第14話 母の決意
◇聖神教会◇
「司祭様、ようやくレベルが上りましたよ」
「おお、本当ですか。もしよろしければステータスを見せていただけますか?」
レベルアップの報告をすると司祭様の目が輝いた。
「もちろんです。ステータスオープン」
『シルフィス:レベル2
HP:80
体力:42
魔力:52
筋力:34
敏捷:33
頑強:48
知能:30
感覚:32
スキル∶【固定】、【物理耐性】、【体力超回復】、【魔力超回復】、【自動回復】、【魔力吸収】、【猛毒耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【爆裂魔法】、【熱線魔法】、【幻影魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】』
「おおおおお、何というステータス。何というスキルの数。レベル2にしてこれ程とは············さぞ、レベルアップの時も苦しかったでしょう。それも含めて今まで良く耐えましたね」
司祭様の労いがとても嬉しい。
本当に死ぬかと思ったからな。
「司祭様の助言とご指導のお陰です。本当にありがとうございました」
心から頭を下げる。
この人の助言が無ければここまでのステータスとスキルは得られなかった。
「シルフィス君、君はきっと世界で一番の冒険者になるでしょう。その日を心待ちにしていますよ」
「俺も司祭様とダンジョンに潜る日を楽しみにしていますね」
司祭様へのお礼。俺と一緒にダンジョンに潜りたいらしいが。そんなことでいいなら何回でも大丈夫だ。
その後、司祭様にはダンジョン内で魔力を吸収しなければレアモンスターが出なかったこと、また新たに神聖魔法が使えるようになるなるかも知れないことを報告した。
司祭様は考察が外れていなかったことに満足したようだった。
「シルフィス君、神聖魔法が使えることは大変素晴らしいことです。しかし、他の人にこの事が知られると少々面倒なことになるかも知れません。君は今でも相当強いですが、一級冒険者の地位を得るまでは隠しておいたほうがいいでしょう」
しかし神聖魔法というのはやはり特別なようだ。まだステータスには表れていないから隠すことは問題ないが、アイアンゴーレムのとどめを刺した魔法だけに既に経験値はかなり入っているだろう。
次のレベルアップのときにはスキルとして覚えてしまうかも知れない。
「はい。ご忠告に従います」
教会での報告を終えて家に帰った。
「ゴメン。母さん。また心配かけたね」
「おかえり。シル。また無茶したの?」
母さんの安心した顔が見えた。
でも母さんはそのことを責めたりしない。
父さんが生きてる時に「男の子が夢を追いかけている時は応援してほしい」と言われていたようで、ただただ応援してくれている。
「無茶······というか、ようやくレベルアップしてね。気絶しちゃったんだ」
母さんには司祭様の指導に従って訓練していることは話している。
「本当? ······良かったね。良かったね。シル」
気絶という言葉に反応して一瞬母さんの顔は青褪めたが、直ぐに祝福の言葉を送ってくれた。
「ああ、まだレベル2だけど、俺かなり強くなったんだよ」
「そうなのね。ステータス見せてもらってもいい?」
「もちろん、ステータスオープン」
ステータスを見せると母さんは涙を流して喜んでくれた。
「シル······本当に強くなったのね。母さん嬉しいわ······」
喜んでくれるのは嬉しいが、親の涙は心にくる。どれだけ母さんに苦労をかけたか。
「あ、あとこれ。母さん、お腹いっぱい食べてよ」
ヒュージボアの肉を一塊取り出し机の上に置いた。
「昨日、倒したヒュージボアの肉」
「こ、こんなに······?」
「まだあるから遠慮しないで。あと俺も大分稼げるようになったからお金の心配はしなくていいから。仕事もキツイなら無理しないで」
そう言って金貨10枚をテーブルに置いた。
母さんはかなり無理して仕事をしている。
一度体調を崩してからというもの、長く働くと直ぐ疲れてしまうらしい。
目の前の金貨を見て母さんの顔色がまた変わった。
「じゃあ、お言葉に甘えて仕事辞めてもいいかしら」
「いいよ。全然問題ない」
母さん一人を養うくらい今の俺なら簡単だろう。
「母さんね。実は前からやりたいことがあったのよ。協力してくれる?」
「もちろん。母さんには女手一つで育ててもらって感謝してるんだ。親孝行の一つや二つじゃ返しきれないからね。俺に出来ることだったら手伝うよ」
「本当? ありがとう。実は母さん前々から冒険者になってみたかったのよ。シルのステータスって結構強いでしょ? シルに手伝ってもらえるなら安心だわ」
「は?」
待って待って待って。
「仕事で直ぐ体調崩しちゃう人が冒険者なんてもっと無理でしょ?」
「そんなことないわよ。母さんの体調不良って職場でイジメられるのが原因だもの。冒険者になったら逆に元気になるわよ」
そうだったのか?
