第11話 レベルアップ
「シル、お待たせ」
「お疲れ、エリー」
訓練がてら教会の貯水槽に水を貯めているとエリーがやって来た。
「何やってたの?」
「訓練だよ。ついでに水を貯めてた。司祭様にはお世話になってるから」
貯水槽自体が大きな魔導具になっていて、そこに魔力を込めていただけだ。俺の持っている水筒よりも湧き出す水量が多いため訓練になればと思いやらせてもらっていた。
「そ、そう。何か変わった訓練ね」
「そうか? でもこれで魔法が使えるようになるならやるべきだろ?」
「魔法の訓練なの?」
魔法に反応してエリーが驚く。
「私もやったら魔法が使えるようになるかな?」
「可能性はあると思うけど、エリーのレベルっていくつだっけ?」
毎日頑張ればいつかは修得出来るかも知れないけど可能性は低いと思う。
「14だよ」
「あ〜。厳しそうだな」
「ちょっと何よ。私には無理ってこと?」
「いや、無理とは言ってないぞ」
「ちょっと代わって。私もやってみたいから」
「えっ、いや······」
エリーは強引に割って入ってきた。
「これに魔力を流せばいいんでしょ」
司祭様曰く、この魔導具は現役だがレベル30以上の魔法使いでないと起動できないくらい必要な魔力が大きいらしい。
因みに司祭様は起動できるらしく、そうなると少なくとも冒険者としても四級以上になる。このザーレの街に四級以上の冒険者は一握りしかいない。
この街では冒険者の頂点が三級で、それに次ぐ四級ともなれば相当な権力を持っている。
司祭様の底知れなさを感じた瞬間だった。
「ちょっと、どうなってるのよ!? 全然動かないじゃない!!」
あ〜、やっぱりこうなったか。
「これ、動かすには最低レベル30必要らしいぞ」
「じゃあ、何でシルは動かせたのよ!!」
「はいはい、落ち着けって。説明するから飯食いに行こう」
「あ、そうね。行きましょ。シルが食事に誘ってくれるなんて初めてだからビックリしたわよ」
教会を出て店へと向かう。
何を食べるかはもう決めている。肉一択だ。
エリーもあっさりと切り替える。
「そうだな。今までは金もなかったし、他の冒険者に目を付けられるからとても誘えなかったな」
「へぇ〜。まあ、最近ホーリースライムを倒してたもんね。お金は稼げてるとして······他の冒険者に目を付けられても平気なの?」
エリーは色んな冒険者から誘われてるからな。自分がモテるのをちゃんと自覚している。エリーなりに俺を心配してくれているんだろう。
「まぁ、多分な。ゴロツキみたいな冒険者になら目を付けられても問題ないと思うぞ。少なくとも六級までなら負けないと思う」
「シルも言うようになったね〜。レベルはいくつなの?」
「驚け、1だ」
「えっ、ウソでしょ? 1? 本当に1? いや、驚いたわよ。あり得なくない? 1でイキんないでよ。アレ? でも魔導具動かしてたよね? 1なのに?」
「だから落ち着けって。説明するって言ってるだろ。それよりエリーは連れがレベル1でもいいのか?」
「奢ってくれるならそこは目を瞑るわ」
「はは、そうか。そいつはどうも」
因みに、エリーは誘われる度に、「パパより弱い人とデートしたらダメって言われてるの」と言って断っている。
そのパパ、ギドさんは四級の猛者だ。
食事中に変に絡まれたくはないので、たちの悪い冒険者は行きそうにない少し高めの店に入り、これまでのことを色々とエリーに話した。
今日、アサシンカメレオンを倒したことを話した時は凄く驚かれたが、ギルドで俺の服がボロボロだったことに納得したようだ。
その後「じゃあ、いいのかな?」と言っていたが、何が良いのかは良く分からなかった。
食事の後はエリーを家まで送っていった。
家に帰ってから、エリーと食事に行ったことを母さんに話したら冷やかされてしまった。
でも、話しながら俺だけ肉を食べて申し訳ない気持ちになったので今度は母さんと肉を食べに行こうと思ったのだった。
◇翌日◇
魔力のブレが10から2になったのでレベルアップが近づいている。
昨日司祭様、エリー、母さんの三人からレベルアップした時のことを聞いた。
三人共レベル1から2に上がる時が一番体に負担がありキツかったと言っていた。
レベルアップは魂の器の成長だと司祭様は教えてくれた。器は大きくなり、蓄積された経験値に応じて肉体も更新される。
激しい運動をした後に筋肉痛になるが、似たようなものだと教えてくれた。それのきついやつだと思えばいいらしい。
俺の場合はとんでもなくきついのか、肉体の更新に時間がかかるのか、どうなるのかは分からないと司祭様も言っていた。
ただ、どうせ魔力枯渇で気を失うだろうから、いつの間にか更新が終わっている可能性は高いとのことだ。
今日はダンジョンに行くべきかどうか悩んだが、スタンピードのことが気になったので一応ギルドに足を運ぶことにした。
ギルドは昨日と変わらずいつも通り営業していた。
緊急招集の鐘は鳴っていないから問題が起きていないのは分かっていたが少し安心した。
殆どの冒険者にとってスタンピードの経験がない。この街でスタンピードが起きたのは30年以上前のことだと言われている。
