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「アウレリア、ちょっと」
マルタ伯母さんが調理場へ顔を出したばかりの私に大きな声で呼びかけた。
「何?伯母さん」
「ちょっと思ったんだけどね、スープがイマイチ地味だなぁって」
「地味ですか?」
「いやぁ、美味しいのは美味しいんだよ。ポタージュも飾り付けにクルトンや生クリームで渦巻にしたりお洒落はお洒落なんだけどね・・・・」
「はい」
「だけど思ったんだよね。2色にしてみたらどうかなって」
「2色ですか?」
「うん。ポタージュの事なんだけどね、ジャガイモの時はクリーム色でその上から生クリームを渦巻に掛けても目立たないでしょ?でも、カボチャとか人参、ほうれん草の時は色がくっきりなので見栄えがいいのに、コスト的に一番安いじゃがいもの時が地味なんだよね」
「確かに」
「だからね、ジャガイモと例えばカボチャのポタージュを同じお皿に注いだら綺麗だと思うんだよね」
「なるほど~」
伯父さん二人は今まで自分たちのアイデアを言ってくれることはなかったけど、マルタ伯母さんは自分で色々考えてくれる様になっていて、新しいアイデアを言ってくれるのも今回が初めてではない。
「でも、2色にしたら毎日おばさんの仕事量が増えるけどそこはどうですか?」
「えっとね、常にジャガイモのポタージュにして、もう1色の方を毎日変えるっていうのだったらそこまで大変じゃないと思うんだよね。どうせ今でも大鍋2つ分は作ってるんだしね。鍋毎に内容を変えればいいだけだから」
「じゃがいもを多く使えば利益率も上がるし、とっても良いアイデアだと思うけど、2色が混ざらずちゃんと綺麗に色が分かれるかどうかですよね?」
「そこなんだよね」
「なら、今日の賄いは2色のポタージュにしてみて、ちゃんと色が混ざらないか試してみますか?」
「いいねぇ。じゃあ、あたしが今日の賄いを作るよ」
「マルタ伯母さん、よろしくお願いします」
結局、今日の賄いは下がクリーム色で上がオレンジ色の人参のポタージュだった。
ガラスの器に盛られていたのでちゃんと上下で2色に分かれているのは分かったんだけど、やっぱり上から見て2色の方がインパクトあるよねぇ・・・・。
賄いを食べ終わって1階の調理場へ上がった時、まだ両方のポタージュが残っていたので、スキルを使い上からみて2色になる様に盛り付けて鑑定で見てみた。
「フローリストガーデン 光の賄い2色のポタージュスープ
じゃがいもと人参の2色のポタージュスープ
皿の両端から同時にゆっくりと注ぐ事で2色になる」
おおおおお!
「伯母さん!これね、見てみて下さい」と、ゆっくりと皿の両端から2色のスープを注いでみせた。
「あら!これは綺麗ね。ちゃんと2色だねぇ」
「では、こういう風に2色に注ぎやすい様に調理器具を作ってみます」
「いいわねぇ。よろしくね」
「伯母さんも素敵なアイデアをありがとうございますっ!」
マルタ伯母さんはニッコニコで今日のドレッシング作りに入った。
私はステンレス素材で同じ大きさのホッパーを作り、ウチのスープ皿の大きさに合わせて注ぎ口を設け、ボタンを押すと同時にストッパーが開く様に細工したモノを作って来た。
惜しむらくは魔石との繋ぎ方が良く分からないからヒーター機能を付ることができないので、ホッパーにポタージュを入れるのはサーブする直前という事になるけれど、ボタン一つで楽に2色のポタージュが出来るなら十分良いと思う。
まぁ、ヒーター付きにするのは学園へ行って、色々学んでからだね。
さっそく父さんに調理場へ運んでもらい設置してみた。
賄い用に作られていた2種類のポタージュの残りを入れて確かめてみた。
ポタージュの粘度によって同じ大きさの注ぎ口でも皿に注ぎ込まれるポタージュの量が変わって来る事が分かったので、注ぎ口の大きさを調整できる様にスライド式の板を付けてみた。
もう一度チャレンジすると、2種類のポタージュがほぼ同量に注ぎ込まれているので成功だ。
「ほんと、あんたのスキルって凄いねぇ。あっと言う間に調理器具が出来ちゃうんだね」
「えへへへ」と笑ってごましたら、父さんが「義姉さん、くれぐれもこの子のスキルについては口外しないで下さいね」と釘を刺していた。
ウチで働いているみんなもそれぞれの仕事に慣れて来て、仕事の中で工夫をしてくれる様になって、店の雰囲気も落ち着いて来た。
ありがたい事だ。
同時に王都での生活も慣れて来た様で、サマンサやサブリナも休憩時間はしょっちゅう街中を歩き回って楽しんでいるみたいだ。
ここの所はラーラの要望に答え、3人でよく街の見学に行ってるらしい。
ラーラはウエイトレスの制服に憧れているみたいだけど、あのキツイ方言をどうにかしないと店には出せないので、恐らくラーラが制服を着る事はないだろう。
母さんは本人の希望に応える形でラーラにウエイトレスの研修もしてくれているみたいだけど・・・・。
「ねぇ、見て見て。このハンカチ素敵でしょ?」と母親に買って来たばかりの品物を見せるサマンサを見るラーラの目は暗い。
正規のウエイトレスの給料を貰ってるサマンサと、臨時で見習いであり、皿洗いのラーラでは給料の額が全然違うのだ。
サマンサやサブリナには買えても、ラーラに買える品物は少ないのだ。
ウチとしては怪我しない内に、もっと言えば仕事を嫌がってウチを無言で飛び出す前に、ポンタ村からお迎えが来て欲しいのだけれどね・・・・。