それは知らなかった。
「イジメってどんな?」
「母さんもレベル低いから知能も低いでしょ。低レベルとか低能とか言われてバカにされたりするのよ。あとレベルが高い方が若々しくなるって言うじゃない。だからババァとか言われたりするのよ。悔しいけど今までは泣き寝入りするしかなかったの。でも見返してやりたいじゃない!」
母さんも成人してからステータスを授かったと聞いている。その後直ぐ父さんと結婚してダンジョンに潜る機会は今までなかったらしい。
だからレベルも4までしか上がっていない。
レベルアップには制限があり、格上のモンスターを倒さないとそれ以上上がらない壁が存在する。
母さんの場合だとレベル5に上がるためには九級のモンスターを倒す必要がある。格上のモンスターを倒せず、壁の一歩前でレベルが止まっている冒険者は多い。というか殆どの冒険者はそうだろう。
冒険者を雇って格上のモンスターを倒す依頼は結構あったりする。
つまり金のあるやつ程強くなる道が開かれているということだ。ここでも金だ。
恐らく、母さんはそうやってレベルを上げた同僚だか上司からイジメられていたというわけだ。
幸い、成人してからステータスを得たと言うから母さんの基準値は低くない。
強くはなれると思うけど······。
でもそれって母親同伴で探索するってことだろ。それは絶対周りからバカにされる。
余計に母さんの体調が悪くなったりしないだろうか?
でも、俺もずっとバカにされてきたから(今もだけど)気持ちはよくわかる。
馬鹿にしてきた奴らを見返してやりたいよなぁ。
「そういう事なら分かった。力になるよ」
「やったぁ」
拳を上げて喜ぶ。母さんにこんな一面があったんだな。疲れてたり、溜息をついてる姿しか記憶にない。
ダメだな。母さんと一緒に変わらないといけない。そのためなら少しくらい恥ずかしいのも我慢しよう。
「でも母さん。手伝うっていつまで? 俺は一応一級冒険者を目指してるんだけど、母さんも目指す?」
「私は一級なんて無理よ。でも一級を目指すならいずれはザーレを出ていくんでしょう?」
「うん。そうなると思う」
「それならせめて、ザーレにいる間は側でシルの冒険を見させて。母さんずっと仕事ばかりで、母親らしいこと全然できないままシルは成人しちゃったでしょ。それならせめてシルが親元を離れるまでは一緒に居たいと思ったのよ」
それはズルいなぁ。
もしかして本音はこっちなんだろうか。
「じゃあ、明日から一緒にダンジョンに潜ろう。でも、その前に色々確認させて」
母さんのレベルは4。スキルは【精密】。
針仕事をしていて仕事では役に立つスキルだと言っていた。
レベルが低いのに仕事は出来るので同僚から僻まれていたが、今はその同僚が上司になってしまったらしい。
まぁ、それはいいとして、母さんの武器は弓にすることにした。
もちろん母さんに弓矢の心得は無いが遠距離から攻撃出来るのがいい。経験値を獲得しやすいからだ。
◇翌日◇
朝から店を巡り俺と母さんの装備を整えたり、食料や備品を購入して回った。
朝から母さんは元気だし、やる気に満ちている。
冒険者ギルドに行くとエリーの受付の列に並ぶ。母さんの冒険者登録をするためだ。
「おはよう、エリーちゃん」
「よ、エリー」
俺は少し気まずい。
「えっ? サラさん。どうしたんですか?」
「シルがね。レベルが上がって強くなったから私もレベル上げてもらうと思って。冒険者登録に来たのよ」
「え、あ、そうなんですね。おめでとうシル」
「お、おう」
「いいなぁ。私もシルにレベル上げ手伝ってもらおうかな?」
