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第10話 異物

「エリー、お疲れ」

「シル、またボロボロじゃないの! 一階で探索してたんでしょ? 大丈夫?」


 周囲の冒険者からの視線が痛い。

 一階でボロボロになっていることへの嘲りが半分、エリーに心配されていることへの嫉妬が半分だろうか。


「まぁね、また冒険者に襲われちゃって·····ああ、それでギルドマスターと話したいんだけどこれ渡してもらえるかな?」


 司祭様から渡された手紙を渡す。


「うん、分かった。ちょっと待ってて」


 エリーがギルドマスターのところに向かうと周りから嘲りの言葉が聞こえてきた。


「一階でボロボロになるとは流石『出遅れ』だな」

「ああ、とても俺には真似できん」

「違えねぇ」

「はっはっはっ」


 わざと俺に聞こえるように話している。

 こんなことは茶飯事なので気にはしない。

 俺が『出遅れ』として認知されているのは殆どがエリーのせいだと思う。


 エリーも他の冒険者達のこういう姿を見ており、そういう冒険者には距離を置いた対応をするので俺への当たりは余計に強くなる。


「シル、ギルドマスターが呼んでるから行ってくれる?」


 どうやらギルドマスターは直ぐ面会してくれるようだ。


「ありがとう。あ、そうだエリー。奢るからさ、夕飯どっか食べに行かないか?」

「えっ、あ、う、うん。いいわよ。突然ね」


「じゃあ、仕事終わったら教会で待ち合わせでいいか?」

「わかったわ」


 周りにいた冒険者たちの視線に殺意が乗った気がするが、そんな事は知ったことではない。六級の冒険者の攻撃に耐えられると分かったからな。今なら多少調子に乗っても平気だろう。





「まさかお前がテアンと知り合いとは思わなかったな」

「はい、凄くお世話になってます」


 ギルドマスターは司祭様を呼び捨てにした。お二人はかなり親しい仲なんだろうか?


「手紙を読むとまた宝箱が出たらしいが、今日も冒険者に襲われたと聞いたぞ? トラブルに巻き込まれる星の下にでも生まれたのか?」


 半分冗談のように言ってきたが、否定できない自分がいる。

 苦笑いするしかなかった。


「いやぁ、勘弁してほしいんですけどね。実は今日も宝箱がでてまして、あとアサシンカメレオンに遭遇しました」

「ンンン!?」


 どうも予想を上回るトラブル具合だったのかギルドマスターは目を見開いていた。

 無意識なんだろうけど発せられる圧が、圧がすごい。


「今日も宝箱が出て、冒険者に襲われ、三級のモンスターに襲われたと言うのか?」

「はい······」


 ギルドマスターに経緯を説明した。

 冒険者に襲われたのは俺の不注意や油断が招いたものだとしても、レアモンスターとの遭遇、宝箱の出現、格上モンスターとの遭遇は偶然ではなく何らかの法則があるように感じていることも伝えた。

 そして、アサシンカメレオンも六級冒険者を食ったことを伝えた。


 ギルドマスターはかなり神妙な表情をしていたが上手く対処してくれるだろう。


「テアンが俺に頼む訳だ。よし、今後の精算は全部ウラで出来るように手を回そう。一階にアサシンカメレオンがでたことは気にするな。お前のせいじゃない」

「ありがとうございます!」

 

 俺が色々と気にしているのを感じ取ってギルドマスターは励ましてくれた。それがありがたかった。


 あとこれでレアモンスターや宝箱の中身を定期的に売っても目立たなくて済む。


 早速、担当者を紹介してもらいスライムとアサシンカメレオンの素材を精算してもらった。今後は直接裏に回ればいいとのことだ。何から何までありがたい。

 



◇聖神教会◇

「まさか宝箱だけではなく、格上のモンスターが出るところまで一連のパターンになってるとは。しかも相手はアサシンカメレオン。良く生きて帰ってきましたね」

「はい、嫌な予感はしていたんですけどそうなってしまいました。冒険者の邪魔さえ無ければ宝箱の中身を取ってすぐ帰ってこれたんですけどね······」


 だけど、生きて帰ってこれたわけだしその確認が出来て良かったのかも知れない。まぁ、いいことだけではないが。


「ふむ」


 司祭様は考え込むように少し俯いた。


「私なりに考えてみたんですが、シルフィス君はダンジョンにとって『異物』のようなものではないかと思うんです」

「『異物』······ですか?」


 良くわからないが、もしかしてダンジョンからも蔑まれてる?


「はい。ダンジョンの正体が何かは置いておいて、ダンジョンは人を内部に招くために素材となるモンスターや宝箱を生じます。そしてダンジョンの中で人が死ぬと······放置しておけば死体は吸収されてしまいますよね」

「はい、そうですね」


 そう、ダンジョンは人や物を吸収してしまう。何故か分からないけどそういう仕組みだ。


「これがもし、死体だけでなく他のものも吸収しているとしたらどうでしょう?」


「他のもの······ですか? 物も放置しておくと吸収されますよね。そういう意味ではなく?」


「そうですね。物も吸収しますが、私は常々不思議に思っていました。人の死体やモンスターの死体をダンジョンは吸収しますが、それで採算が取れるのかと」

「採算ですか?」


「まぁ、表現がイマイチなのはお許しください。ダンジョンが得るものに比べて、失うものが多すぎるのではないかと常々思っていたのです。モンスター自体はダンジョンが生み出していますから、その死体を吸収しても得にはならないでしょう。人の死体もそんなに吸収出来るわけではありません」

