第12話 喰われてた
目を覚ますと、壮絶な痛みは消えていた。
既に日は昇っており、一晩中街の外で気を失っていたようだ。
それなのに生きて目を覚ませるとは運が良い。
街は城壁で囲まれているが、街の外はダンジョンに劣らず危険な場所になり得る。
特に夜は危険で、街の外で夜を明かすときは見張りが必要になる。
そうしなければ野生の獣やモンスターに襲われて捕食されてしまうのだ。
そう。今の俺のように。
――ガブガブガブ――
狼たちが俺に噛み付いていた。
えっ?
どういう状況?
まぁ、城壁の外で無防備に寝てたら普通に襲われるな。
だから俺が襲われてるのは不思議なことじゃない。当たり前の事だ。
それで?
何で俺生きてるの?
あちこち噛みつかれているのに痛くない。
野生の獣やモンスターはダンジョンと違ってランクは一定ではない。
でも狼なら八級とか七級くらいだろうか。
今は魔力枯渇でステータスにかけた【固定】は解除された状態だから、格上から攻撃されたら死ぬし、噛まれたら普通に喰われてしまうだろう。
つまりコイツらは俺を食ってるんじゃない。甘噛みしてじゃれているんだ。
そうかそうか、可愛いヤツラめ。
「って、んなわけあるかぁ!」
思わず何かに突っ込み、飛び起きる。
狼たちは焦るようにに俺から距離を取った。
あたりを見回すと魔石や短剣、マジックバッグなど、俺の荷物は散らばってはいるものの無くなってはいないようだ。
残念ながらは服は噛まれてボロボロになっていた。
ここ最近毎日のように服がボロボロになってるな。
さて、身を守るためにも、将来のためにも先ずはステータスを【固定】しないといけない。
「ステータスオープン」
『シルフィス:レベル2
HP:80
体力:42
魔力:52
筋力:34
敏捷:33
頑強:48
知能:30
感覚:32
スキル∶【固定】、【物理耐性】、【体力超回復】、【魔力超回復】、【自動回復】、【魔力吸収】、【猛毒耐性】、【空間魔法】、【火魔法】、【水魔法】、【光魔法】、【爆裂魔法】、【熱線魔法】、【幻影魔法】、【魔力感知】、【魔力操作】、【雷魔法】、【重力魔法】、【雷耐性】、【身体強化】、【魔法耐性】』
「ははっ、何だこれ?」
レベルアップ時のステータスの上昇はHPは別にして、基本的に1、多くて3と言われている。
幼い頃にステータスを授かった貴族の子供だと成長期に5くらい伸びることも稀にあるらしいが、俺は一番低い知能でも20伸びている。
一番伸びている魔力に至っては42も伸びた。しかも俺の基準値はかなり高い。
レベルはまだ2だが、ステータス的には少なく見積もっても六級相当だろうか。
そしてあり得ないスキルの数。
訓練していないはずの魔法や身に覚えのないスキルまで取得している。
司祭様の言葉は本当だった。
指導に従って良かったと心から思う。
【固定】スキルは確かに神スキルだったと今なら分かる。
災難に沢山見舞われたし、レベルアップのときは死ぬ程キツかったけど、レベル2にしてこれ程のステータスを手にしたのだ。
【固定】スキルを授けてくださった神様に心から感謝した。
「【固定】」
ステータスを指定してスキルを発動すると自然と涙が溢れてきた。
今までの人生で辛かったことが全て報われたような気がした。
全部が無駄じゃなく、今に繋がっているように感じた。
信じられないステータスだが、俺は今よりもっと強くなれるのだ。
しばらく心の中で神様に感謝を捧げた後、目を開けて狼を見据える。
「さてと狼諸君。俺を食べようとしたんだから覚悟してもらうよ」
気分は上々だ。
体が軽く感じる。
身体能力を確かめたくて軽くジャンプしてみた。
トン。と軽く飛ぶと背丈を越えて飛び上がった。
