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「アウレリア、ちょっと・・・・」

 父さんが珍しく声を落として私を調理場の隅に呼んだ。

「どうしたの?父さん」

「卵の入荷が無いんだよ」

「え?」

「牧場からの荷馬車が襲われたんだ」


 実は今週はまだ週の半ばだというのに、これで2回目なのだ。

 最初は偶然盗賊にウチの荷馬車が襲われたのかと思ったんだけど、王都の隣村にある契約牧場からの短い距離に、こんだけ短い期間に二度襲われたとなると、ウチの荷馬車だと知っていて襲っている可能性が出て来る。

 いや、まだそんな判断は早計かな?

 でも、ウチの荷馬車を襲って、何か良い事があるのだろうか?

 荷としても運びづらい卵は奇襲を掛けて奪ったとしても、いくつかは割れるだろうし、あれだけ大量の卵を食べ切れるだろうか?

 ウチは塩釜焼きとかケーキも作っているから大量の卵が必要なわけで、そうでなければあの大量の卵を盗んだとして食べ切る前に腐らすだけだと思う。

 それにもし、販売が目的なら、卵何て高級品を大量に王都で売ったりしたら、めっさくさ目立つから『ここに犯人がいるよ』って自己申告する様なものだ。


 これは卵が欲しい人たちが襲っているのか、ウチの営業を妨害したい人が襲っているのか、その目的がはっきりしないので対策が通り一遍のものになりそうだ。

「父さん、護衛を付けても襲われるかな?」

「護衛かぁ・・・・。卵は贅沢品だから高い上に、護衛まで付けるとなると料理の値段が跳ね上がってしまうが・・・・」

「う~ん、でも父さん、贅沢品なら尚更護衛は必要じゃない?」

「う~ん、それもそうか・・・・」


「あなたたちどうしたの?親子して同じ立ち姿なのがなんか微笑ましいわね」

 フェイ伯母さんが何か口元をふにょふにょさせながら私たち親子を見ていた。

「アウレリアは顔とかはレティシアそっくりなのに、仕草はお父さん似だよね」

 サマンサも遠慮なしにそんな事を言って来た。

 それって褒めてるの?貶してるの?


「それはそうと・・・・」と、父さんの頭の中には卵の輸送がその大半占めているのだろう、伯母さんたちの軽口も耳に入ってないみたいだ。

「ギジェルモ、卵のことか?」

 父さんの顔を覗き込む様にスティーブ伯父さんが身を乗り出した。

「兄さん、そうなんだが、今週に入ってもう2回も襲撃されているって、こりゃあ、ウチの荷馬車を狙っているとしか思えないんだが・・・・」

「それにしたってウチの荷馬車には大公様の紋章の入った垂れ幕を付けているのに、それでも襲って来るっていうのは確かにオカシイんじゃない?」

 意外とサマンサは鋭いのね。

「そうなんだよなぁ」

 父さんは今日の料理に卵が使えない事より、これから先の輸送の事に頭を悩ませている様子。


「今日のケーキは卵の必要のない物を私が作りますね」

 私の頭の中にはチーズや生クリームは使うけど、卵が必要ないチーズケーキが思い浮かんだ。

 卵を使わないお菓子って本当に少ないから卵が入手できなければウチの店はかなりキツイのだ。

 後は、私のスキルを使って卵を出す事だが、あれだけの量の卵を呼び出すのに魔素が足りるかどうか不安だ。


『卵よ、出てこい!』

 あ、必要な魔力はそうでもない。

 なんとか今日必要な卵を呼び出す事が出来そうだ。

 今日は夜の予約がなくて助かった。


 藁で編まれた卵保管用の籠にこんもりと卵を載せた。

「父さん、これ・・・・」

「おお!どうしたんだ、それ?」

「魔法で出した」

「ああ!その手があったか」

 前回は今まで余った卵をストレージに入れていたので、それで何とか急場を凌いだのだが、その時余剰分の卵を使い切っていたので、今日はかなりピンチだったのだ。

 スキルで呼び出す事が出来て良かったよ。


 結局、卵を使わないチーズケーキも作って、卵を使うデザートを少なめにしてその日は通常通りに営業をした。

 ケーキも別段違和感がなかったのか、客は普通に食べて満足してウチの店を後にした。


 それにしても犯人の動機を調べるのと、何等かの対応策を考えないと。

 卵代を払っているのに使えないとなると大損害だ。

 まずは護衛を付ける所からだね。

 父さんは値上げするのを嫌がっていたけど、殆どのお客がお貴族様なんだから、少しくらいの値上げは問題ないと思うんだよね。

 なんなら、護衛付きで卵の他にも別の農作物をもう一台荷馬車を用意して一度に運んでしまえば、安全に材料を運べるし、護衛代も1回分で済むしね。

 高級食材を扱っているんだから護衛もウチの社員として雇えばずっと安上りに護衛してもらえるはず。

 我ながらいいアイデア!

 後で父さんに相談してみよう。

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