「あら、それもいいんじゃない? シルも一級冒険者を目指してるからいずれザーレを出ていくみたいだし」
あ、ダメだ。
母さん、周りの視線に全く気づいてない。
「えっ、シルはザーレを出ていくの?」
「まぁ、一級になるのが今の目標だから、いずれは」
周りの奴らは俺達の会話に聞き耳を立てている。バカにされるだろうから正直こういう事は話したくない。
「そうなんだ······」
エリーは肩を落として落胆しているようだ。
「大丈夫よ、エリーちゃん。シルに強くしてもらってエリーちゃんも一緒に一級目指せばいいじゃない」
「お、おい。母さん。そんな勝手に······」
それはダメ。本当にダメなヤツ。
周りの奴らを完全に敵に回すから。
エリーにだって仕事があるし、そんな簡単に誘っていいことじゃない。
最初は誰だって一級を夢見るかも知れないが四級、五級にさえなれない冒険者が大半なのだ。
そんな夢は現実を知れば早々に消えてしまう。
「そんな夢みたいなこと······」
ほら見ろ。エリーは受付嬢だ。嫌ってほど挫折する冒険者を見てきている。
呆れるように、目をキラキラ輝かせてこっちを見ているじゃないか!
えっ、何でキラキラ?
「······とっても素敵ね」
おい、エリー。お前もか。
周りの冒険者の殺気。殺気が凄いから。
「シル、私も一緒に強くしてくれないかな?」
「あ、ああ。エリーがいいなら、俺は構わないぞ」
はぁ。エリー。
お前はギドさんに強くしてもらえるじゃないか。
まぁ、でもそこまで言われたら俺に断る選択肢はない。
断ったら断ったで因縁つけてくるやつがいるだろうしな。
どうせ絡まれるなら受ける方が良い。
「おいおい、エリーちゃん。ちょっと聞いてりゃそりゃねぇんじゃねえか? レベル上げたいなら俺が一緒にダンジョンに潜ってやるよ。ママ同伴の『出遅れ』なんかに任せたらエリーちゃんが死んじまうだろ」
「おいおい、お前じゃ無理だろ。それなら俺だ」
「お前も引っ込んでろ。俺だよ」
あちゃあ、一人が声を上げるとそれを皮切りに次々と声が上がる。ギルド内が騒然とし、収拾がつかなくなってしまった。
皆が「俺こそが相応しい」と主張する。
エリー本人の意思さえ無視してだ。
·········
······
···
「お前らぁ、何揉めてやがる!!!」
混乱を聞きつけてやって来たギルドマスターの一喝が響く。
声だけじゃない。魔力も伴っており大半の冒険者が気圧されて膝を折る。
「エリー、この混乱を生んだ責任を取れ。お前は受付嬢をクビだ。シルフィスとパーティでも何でも組むといい」
えっ、それは酷くないか?
――Boooooooooooooo――
――Boooooooooooooo――
当然というか、納得のいかない冒険者たちからブーイングが起きる。
「普段は認めねぇが不服のある奴はエリーを賭けてシルフィスとの決闘を認める」
――ワァァァァァァァァァァァ――
――ワァァァァァァァァァァァ――
それが一転して歓声に変わった。
「ただし、挑戦権は一人一回のみ。それも今この場に両足で立っている者のみとする」
歓声が一気にしぼんだ。
今立っているのは数名。
おそらく立っているのは五級以上だろうか。
ギルドマスターが俺のところに来てこっそりと耳打ちする。
「エリーもモテるからな。他の受付嬢から僻まれていたんだ。結構イジメもあったみたいでな。エリー自身も仕事を辞めたがっていた。だからシルフィス、エリーを頼む。負けるんじゃねぇぞ」
なるほど、そういうことか。
「はい。そういう事なら任せて下さい」




