第13話 アイアンゴーレム
アイアンゴーレムが三級最悪と称される所以は幾つかある。
1つは単純な防御力。
生半可な攻撃は一切通用しない。
剣や槍による攻撃は刃がこぼれるし、矢も通らない。
加えて何とか体を削ることが出来ても「補充」されてしまうのだ。
それこそアサシンカメレオンの攻撃、捕食ではなく舌による貫通攻撃があるのだが、それであれば撃ち抜けるらしい。それとて撃ち抜けるだけで倒せるとは限らない。
ゴーレムは体の何処かにある核を壊さなければ倒せないのだ。
体を壊すのは困難で、壊せても直ってしまう。
そして得られる素材は魔鉄。
アイアンゴーレムの鉄は魔鉄と呼ばれ、魔力を通しやすい素材である。
素材はそれなりに高価ではあるが重すぎる。
倒すのが困難で武器はボロボロになる。素材はそれなりに高く売れるが、利益を出せる程の量を帰るのも難しい。それがアイアンゴーレムだ。
だが、俺にとっては経験値を稼ぐ絶好の相手でもある。倒せるかどうかは分からないが、訓練の相手としてはこの上ない。
先ず、重いため動きは鈍い。
攻撃をくらいにくいため安全に訓練できる。
頑丈と言うことは色んなスキルを試せるということだろう。
さて、何から試そうか。
まぁ、適当でいいか。
「【光球】」
おお、明るいな。
【光球】は光の球。
攻撃力はない。ただ周囲を照らす光源となる魔法だ。
これは便利だな。
魔導具のランタンよりも格段に明るいし、消費魔力も大きくない。
自由に位置を変えられるし、持ち運びに手を塞がれることもない。
蝋燭の光とは比べるまでもない。
蝋燭を100本使ったってここまで明るくはならないし、煙も出ない。
夜でも昼間のように家の中が明るくなる。
帰ったら早速母さんに使ってあげようと思った。
攻撃には使えない魔法でもモンスターの前で使うことが大事だ。戦闘中に魔力を消費することで経験値を沢山獲得出来るからだ。
そう考えてふと思う。
戦闘中に何らかの形で魔力を使って料理をすれば、料理のスキルが獲得出来たりするのだろうか?
どう魔力を使うのかにもよるかも知れないけど試してみる価値はあるかも知れない。
さて次は····
「【幻影】」
幻影魔法の【幻影】。
もし、ゴーレムに目があるならゴーレムは俺が二人に見えているだろう。
そう、そしてゴーレムに目はない。
人型のゴーレムだから頭のような部分はあり、目のような部分はある。
でも、目のような部分で物を見ているわけではなく、魔力や気配を感知していると言われている。
魔力で感知すれば魔力で作り出した人型の何かを感じているかも知れないけど、この魔法にも攻撃力はない。訓練で使ってみただけだ。
ゴーレムは幻影に惑わされることなく、俺本体に向かってきた。
鈍重ながらも腕を大きく振りかぶり、重さに任せて倒れ込むように振り下ろしてくる。
――ドシィィイン――
巨体が倒れ込み凄まじい衝突音が鳴り響く。当然攻撃は当たっていないが、無茶苦茶だ。
倒れ込んだら隙が出来るとか、そんな事は一切考えていないんだろう。
そうじゃなかったら、こいつは究極的なバカかドジかのどちらかだ。
そうそう当たらないだろうが、こんな攻撃が当たれば三級のモンスターでも一撃で倒せるかも知れない。
「【重力】」
倒れ込んだアイアンゴーレムに【重力】をかけると動かなくなった。
ただでさえ鈍重な動きだったんだから、こうなることは予想出来た。昨日も同じ様な光景を見たしな。
――ガッ――
動けないのをいいことにゴーレムの頭を殴っておいた。