「確かに。言われてみるとそうですね」


 流石司祭様は目の付け所が違う。俺はそんな事考えたこともなかった。


「それで思ったのです。ダンジョンは人から魔力を吸収しているのではないかと」

「ああ、それはあり得ますね」


「まぁ、この考えは学説の一つでもありますが、もしそうならシルフィス君の存在はダンジョンにとって邪魔なのではないかと思ったのです」

「邪魔ですか?」


「シルフィス君は常に魔力を消費し、それを回復しています。その魔力は何処から回復しているのでしょうか?」


 これも言われて初めて気が付いた。


「全く考えが及びませんでした。何処からなんですかね?」

「目に見えませんから気が付きにくいことですが、周囲の空気中の魔力を吸収しているはずです。そしてダンジョンの中であればダンジョンの魔力を吸収していることになるでしょう」


「ああ、なるほど。だからダンジョンにとって俺は邪魔なんですね。それで『異物』だと······」


「それであなたに帰ってもらいたくて、先ずはレアモンスターを出現させるわけです。それで満足して帰ってくれないかと」

「はは、それでダメなら次は宝箱ってことですか?」

「はい。そして飴でダメなら最後は鞭。実力行使で格上のモンスターを出現させる。······そう考えると辻褄が合いませんか?」


 まぁ、確かに。やけに人間味溢れる考え方ではあるけど今までの出来事に説明がつく。


「はい、しっくり来ます。でも何かダンジョンに親近感が湧きますね」

「私もそう思います。まぁ単にダンジョンなりのルールがあってそうしているだけかも知れませんが、シルフィス君がステータスの【固定】を解除して同じ事が起きなければ今の考えは正しいと言えるのではないでしょうか」


 解除か······。ん?

 何か今、解除のことを考えていたら解除ができそうな気がしてきた。


「司祭様。何か今、解除出来そうな感覚があるんですが······」

「おお、素晴らしい。スキルの熟練度が上がったのですね。出来ると感じるなら出来るはずです」


「あれ? でもスキルの熟練度ってレベルが上がる時に上がるんじゃないんでしたっけ?」

「はい、スキルの熟練度は、レベルが上がる時に経験値に応じて大きく上ります。そしてより強力なスキルになります」


「ですよね。何でレベルが上がってないのに解除出来そうなんでしょうか?」

「それは単にスキルの使い方が上手くなったと言うことだと思いますよ。この場合も熟練度が上がるという表現をするので混同しやすいのですが、レベルが上がるとスキルが強力になることもありますし、スキルの使い方が上手くなることもあります。ただ、使い方が上手くなるのは必ずしもレベルが上がる時とは限らないのです」


 そうか。使い方が上手くなったのか。

 レベルが上がらないと解除は出来ないと思い込んでいたな。


「は〜。なるほど。いつも勉強になります」

「それで解除するのですか?」


 そう。解除したい気持ちはある。


「でも解除したらレベルが上がっちゃいますよね?」

「間違いなく上がるでしょうね」


「であれば、魔力に限界が来て自然と解除されるのを待ちたいと思います。できるだけ長くレベル1の状態で経験値を獲得したいです」


 司祭様はニッコリと笑いウンウンと頷いた。


「それが賢明だと思いますよ」


 バカな俺でも流石に分かる。

 雷魔法に対する耐性があっという間についたのは俺がレベル1だからだろう。


 こんな状態を早く切り上げるなんて勿体ない。


「魔力のブレはどうなっていますか?」

「今は2までブレるようになりました。多分、魔導具への魔力の込め方次第では一気に0になってしまうかも知れません」


「大分進みましたね。くれぐれもダンジョン内で気を失うことのないように気を付けて下さい」

「はい、気をつけます」


 これは気をつけないと。ダンジョン内で気を失えば本当に死ぬからな。

 安全に家で訓練するのも手だな。


「ただ、近いうちに強制招集されるかも知れませんね」

「はぁ、やっぱりですか」


 だけどそうも言ってられない事態が迫っていた。


 通常、ダンジョンに出るモンスターは何も食べない。

 それなのに人を食うモンスターが一階に出た。


 そして、物を食べるモンスターが出るのはダンジョンの外にモンスターが溢れ出す事象、スタンピードの前兆と言われている。


 一階に物を食うモンスターが出るともう待った無しだ。


 俺のせいで例外的に出たのなら、スタンピードは起きないかも知れないが、そうも言っていられない。


 冒険者は街に被害が及ばないように戦う義務があるのだ。


 ただ、スタンピードには良い面もある。

 ダンジョンの奥から素材を運ぶのは大変で素材の値段は高いのだが、スタンピードで大量に獲得できると価格は下がり、俺みたいな貧しい家の食卓にも肉が出ることもある。

 街に被害が出なければ、街は活性化するため恩恵に与る人は多い。


 また、スタンピードはダンジョンの再生の印でもあり、人を招くためにダンジョンの各階層に宝箱が再配置されると言われている。


 街を護れるならスタンピードは歓迎される。そう、護ることが出来さえすれば······。

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