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「こっちの鍋をよろしく!私はお皿を洗うから」
ナスカがまだ湯気の出ている熱い鍋をラーラが洗っているシンクに投げ入れる。
別にいじわるで投げ入れているわけではない。
洗い物の数が多いので、料理人からも投げ入れられるし、ラーラとナスカのシンクは隣りあわせになっており、鍋を投げ入れたりしているのだ。
営業時間中、シンクには洗剤が入れられたお湯がタプタプにはられているいるので、多少投げても鍋が変形する事も少ない。
さすがに陶器やガラスの器等は投げ入れたりはしないが、ステンレス製のフライパンや鍋、オーブンの天板等はジャンジャン投げ入れられている。
つまり今ナスカが鍋をラーラの方へ投げ入れたのは、自分のシンクでは割れやすい皿を洗うので、鍋系は全部ラーラに担当してもらうと宣言したのだ。
数からしたらカトラリーまで含む皿やグラスの方が数が多いのだが、鍋は焦げていたり、熱かったりでどちらを担当してもそれなりに大変なのだ。
ポンタ村からラーラの迎えは未だ来ていない。
父さんが冒険者ギルド経由でガストへ手紙を書いたのは3日前だ。
これまでラーラは文句も言わずに一生懸命皿洗いと雑用を熟している。
彼女の着たかった綺麗な服が着れるわけではないのだが、休憩時間には王都の中をあっちこっちと見学に行っている様で、その事に関しては満足しているらしい。
「リア、一緒さえがね?」と一緒にウィンドウショッピングへ行こうと何度も聞いてくるが、私はこの『フローリストガーデン 光』を成功に導き、私がいなくても回る様にし、入試前にちゃんと試験勉強を終えておかなければならないのだ。
ほてほて王都内を散歩なんてしている暇はないのだ。
だから一度も一緒に王都内を見学した事はない。
ラーラは、最初恐る恐る王都の中を散歩していたが、3日も経つといつ村に連れ戻されても悔いが無い様にとせっせと歩き回っている様だ。
「リアがこった素敵なお店作るなんてなも思ってもみねがったんだげどげど、ランディがたげ自慢すてあったの」
「え?ランディはまだここへ来た事はないよ」
「うん、ばって、リアがらの手紙や麦畑の誓の面々がらの報告で、貴族街にでっけぐで素敵なお店作ったって聞いでらはんで」
「そうかぁ・・・・」
「なんか自慢すちゃーんだばって、作ったのはリアでランディでねばってねぇ」
「う~ん。村に居た時はランディはお兄ちゃんな感じだったし、今でもちゃんと家族として感じてくれているのかもしれないなぁ」
「ふ~ん」
「あ、そうそう。熊のまどろみ亭でフェリシアがお手伝いしてるって聞いているんだけど、どんな感じ?」
「えっとね、たげ張り切って手伝ってら。学校でもわんどのグループども良ぐ一緒さ遊んだりすちゃーすね。今では、わんどのグループはフェリスアだぢのグループどねっぱってまって一番でったらだグループになってらんだよ」
「へぇぇぇ」
私がラーラと話すのは賄いを食べる時くらいなんだけど、話題はもっぱらポンタ村のみんなの話だ。
「そうしゃべれば、父っちゃがね、熊のまどろみ亭のパイさ似だパン作って売ったんだばって、底ベチャベチャで、あんまり売れねがったんだよね~」
「そうなんだ。ガストさん、結局自分で作ってみる事にしたんだね」
「ううん。数日売ってみで、がっぱ売れ残ったはんで、今はもうやってねみだい」
「ほほう~」
ラーラによると『熊のまどろみ亭』のパイは相変わらず良く売れているらしく、食堂もかなりの頻度で貴族や裕福な商人が利用してくれているらしい。
私が王都へ出て来てからも、ちゃんと『熊のまどろみ亭』が上手くいってると聞くと心底嬉しい。
賄いを食べ終えるとラーラは母さんの所へ行き、ウエイトレスになる訓練を受けに行った。
王都観光もしながら、ちゃっかりどうやれば表の仕事に就けるかを母さんに相談したらしい。
子供にやさしい母さんは、大人になりかけのラーラにもやっぱり優しい。
給仕の方法や言葉遣い、体の動かし方等を徐々に仕込むらしい。
迎えが来ても帰らないと断言しているラーラだが、これからどうなるのか様子見が続きそうだ。




