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「大公様。ようこそお出で下さいました。大公様のお力無しには完成しなかったお店でございます。隅々までご覧いただければと思っております。ですがまずは、どうぞこちらでウェルカムドリンクをお試し下さい」

 開け放たれたステンドグラスを嵌めたドアから入って来られた大公様をコックコートを着た私がお迎えした。

 傍目に見たらちょっと異様な光景かも・・・・。

 今日は開店お披露目パーティだ。


 主客はもちろん大公様。

 だって、パトロンだしね。

 その他の招待客も大公様サイドで厳選された貴族や大商人だ。


「なかなか居心地の良さそうな店に仕上がったな」

「ありがとうございます。こちらはバーというコーナーで、お食事のテーブルのご用意が出来るまでお酒をお飲みいただく所でございます」

「ほう、酒か」

「はい。カクテルという新しい飲み物を幾つかご用意しておりますので、どうぞお試し下さいませ」

「そうか」

「こちらのバーテンダーからお酒の説明をさせて頂きますので、お好きな物をお申しつけ下さい。その後、給仕長から当店の設備等をご案内させて頂きます」

 私はまだ料理の仕度があるので、ここで大公様に断りを入れ調理場へ引っ込んだ。


「柑橘系のドレッシング、出来上がったよ!」

 マルタ伯母さんがお洒落なガラスのドレッシングポットに注ぎ入れた薄黄色のドレッシングを配膳テーブルの前に置いた。

 スープは2種類共もう出来ているので、今は5種類のドレッシング作りをお願いしている。

 調理場は戦場の様だ。


 まだ食事も始まっていないのに、調理に使った様々な鍋やフライパンを私のスキルで作ったアクリルタワシでゴシゴシと洗っているナスカも含め、調理場の中は戦場の様だ。

 ナスカはハムたちと同じ孤児院で、皿洗いが必要となった時に彼らが紹介してくれた。

 彼女も、就職が難しい孤児院出身者なのでウチに雇われた事に深く感謝してくれ、いつも全力で働いてくれている。


 熱いお湯で鍋や皿を洗うのは大変なので、火傷しない様にスキルで作ったゴム手袋をしてもらっているが、それでも子供の柔らかい肌は熱さに敏感だ。お湯での皿洗いは大変だと思う。

 でも、ナスカは一度も愚痴を言った事がない。

 今までは野菜の下拵えや賄いの後始末、掃除くらいしか仕事がなかったけれど、今夜からは本格的に皿洗いの仕事が始まるので、仕事量も段違いだろう。

 十代後半の彼女の体力が続く事に期待したい。


 今夜はレストランのお披露目なので、全てのメニューを少量づつ出す予定だ。

 スープだけは最初にコンソメとポタージュの2種類の内から選んでもらうが、メインはワンプレートに一口サイズに切り分けられた物を全て載せる。

 デザートもそうだ。

 チーズケーキの欠片を載せたプリンアラモードだ。

 アイスクリームも乗っているし、綺麗に切られたフルーツも山盛りだ。

 女の子の夢がここにはある。


 お貴族様たちに気に入ってもらえたら嬉しいのだが、一応、甘い物が苦手な方にはチーズの盛り合わせとウイスキーっぽいお酒を出す事になっている。


「ふふふふふ。何?これ。綺麗だし、美味しいわ」

 若い女性の声が響いた。

 バーコーナーの辺りだ。

 大公様ご一行より半時間遅く到着する様に招いた招待客の一人なんだろう。


 私が顔を出したのは大公様が来られた時だけで、他の招待客は給仕長である母さんが一手に引き受けてくれている。

 お酒が入って気が大きくなった令嬢が、自分が大きな声で話しているということに気付かず、まだ大きな声で連れと話している。

「ねぇ、そっちのもちょっとだけ味見させて」

「えええ?う~ん、お行儀悪いわよ」

「何でくれないの?一口でいいのに」


 連れから一口分を分けてもらえなかったのが不満な様で、連れが飲んでいるのと同じものをトマムに頼んだ様だ。

 一人が何杯飲んでも本日は無料なので問題は無いが、最初の一杯で既に酔っている様なお客に更にもう一杯というのは危険だ。

 どうしようと思っていると、母さんがトマムに言って、アルコールが少な目なカクテルを作って、飾りのフルーツを増やした様だ。

 うん、これなら接客は母さんに任せておけば大丈夫だろう。

 私はデザート作りに専念させてもらおう。


 そうこうしている内に招待客も全員来てくれた様でバーからレストラン部へ移動して着席してもらい、サラダ、スープと進み、いよいよメインだ。

 本来なら高位の貴族である大公様が最後に会場に着くのが普通なのだが、じっくり店舗を見てみたいとの大公様のご要望にお応えし、大公様が一番乗りとなったのだ。

 一般の客が全員揃うまでお料理をお出しできなかったのだが、しっかり店舗をご覧いただいていたら30分の違いなどアッという間に過ぎてしまい、そう待たせる事なくお出しできるのでホッとした。


「塩釜焼き、上がったよ!」

 トム伯父さんがオーブンから塩釜焼きを3つ取り出した。

 ウチのオーブンは業務用の大きさで、パンやチーズケーキを焼くオーブンの他に肉とかグラタン用のが2台もある。

 この大きさのレストランならば、これくらいは必要だよね。

 オーブン料理多いしね。


 一口サイズのメインが乗っているワンプレートを運ぶ母さんやサブリナたちの他に、塩釜焼きを載せたワゴン3台を押すスティーブ伯父さん、トム伯父さん、マルタ伯母さんが給仕たちの後に続いてお客のいるスペースに向かった。

 塩釜焼きだけは客前で木槌で叩き割るパフォーマンスを披露して、給仕するのだ。

 その方が華やかで、お客様の印象に残りやすいので、リピーターが増える事を期待しての事だ。

 コンコンと木槌で塩の壁を叩く音が広いレストランの離れた3か所で響き渡った。

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派手な演出と言えばフランベよね
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