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「♪リンゴ~ン」
「ん?誰か来たのか?」
「♪リンゴ~ン」
「やっぱりだ」
みんなで賄いを食べてる時に、門の外に備え付けられている鐘の音がした。
「俺が見て来ます」と、門番のグルーが席を立った。
アイドルタイムなので全員が地下の従業員控室で早めの夕食を食べていたのだ。
「アウレリア様。ラーラさんって方が来られてます」
すぐに戻って来たグルーがそう言った。
「え?どこのラーラさん?」
「ポンタ村だそうです」
「えっ?」
ポンタ村のラーラと言えばランディたちのグループの一員でパン屋のガストの娘ではないか。
何故、王都に?
口の中の鶏肉を慌てて飲み込んでお勝手口まで階段を上った。
果たして勝手口の外にはポンタ村のラーラが立っていた。
「どうして?」
思わず口から零れたその言葉にニッコリと笑ったラーラが「来ちゃった♪」と答えた。
え?来ちゃったってどういうこと?
????
私の頭の中はぐるぐるになった。
「えっとー、どうして王都へ?」
「田舎がいやっだはんで出で来てまった。ランディがらリアの話すは色々聞いであったはんで、こごで雇ってもらえねがど思って・・・・」とにっこり笑う。
「え?ガストのオジサンはラーラがここに居る事を知っているの?」
「うん。手紙は置いて来たし」
「ええええ??」
「で、私、こごで雇ってもえる?」とラーラは全然悪びれもせず、当然雇ってくれるよねってノリで私との距離を詰めて来た。
「えっと・・・・。王都で他に知り合いは?」
「いるわげねべさ」
「そうだよねぇ・・・・」
「あん田舎で一生を終わるのは嫌なの。お洒落な服を着て、都会で生活してのし。リア、お願い!」と許可もしていないのに勝手口から中へ入って来た。
「アウレリア、その方はどなた?」
なかなか戻って来ない私に業を煮やしたのか母さんが勝手口まで様子を見に来たらしい。
「ポンタ村でお世話になったラーラさん。パン屋の子なの」
「ラーラだて。いづもリアサはお世話サなてでゃ」とハキハキと話しかけるラーラ。
アウレリアではなく、ランディが付けたリアという愛称で私を呼ぶラーラを見て、母さんは大いに誤解したのだと思う。
「まぁ、それは遠いところから良くいらっしゃいました。もうお食事はお済?」
「いいえ。まだだて」
「賄いで良ければ一緒にどうですか?」
「喜んで~」
ラーラはまんまと地下の控室で社員と一緒に座って夕飯を食べ始めた。
「で、ここで働きたいって事か?」
「なんかそういう事みたい」
この店の店長は父さんなので、人を雇うかどうかも最終的には父さんが決める。
夕食を食べながら軽い面接の様相を呈して来た。
「あなた。先方の親御さんにラーラさんがこちらに来られた事を知らせないと心配されるのでは?」と母さんは雇うかどうかより、家出扱いになってないかの方が心配の様だ。
「そうだな。では、食事の後、冒険者ギルドへ行って伝言を頼んで来よう」
「す・すみません・・・・。ばって、私、なんたかんた王都で働ぎだぐで。村へはもう戻らね」とラーラの意志は固い。
父さんも苦り切った顔つきだったが、徐にラーラの方を見た。
「まぁ、取り敢えず、しばらくは家で預かるとして、全てはガストの意見次第かな。後、ラーラさんがちゃんと働けるかどうか、ここに居る間の様子で判断するのでいいですね」
「はいっ。はい。どうも。けっぱります」
こうしてウチに押しかけて来たラーラは地下の従業員用の部屋を一つ宛がわれた。
制服もないし方言が強いので接客を任せるわけにもいかず、結局、ナスカと一緒に皿洗いや雑用をやってもらう事になった。
本人は断然ホールでの仕事を希望しており、サマンサたちの制服を羨ましそうに横目で見ていたが、ずっと働いてもらうかどうか分からない人にまで制服を作る事はできない。
当分はガストの出方も見つつ、様子見かなぁ・・・・。
もしかしたらポンタ村から迎えが来るかもしれないしね。




