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明日は学園の入学試験という夜、なんとポンタ村のガストが『フローリストガーデン 光』の裏口に現れた。
「ウチの娘が迷惑を掛けてスマン」
そう言いながら調理場からウチの店の中をキョロキョロと盗み見している。
「私は村へは帰ね」と父親の顔を見るなりラーラは踵を返して自室に逃げ込んだ。
「おまっ!他人に迷惑掛けるんじゃねぇ。戻って来い!」というガストの言葉はガン無視された。
「まぁ、今夜はもう遅いので、ラーラの部屋に予備のベッドを用意しましょう。親子二人で十分に話し合って下さい」と母さんが言うと、ガストは顔を赤らめて頷いた。
あれは自分の娘や自分の行動が恥ずかしいというより、ウチの母さんの美貌に顔を赤らめてるなと分かる程度にはガストの目はがっちり母さんにロックオンされていた。
まぁ、綺麗な異性を見て顔を赤めるというのはしょうがないっちゃしょうがないんだけど、あれ程考えてる事が表に出るって大人としてどうなんだろう?
父親が同じ部屋で寝るのは嫌だとごねていたラーラだが、結局、皆から説得され渋々泊めてやる事にした様だ。
予備のベッドは警備のグルーとマンマが二人がかりで運んでくれた。
夜遅くまでボソボソと親子で話す声が聞こえていたそうだが、朝方には寝た様でシーンとしていたと隣の部屋のナスカが朝早く報告に来た。
皆で朝食を摂っていると、いつもより遅くまで寝ていたラーラが父親を伴って地下の従業員用の食堂兼居間に現れた。
「さあ、朝ご飯をどうぞ」とトム伯父さんところのマルタ伯母さんが皿を並べ、パンと共に淹れたてのお茶を並べてくれた。
「フルーツもどうぞ」とスティーブおじさんの所のフェイ伯母さんがフルーツのバスケットを二人の前に置いた。
何がどうなったのかは分からないが、ラーラはポンタ村に父親と一緒に帰る事になったと皆にその場で報告した。
恐らくだけど、結婚相手が決まったか、皿洗いしか仕事が無い事が不満だったのか、来てみたのは良かったが王都が自分の思った様な町ではなかったのか辺りが原因じゃないのかな。
どっちにしても、私が学園の寮に入る前にラーラの身の振り方が決まって良かったよ。
「ヒック、ヒク・・・・」
ラーラは目にいっぱい涙を貯め、父親に手を引かれ乗合馬車の広場へと移動して行った。
ラーラが抱えている荷物は、ウチへ来た時と全く同じだった。
都会で綺麗な服を買いたかった様だが、田舎と都会では物価が違うし、皿洗い見習いの給料で豪華な服を買えるはずもなく・・・・。
「何か嵐みたいだったね」
トム伯父さんのところのサマンサがポロっと零した言葉にみんなが無言で頭を縦に振った。
そんな時に大公様が回して下さったお迎えの馬車が到着した。
「父さん、母さん、試験に行って来ます」
「アウレリア、頑張るんだぞ。ラーラの事は父親が来たんだ。お前が心配する事はないぞ。試験に集中しなさい」
「結果は気にしなくていいから、悔いの無い様にね」
両親に見送られ、馬車に乗って店の前から出発し王都の貴族街を抜けて行った。
最初はウチの店の様な綺麗だけどこじんまりとした建物や庭が続いていたが、王城へ近づくに従って建物が道からは見えなくなり高い塀に囲まれた庭が続き、そして立派な城壁に囲まれた城をぐるっと半周して王城の裏側へ到着した。
馬車のまま門を入って数分で蔦の這う赤レンガの4階建ての大きな校舎が見えて来た。
校舎前で止まった馬車の扉を執事のダンテスが開いてくれた。
「頑張って下さい」と言いつつ、小さな花飾りを胸に付けてくれた。
これはオルダル国の習慣で、おまじないの一つだ。
「ありがとうございます」
「今朝、カトリーヌが大公館の庭から切り出したモノです。大公様を始めみんなのささやかな気持ちです。失敗しても大丈夫くらいの気持ちでドーンと構えて。いつもの通りのアウレリア様であれば問題はありませんよ」
本来、受験するのに失敗とか落ちるという言葉は禁句なのだが、敢えて受験に失敗しても大公様はお見捨てになりませんという気持ちがこもっていたので、反対にとても嬉しいと思ってしまった。
きゅっと口を引き結んで前を見る。
今も受験生が校舎の入口に消えて行くのを見つつ、「頑張ります!」と力強く言って白い敷石が敷き詰められた道を一歩前に進んだ。
そして止まる事なく校舎の中に入って行った。
大広間みたいな所にあった自分の受験番号が貼ってある机に座り、試験の開始を待つ間もお店が気になってしょうがないが、寮に入れば店はみんなに任せるしか出来ないのだと頭を振り、配られたばかりの試験問題に目を落とした。