「うわっ、凄っ」
身体能力が上りすぎて自分でも驚くが、制御できない感じはしない。
狼たちは俺を見上げている。
初撃は大事だ。
狼たちが逃げ出さないように魔法でも使うか。
魔法を使おうとすると頭の中に魔法のイメージが流れ込んでくる。使い方や効果が分かる。
使うべき魔法はこれだ。
「【重力】」
飛び上がった状態から魔法を放つ。
放った魔法は重力魔法の【重力】。
黒い魔石の魔法だ。
ただ、スキルとして修得し、熟練度が上がって強化されたこの魔法は範囲や対象を選べるようだ。
俺を除いた狼達を対象に魔法を放つ。
――ズン――
10匹近くいる狼達はその場にうずくまる。
その後俺はふわりと着地した。
知能が上がっているせいか頭の回転が速くなっている。
一瞬で色んなことを考えることが出来るようになっている。
「凄い」
自分の能力に驚かずにはいられない。
あとは狼達にどう落とし前をつけてやろうかと考えていたが、司祭様の言葉を思い出した。
「やめた。お前ら命拾いしたな。気分もいいし見逃してやるよ」
【グラビティ】を解除すると狼達は文字通り尻尾を巻いて逃げていった。
見逃したのは、ここで狼達を倒したら試したいと思っていたことが出来なくなることに気付いたからだ。
「また母さんに心配かけちゃったかな」
ステータスを得てからというもの、服はボロボロになるし、夜も家に帰ってこないし、何かと心配をかけてしまっている。
たまには料理の一つでも作ってあげたいが生憎と俺は料理が出来ない。
料理の熟練度って上がらないだろうか?
あまり聞いたことはないが司祭様に相談してみるか。
それと街に帰る前にヒュージボアの血抜きをしておくか。
これをするのとしないのとでは肉の味が格段に変わるし、肉も早く悪くなってしまうからな。
マジックバッグからヒュージボアを取り出すと覚えたばかりの魔法を唱える。
初めて使うのに効果や使い方が分かるのが不思議だ。スキルは神様からの祝福だと言われている意味が分かる。
「【反重力】」
ヒュージボアに【反重力】をかけると俺の3倍はあろうかという巨体が浮き上る。
「おお、凄いな!」
頭で効果は分かっていたものの、実際に目にすると感動する。
「【固定】」
ヒュージボアの後ろ足を空中に固定する。
【固定】も同時に複数発動出来るようになった。
「【重力】」
固定したヒュージボアに【重力】をかけると首から一気に血が噴き出す。
「【水操作】」
【水操作】は水を生み出すだけでなく、それを好きに操ることが出来る。かなり応用の利く魔法だ。
ヒュージボアを水で覆うと水流を起こす。汚れを落とすのと同時に冷やすことで鮮度を保つ事ができる。
また、ヒュージボアを揉み解して血を絞り出した。
「【収納庫】」
空間魔法の【収納庫】に血抜きを終えたヒュージボアをしまう。
マジックバッグを使い続ければ何か魔法を覚えるのではないかと司祭様は推測していたが、見事に空間魔法を覚えることができた。
【収納庫】はマジックバッグと同じように魔力に応じて物を収納する事ができる。
しかも必要な魔力はマジックバッグよりも少ないのだ。これは便利すぎて感謝しかない。
ついでにマジックバッグの中身も【収納庫】に移し替えた。
【身体強化】で全力疾走し街に帰るとそのままダンジョンに向かった。
服はボロボロのままだったのでエリーに驚かれたが、もしかしたらまたボロボロになるかも知れないから気にせずダンジョンに入った。
ただ、何の装備もないと変に思われるので、背嚢と短剣は取り出して装備しておいた。
ダンジョンで確認したいことは一つだけだ。ステータスの【固定】を解除してもレアモンスターが現れるのかどうか。司祭様の説の検証だ。