【身体強化】はかけているが、殴ってもダメージを受けた様子はない。
まぁ、これも訓練だ。
ダメージは期待していない。
ただ、意外にも殴った拳は痛くなくてちょっと驚いた。
少し距離をとって【重力】を解除する。
アイアンゴーレムはゆっくり起き上がるとまた俺に向かって殴りかかってくる。
「【水壁】」
わざわざ攻撃させたのは水魔法の【水壁】の防御力を確認したかったからだ。
空中に出現した水の壁は単なる水の塊ではなく、凄まじい勢いで動いている。
アイアンゴーレム側から見ると下向きに、俺から見ると上向きに水が流れている。
他の魔法にも言えることだが、壁の大きさは魔力次第で変えられる。
今回は高さはアイアンゴーレム位で、幅は俺が両腕を開いた位、厚さは腕一本分程の厚みにしている。
そこそこに大きい壁を作ってみた。
――バシィィイン――
アイアンゴーレムの拳が水の壁に当たると明らかに軌道が下に逸れた。
「おお、思ったより使える」
アイアンゴーレム程の重さのある攻撃でも逸らせるならかなり使えるんじゃないだろうか。
下に逸らしたことでまたアイアンゴーレムが倒れる。
どんだけバランス悪いんだお前。
「【火弾】」
火魔法の【火弾】をとりあえず普通に撃ってみた。
――バァァン――
かなり熱が伝わってくる。
結構な威力はあると思うが、アイアンゴーレム相手にはダメージがなさそうだ。
魔力次第で数も威力も増すことが出来るから中々いい魔法なんじゃないかと思う。
ただ、これはダンジョン内で使うと熱でこっちまでダメージを受けてしまうかも知れないな。
俺一人ならまだいいけど、パーティを組んで潜った時は気を付けないといけない魔法かも知れない。
「【爆発】」
――ドガァァァァァァァァァン――
「ああああっ」
ダメだ。これは使ったらダメなヤツ。
爆裂魔法の【爆発】を使ってみたが、これは完全にダンジョン内では使えない。
耳が死ぬ。
アイアンゴーレムの形が少し歪んだし、あの巨体を少し弾いたから威力はそこそこある。
訓練で使うなら威力を小さくして音を小さくしないとダメだな。
一瞬耳が聞こえなくなったけど、すぐに治った。気を取り直して次だ。
「【落雷】」
――ドガァァァァァァァァァン――
「ああっ、またっ」
これもダメ。これもダンジョンじゃ使っちゃいけないやつ。
雷魔法の【落雷】。これもうるさすぎる。威力が魔石の魔法の比じゃない。
相手を指定出来るのは使い勝手が良くなったけど、あまり近い距離だとこっちまで感電してしまうかも知れない。
これももっと小さい威力で訓練しないとだな。
ただ【落雷】はかなり効果があったようで、関節が全てバラバラになり動かなくなった。
アイアンゴーレムの魔力が大分小さくなっている。
感電して核にダメージを与えられたのかも知れない。
じゃあ、最後のよくわからない熱線魔法をうってみるか。これで一通りの魔法を試したことになる。
この魔法のイメージは線だ。見えない一筋の光。光なのに見えないってどういう事だ?
そして何故かこれがやたらと消費魔力が大きい。まぁ、使ってみたら分かるか。
「【熱線】」
魔力が収束し、何かが放たれた感覚がある。
――ジュウ――
ん?
何も起きてない?
目に見えないので何が起きたのか不明だ。
アイアンゴーレムの額を狙って撃ったつもりだったんだけど······。
「あ、穴があいてる」
よく見たらアイアンゴーレムの頭に小さな穴が空いていた。
え? どういう事だ?
貫通したのか? アイアンゴーレムを?
