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大公様の館での受験勉強が無事に終わり、お店に戻って来た。
ランミス老先生のお陰で、会った事も見た事もない多くの貴族家の情報で頭はタップンタップンだ。
受験前のラストスパートでいつもより多くの貴族家の話になったからだ。
長編小説を読み切った読後感にも似たハイな気分だ。
「大公様はお元気でしたか?」と母さんが私の顔を見るなり聞いて来た。
「うん。お元気そうだったよ」
「伯爵様はお前が伯爵家を出た事、そして学園に入学する事について、何の腹蔵もなく受け入れてくれてるそうだ」
私が一番聞きたかった事を父さんが教えてくれた。
「まぁ、お前は伯爵家の使用人でもなかったし、その子供なんだから伯爵家が何か言える訳じゃないしな。どちらかと言うと、これからも家の店を使わせてくれって、そっちの方をよっぽど気にされてたよ」
「良かったぁぁ」
ホッとした顔の私の頭を愛おしそうに母さんが撫でてくれた。
父さんもニッコリと笑って私の頭を撫でてくれた。
「これで安心して店を続けられるな」
「そうねぇ、あなた。これも大公様のお陰ね」
「そうだな」
父さんと母さんが微笑み合うのを見て、私もニッコリと笑った顔を二人に向けた。
「で、お前の勉強の方はどうだ?入学試験は受かりそうか?」
「多分、大丈夫」
「そうか。本当に大公様には足を向けて寝れんな」
「うん。それはそうと、父さん、モンテベルデ家は何で貸し切りにしたの?」
今回の伯爵家の貸し切りは、ご長男、ヘルマン様のお見合いだったらしい。
伯爵家に比べればぐんと地位の低い子爵家の長女がお相手らしい。
その家は代々全ての子供が魔法スキルを持って生まれる事で有名な家で、魔法スキル持ちの後継ぎのない貴族家には昔から重宝される家らしい。
ただ、その家の魔法は生活魔法に近いらしく、火魔法スキルを持っていても、竈に火を点けるくらいの力しかなかったり、水魔法の時はコップ一杯の水を呼び出すくらいしかできないらしい。
要は魔法スキルは持っているが、あまり使える魔法ではないらしい。
だから、代々欠ける事なく魔法スキル持ちの子供が生まれて来る家にも関わらず、子爵家より地位が上がる事はないらしい。
貴族位を継ぐためには魔法スキルがあり、両親とも貴族であれば事足りるのだが、上位貴族ともなればどんな魔法スキルを持っているかもある程度問われる。
他に魔法スキルを持つ者がいなくて、しかたなく生活魔法レベルで上位貴族位を継いだ場合でも、その子孫にはより良い魔法スキルを持つ事が望まれるのだ。
そうでなければ、ある程度の年数を掛けて、段々と地位が下がっていく可能性が高いのだ。
大抵の上位貴族はそうなる前に第二・第三夫人と言った様に、貴族出の愛妾を増やし、何とか見栄えのする魔法スキル持ちの子供を作るらしい。
「ヘルマン様も相手に気に入られ様と大変そうだったよ」
「そうでしたねぇ。でも、お相手は優しそうなお嬢さんで、この話が決まると嬉しいですねぇ」
「そうだなぁ・・・。そうなるといいな。伯爵様も早く安心したいだろう」
あまりお客様の噂話はしない様にしているのだが、流石に元雇い主の未来は気になる様で、父さんと母さんもモンテベルデ家の場合は自然と話題にしてしまう様だった。
私としても早くヘルマン様に魔法スキル持ちの子供が出来てくれたら、モンテベルデ家を全く気にしなくて良くなるので、今回のお見合いが上手く行く様に祈っておこう!