本当は訓練をしたいがぐっと堪える。
【魔力超回復】のスキルがあるので、魔力を消費するとその分回復してしまうのだ。
恐らく【物理耐性】、【体力超回復】、【魔力超回復】、【自動回復】、【魔力吸収】といったこの辺のスキルはステータスを【固定】したことで覚えたスキルだと思う。
何故覚えたのか分からなかった【爆裂魔法】、【熱線魔法】、【幻影魔法】も、その効果が分かれば納得した。
【爆裂魔法】は水魔法と火魔法。【熱線魔法】は火魔法と光魔法。【幻影魔法】は水魔法と光魔法。それぞれ二つの魔法を組み合わせたような魔法なのだ。
ダンジョンで魔導具を複数同時に発動させていたから覚えたのかも知れない。と言うかきっとそうだろう。
【魔力感知】は大量の魔力が流れ込んでくることで魔力の流れを理解出来るようになり覚えたスキルだと思う。このスキルのお陰で離れている場所にいるモンスターの位置が分かるようになった。
【魔力操作】は【魔力感知】の上位のスキルだと思うが、魔力の流れを自分で操作することが出来る。今思い出すとレベル1の時には無意識でこれを行っていたように思う。
昨日行っていた訓練の際に、超重力下で少しずつ動けるようになっていったのも、少しずつ耐性がついていったと感じたのも【魔力操作】で体を強化した結果だと思う。
そしてそこから【身体強化】と【魔法耐性】が生まれたのだ。
特にやることがないのでスライムを避けながらスキルのことを考えていた。今までの色んな訓練がスキル修得に繋がっていると、改めて実感したし、何故こんなスキルを授かったのか納得することが出来た。
新しく出来るようになったスキルは使いこなせなければ意味がない。
実戦では使い勝手のいいスキルに偏りは出てしまうかもしれないけど、色んなスキルを使うことで新たなスキルが生まれることも分かった。
色んなスキルを実戦で使えるようによく訓練しないといけないと決意した。
結局一刻以上ダンジョンに潜っていたもののレアが現れることはなかった。
それを確認出来たので改めてステータスを【固定】し、訓練を始めた。
自分に【重力】をかけ、【身体強化】を使う。それに加えて【水操作】を発動する。
出来るだけ体に負荷をかけて、無駄に魔力を使ってみた。
ステータスを確認すると良い感じで魔力がブレている。ブレ幅は10前後といった感じだ。
すると四半刻程でホーリースライムが現れた。その後も同じ間隔位でホーリースライムが現れ宝箱も現れた。
ここまでくれば間違いない。この現象はダンジョンの魔力を吸収していることで引き起こされている。司祭様の説が実証されたと思っていいだろう。
宝箱の中身は白い魔石だった。
「また魔石か」
これはこれでありがたい。新しいスキルの修得につながるからな。
でも3回も続くと偶然じゃない気もする。
一階の宝箱からは魔石しか出ないのかも知れない。
そして俺は格上のモンスターが現れるのを待った。
ステータス的には六級程度とは言え、魔法スキルを幾つも覚えたので攻撃面での不安はない。強力なスキルはレベル差を覆すことが出来るからだ。
今は恐怖よりも早くスキルを試したいというワクワクの方が勝っている。
訓練しながらしばらく待つと、急に強い気配が生まれた。
「来たか」
――ズシン――
――ズシン――
一歩踏み出す度に振動が伝わってくる。
これまで現れた格上のモンスターと比べると体積は控え目だ。だがそれでも体長は俺の倍はある。
しかし重量に関しては過去一番かも知れない。
「アイアンゴーレムか」
こいつもランクは三級だ。
だが、ハズレもハズレ。三級以上の冒険者でもこいつと遭遇したら戦わずに逃げるという。
三級で最もたちの悪いのモンスターだ。




