が思いがけない大金を出したのでどよめきが起きた。


 この類の賭けの場合、賭けた分お金が倍になって戻って来るわけではない。

 賭けられた総額のうち、ギルドが手数料で幾分か持って行くが、残りが勝者側の総取りとなり、賭け金の割合に応じて分配される。


「それならシルフィス以外に銀貨15枚」

「俺もシルフィス以外に大銀貨5枚」

「シルフィス以外に銀貨25枚」


 総額が一気に増えたことで賭けが過熱した。

 稼げるってことは強いということだ。


 ギルドマスターが俺に高額を賭けているのに酔っ払い達は疑うことなくレベルの高い4人組に賭けていく。


 賭けを成立させるだけなら2択にせずに、単純に誰が勝つかという賭けにすればいいだけだ。


 ギルドマスターが呑んだくれて騒ぎを起こした冒険者達を懲らしめるためか、もしくは単純に儲けたいからこんな賭けの内容にしたんだろう。


 ギルドの職員達も賭けに参加していて、俺に賭けてる人達もいた。あと、賭けを怪しんだごく僅かな冒険者が俺に賭けただけで大半は「シルフィス以外」に賭けたようだ。


「シル、私も当然シルに賭けたから儲けさせてね」

「任せとけ」


 エリーもちゃっかり賭けたようだ。

 不安はないんだろうか?

 まぁ、信頼されてるなら応えないとだよな。


 ギルドマスターや俺が三級のモンスターを討伐していることを知っている職員はニンマリしている。


「よぉし、場は整った。お前ら準備はいいか······ではこれよりエリーのパーティ所属を賭けた決闘を開始する。シルフィスは四人全員を倒した場合勝利、他の4人は最初にシルフィスを倒したものを勝者とする。異存はないな?」


 四人は頷く。

 俺は手を挙げた。


「ん? 何だシルフィス」

「異存はないですが、一つ提案です。途中で降参したくなったら体を分かりやすく3回叩くってことにしませんか?」


「何だぁ、もう降参するつもりなのか?」

「殺すのは勘弁してほしいってか?」

「安心しろ手加減はしてやる」

「もう負ける気満々じゃねぇか」


 何か怒られるかと思ったらそうでもなかった。一応あんたらのための提案だからな。反対されないのは良かった。


「では、降参の合図は体を三回叩くこととしよう。決闘のため生死は問わないがなるべく殺すなよ。では、各々距離を取れ」


 俺は訓練場の中心に立ち、他の四人は俺を中心に四方に10歩ほど離れた。


 俺は四方から襲われることになるが、これが公平な開始位置らしい。


 公平とは?


「では、始め!!!」


 ギルドマスターの声が響く。


「「「「死ねぇ」」」」

「【固定】」


 冒険者として手の内は晒したくないので使うスキルはこれだけだ。


「なんだ、このとてつもない魔力は······」

「「「「········」」」」


 ギルドマスターが独り言ちるが、それに答えるものはいない。


 四人の冒険者は一斉に俺に飛びかかろうとしたが、突如動きを止めた。


 昨日、母さんが冒険者になるというので母さんのステータスが【固定】出来ないかを試してみた。

 結果は一応固定出来たのだがいつ解除されてもおかしくないくらいの不安定さを感じた。


 ついでに母さん自身を【固定】して動きを止められないか試してみた。

 結果、こちらは殆ど止められなかった。


 魔力を多く宿した物や生物には、内在する魔力が邪魔をして魔法やスキルの効果を及ぼしにくくなると司祭様が言っていたのを思い出した。


 例えばモンスターの体内に【爆発エクスプロージョン】を発動して倒そうとしても、体内魔力に邪魔されて発動できないということだ。そんな都合のいいことは出来ないのだ。


 【固定】スキルにもそれが当てはまるようで、母さん自身を【固定】することは出来なかった。


 そんなわけで俺は四人を固定したわけじゃない。四人の周辺の空気、もっと言えば頭周辺の空気を固定したのだ。


 それにより頭の位置が固定され、四人は俺に襲いかかる事が出来なくなった。


 と言うよりも空気が動かないため息をする事が出来ない。


 四人とも突然呼吸が出来なくなり、パニックになりもがき苦しんでいる。でも、空気が動かないため声を出すこともできない。


 耳の周辺は【固定】していないため、声は聞こえるはずだ。


「死ぬ前に合図してくれ」


 その言葉で思い出したのか、ザッカスとローエンは隙かさず体を三回叩き降参した。


 ほらな、予め降参の合図を決めておいて良かっただろ?


 二人の周辺空気の【固定】を解除すると二人とも崩れ落ちた。


「ザッカス、ローエンお前らは負けだ。下手に動くなよ」

 ギルドマスターが念押しする。


 観戦している冒険者達から悲鳴が上がる。


「何降参してんだよ!」

「根性見せやがれ!」

「ふざけんなちゃんと闘え!」

「何で誰も『出遅れ』を殺らねぇんだよ!」

「マイン、バルバ、動いてくれ!」


 まぁ、観客は何が起きてるか全くわかんないだろうからな。


「嘘だろマイン」

「残るはバルバだけだ」

「頼む、バルバ。お前にかかってる」


 間を置かずマインが降参したので【固定】を解除した。マインは必死に息を吸っている。


 残るバルバも長くは保たなかった。


 こればっかりは根性じゃなくて、どれだけ息を吸っていたかで決まるからな。


 初見殺しの技だから、もし次があれば何かしらの対策は取られるかも知れない。

 そう考えたら四人同時に相手にしたのは正解だったのかも知れないな。


 そう思いつつ降参したバルバの【固定】を解除した。


「ウソだろ! ウソだと言ってくれ!」

「あの四人が手も足もでずにやられたってのか?」

「一体何が起こってたんだ?」

「ふざけんな、八百長だろ金返せ!」

「ウソだろ、有り金全部突っ込んだってのに」


 負けた冒険者達の叫びが響く。


 ギルドマスターが俺に近づいてきて一言漏らした。

「お前、とんでもねぇな。見事だった」


 そして俺の手を取り高々と掲げた。


「勝者シルフィス!!」

 

「よっしゃあ!」

「やったぁ!」

「よく分からんが、良くやった!」

「やるじゃねぇかシルフィス!」


 俺に賭けた一部の冒険者やギルド職員から賛辞の声が上がった。


「八百長って言ったやつと判定に不服のある奴は後で俺のところに来い!」

 ギルドマスターに呼び出しをくらい。八百長呼ばわりした冒険者は逃げ出していった。


「俺も稼がせてもらった。エリーのことはお前を利用した形になって悪かったな」

 ギルドマスターがにっこりと笑った後に謝ってくれた。


「いえ、エリーも気にしてないみたいですし、俺も周りの対応が変わりそうなんで決闘して良かったと思ってます」


 それに少し楽しかった。


 その後、母さんの冒険者証を発行してもらった。

 遅くなったので酒場で昼御飯を食べてからダンジョンに向かうことにした。


 この日は酒場で食事していても誰も『出遅れ』とバカにしてくる奴はいなかった。

 それが何とも心地よかった。

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