物を食うモンスターの調査依頼が緊急で出されたことで酒場ではいつスタンピードが起きるのかとその話題で持ちきりだ。
だからといってダンジョンに変化が見られないようでピリピリした空気もない。
俺はダンジョンに入るかどうか迷ったが、入らないことにした。スタンピードが起きる前にレベルを上げておきたいと思うが安全を優先した。
特に依頼を受けることなく街の外に出る。今日は黒い魔石の魔法を訓練したいと思っている。
これを街なかでやると、下手したら近くの建物が崩れてしまうかも知れないので、街の外でやるしかなかった。
街の外に出て、近くに誰もいないことを確かめると魔石に魔力を込める。
――ズン――
魔法が発動し、体が重くなる。
ステータスを開くと魔力は1までブレていた。
かなりギリギリだ。いつ0になってもおかしくはない。
目標はこの状態で動くことなのだが、足を踏み出せない。少しでも膝を曲げたら崩れ落ちそうだ。
少しずつ足の裏をジリジリと摺って動くことは出来るが、これでは戦闘で使えない。
何とか一歩を踏み出さないとと思い、決意する。
――ズシン――
「ぐっ······ぬぬ······」
案の定、膝から崩れ落ちそうになるが何とか踏ん張る。
少しでも踏ん張る事が出来たらこっちのものだ。俺の体力は減らない。
踏ん張り続ける事はいくらでも出来る。
「ぬおおおおお」
踏ん張った末、何とか立ち上がる事が出来た。
そう。時間はかかったが一歩進むことが出来た。
足跡が地面に深く刻まれていた。
「よしっ」
·········
······
···
――ズシン――
――ズシン――
――ズシン――
夢中で足を踏み出していると、大分歩けるようになった。
そこら中の地面に俺の足跡が刻まれている。
昨日の雷魔法に対する耐性程ではないが、明らかに負荷が軽減してきているのを感じた。
これならある程度戦闘でも使えるかも知れない。
なので次のステップに進むことにした。
次は短剣を持ち素振りしながら動く訓練だ。
短剣がとてつもなく重く、落としそうになるのを何とか堪えて振り上げる。
振り下ろしは重さに負けないようにゆっくり振り下ろすように心掛けるが、途中で重さに負けてしまった。
「ぐぎぎ······」
重さに負け無いように両手で持ち、ゆっくり振り上げ、ゆっくり振り下ろす。
両手であれば何とかイメージ通り振る事が出来た。
「よし、じゃあ次」
·········
······
···
――ズシン――
――ズシン――
――ズシン――
どれだけ短剣を振り続けたか分からないが、気付けば夕方になっていた。
俺は大地を響かせながら、軽快に短剣を振る事が出来るようになっていた。今ではそんなに重さを感じなくなっていた。
おそらくこの魔法の耐性を獲得したんだと思う。
夢中で訓練をしていたからか、気が付けば街から大分離れたところまで来てしまっていた。
――ブゴォォオォ――
今日の訓練の結果に満足して帰ろうかと思った矢先、咆哮が響く。
音のする方向に目を向けるとヒュージボアが俺を標的にして睨んでいた。
どうやらあいつの縄張りに入り込んでしまっていたらしい。
――ドガドカドガドガドガドガ――
ヒュージボアが凄まじい勢いで突っ込んでくる。
野生のヒュージボアのランクは大きさによって変わるが、こいつは恐らく五級程度だと思う。
咄嗟のことに頭がついていかないが、この突進を食らっちゃいけない。
何とか躱さないと。
――ドガァァァザザザァァ――
そう思っていたら突っ込んできたヒュージボアがコケた。
「あれ?」
「ブゴ?」
転んだ勢いで地面を横滑りしたまま、ヒュージボアは起き上がろうとしない。
あ、そうか。
魔法を使いっぱなしだった。
魔法の射程内に入り、突然の負荷に転んで、起き上がれなくなったということだろうか?
「ブ······ブゴ?」
ヒュージボアは呼吸するのもきつそうだ。
力を入れて動こうとしているのは分かるが、全く動けない。
「悪いな。俺を狙ったのが運の尽きだと思って諦めてくれ」
抵抗できない肉の塊、もといヒュージボアに同情しつつも容赦なく短剣で首を切る。
大量の血が流れ、ヒュージボアの呼吸は次第に弱まり、事切れていった。
これは母さんへのいい土産になった。とホクホクする。
事切れたのを見届け、マジックバッグに収納すると突然激しい頭痛が襲ってきた。
「ぐっ······あっ」
しまった。
肉に気を取られてステータスの確認を怠っていた。
このタイミングはまずい。
「あああああっ」
頭が······割れる······
体中の······骨が·····砕かれてるのか?
「があああああああっ」
この時俺は凄まじい痛みに襲われていた。
全身の骨が砕かれ、全身が剣で貫かれ、全身が炎で焼かれている様に感じていた。
身体中のあらゆる器官が悲鳴を上げ、心臓が破裂しそうだった。
痛みで体が跳ね、魔力が枯渇しているのに気を失うことが出来ず、いつ終わるとも分からない痛みに絶望を感じていた。
このまま痛みに食われて死ぬのではないかとさえ思われた。
だが、いつの間にか気を失っていたようで気が付けば朝になっていた。