「ははっ、すげぇ」
もちろん核を砕いていないので倒せてはいないが、この貫通力はかなり使える。
派手さは全くないが凄まじい威力の魔法に静かに震えた。
一応、これも使っておかないとな。
「【収納庫】」
訓練の一環として空間魔法を使ったが、バラバラになったアイアンゴーレムのパーツを収納する。
核が宿っていると思われる胴体部分は収納できなかった。
ちょうどいいからこれも使ってみるか。
胴体だけになったアイアンゴーレムに手を触れる。
「【魔力吸収】」
これはダンジョンの魔力を吸収したことで覚えたスキルだと思うが、別に接触しなくてもスキル自体を使うことは出来る。
接触しないと空気中の魔力を吸収するだけなのだが、接触することで接触した対象から魔力を吸収する事ができる。
どうもこのスキルはアイアンゴーレム相手にはよく効くスキルみたいだ。
アイアンゴーレムの魔力がほぼ枯渇した。
限界まで魔力を吸収したが、魔力が枯渇しただけでは倒せないようだ。
「うーん」
さて、どうしたものか。
とどめを刺したいが、かなり面倒だ。
アイアンゴーレムは胴体だけなので脅威は全くない。
【熱線】で核を破壊するまで穴だらけにしてみるか?
どうするか考えていたらまだ試していない魔法があることに気が付いた。
さっき手に入れた白い魔石の魔法だ。
魔石から魔法を発動するのはリスクがある。何が起きるか分からないからだ。
今の状況でどうしても試さないといけないことではない。普通なら魔導具に加工してから使うものだ。最低でも鑑定してもらい効果が判明してから使うべきだろう。
まぁ、いいか。
俺はステータスを【固定】しているから死なないだろう。
大丈夫。大丈夫。俺ならいける。
楽観的にそう考え、魔石に魔力を込める。
あれ? 思ったより魔力が必要なようで魔法が発動しない。
まぁ、魔力ならいくらでも込めれるからな。
どんどん注ぎますよ。
どんな魔法が発動するのか楽しみだ。
――ブゥゥゥン――
魔石が光を放つと俺を中心に半球の白い障壁が形成されてどんどん広がっていった。
これは······結界か?
よく分からないが結界?は広がっていき、アイアンゴーレムも結界に含まれた。
モンスターを弾かない······ということは結界じゃない?
じゃあ、何なんだこの魔法は?
効果が良く分からない。
「あ、消えた」
あれこれ考えていたら、アイアンゴーレムの魔力が完全に消えた。
それにこの魔法の感覚。
ステータスを授かったときの祝福に似たものがある。
つまりこれは······。
「神聖魔法なのか?」
ゴーレム系のモンスターは死霊系に分類されている。
死体に魂の宿ったゾンビ、骸骨に魂の宿ったスケルトン、鎧に魂の宿ったリビングアーマー。そういったモンスターとゴーレムは同種なのだ。
魔石に魂が宿り、体を周囲の物質によって形成したのがゴーレムだ。
強力な魔力を有しなければ魔力のみで体を形成できないので基本的にゴーレムは強い。
まして鉄のみで体を形成するとなると相当な魔力が必要だ。
実は金属系のゴーレムはダンジョン産よりも野生の方が圧倒的に強いとされている。
自然界で金属を抽出し、それのみで体を形成するとなると凄まじい魔力が必要で、ランクは一級以上になると言われている。
ダンジョン産のゴーレムはダンジョンが体を用意しているからか、関節ごとに部品があるが、自然界のゴーレムには関節というものがない。最初から体がバラバラなのだ。小さな粒で体が構成されている。
そのため自在に体を変形でき、切ることも砕くこともでず圧倒的な質量と防御力を誇る。
ダンジョン産のゴーレムは鈍重なのだが、野生のゴーレムは体を小型化することも出来、凄まじいスピードで動くこともあるらしい。
そんなゴーレム系モンスターにも唯一と言っていい弱点があり、それが神聖魔法だ。
「【収納庫】」
あ、収納出来た。
残っていたアイアンゴーレムの胴体も収納出来た。ということは本当に倒せたようだ。
ってことは本当に神聖魔法なのかも知れない。
神聖魔法は自力で修得することが出来ず、「継承」という特別な方法でしか得られないと言われている。
少し不安が胸をよぎったが、アイアンゴーレムさえ問題なく倒せたことに満足し、ダンジョンを後にした。
アイアンゴーレムの体は一部を除き売却した。持ち込んだ量が多かったため金貨50枚になったのだった。




