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「大公様の御紹介枠をあてにして来たんだが。席はあるかな」
「これはこれはガルフィールド様。いつもご愛顧をありがとうございます。もちろんでございます」
「それはありがたい。急な商談でな。ここで食事しながらだと商談も纏まりやすんだよ。いや、助かった」
母さんが受付で急に来たガルフィールド様に対応している後ろ姿が見えた。
「ガルフィールド様、こんにちは。本日はようこそお出で下さいました」
門番のグルーが先回りして大公様の精鋭が来たと知らせてくれたので、私も調理場から出て母さんの横に立ってお迎えした。
「おお!アウレリアか。頑張っている様だな」
「はい、お陰様で」
「うん、今日も美味しい料理を頼むな」
「はい」
製鉄業のトップであるガルフィールドの右斜め前を母さんが先導し、彼らを奥まった席へ案内した。
「ここはね、今大公様が援助している子が始めたレストランなんだよ。さっきの子なんだけどね」
「え?あんなに小さいのに?大公様の精鋭の一人かぁ」
「まだ、これから学園を卒業しないと精鋭の中には入れないけれど、将来有望な子だ」
「ほぉ、じゃあ、今日は未来の大公様の精鋭が作った料理を堪能できると言う訳だな。こりゃ、ありがたい」
メニューを手渡し、母さんがすっと一旦テーブルから離れた。
実は1つのテーブルだけは大公様枠として常に空けてある。
大公様ご自身が使われなくても、ご紹介として突然対応を頼まれる客が送られてくる事もあるので念のために用意されているテーブルだ。
地球のホテルが上客用に常にいくつか空室を確保するのと同じ様なモノだ。
たまにそういう風に大公様に便宜を図ってもらった事のある高位の貴族なんかが、あの席空いてるならよろしく頼むよなんて捻じ込んで来る事もあったりするので、母さんの心労も大変だろうと思う。
貴族の場合は、大公様から直々に何らかの話がある時だけ対処させてもらっている。
でも、大公様の精鋭集団の方なら大公様と直結していると思って間違いないから、大公様からの案内状がなくてもささっと大公様用のテーブルにお通ししたのだ。
その他にもお貴族様相手だと色々と気を遣う事も多い。
開店の時の課題であった同じテーブルにおける給仕の順番に関しては、上席に座られた方からの配膳となる事を各テーブルに置いてあるメニューに書かせてもらった。
それと同時に、母さんには顧客リストというのを作ってもらっている。
あまり字が得意でない母さんに代わり、書き込むのはクロークにいるパンクだ。
客が帰る度、母さんが小声で指示を出すのだ。
『●〇伯爵夫人 特徴:明るいブロンド 口元に黒子 中肉中背 声が大きい
4/25 ◎マヨネーズドレッシング にんじんのポタージュ、鯛の塩釜焼き ◎チーズケーキ
要望:1)昼もカクテルを出して欲しい
2)週一回のお休みをやめて、ずっと営業して欲しい
同席者:▲×伯爵夫人、〇◎子爵夫人』と言った具合に、どこの誰で身体的特徴は何か、何時来店され、どのメニューを召し上がり、どれを美味しいと言われたか。
要望の有無や、同席者等も分かる事は全て記入して、ABC順に名前でファイルして顧客帳とした。
最初は面倒くさがった母さんとパンクだが、給仕の皆が顧客帳のありがたみを感じるのにそんなに時間が掛からなかった。
嬉しい誤算は、字の読み書きが苦手な母さんが、真面目に字の勉強をし始めた事だ。
これで、敵対する派閥の客が隣同士の席になるのを避けたり、各顧客の好みの味が把握できるため、同じポタージュスープでもほうれん草ではなくコーンポタージュの方を薦めて対応に満足されたりと色々と便利なのだ。
昼間の飲み物としてワインも出しているが、ウチの隠れたヒット商品の方が断トツ人気だ。
隠れたヒット商品、それはお水だ。
浄水器を通した美味しいお水は、この世界では贅沢品なのだ。
もちろんタダじゃないよ。
しっかりお金貰ってるよ。
それでも飛ぶように売れるのだ。
中にはメイドとかに容器を運ばせ、それに水を入れてくれとお持ち帰りをしたがる客もいるので、こちらもウチでお食事をされた時のみ有料で売っている。
濡れ手に粟である。わっはっはっは。




