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- 王都の大公館のダイニングルーム -
「俺たちはみんな大公様の援助を受けて来た。ありがたいことに今はお前も援助を受けている。そしてこうやって学園入試前の壮行会まで開いてもらっている」
マノロ伯父さんと同じくらいごっつい体のガルフィールドさんがステーキを口に放り込みながら向かいの席から私の目をじっと見た。
「はい。ありがたく存じます」
私の返答を聞いてガルフィールドさんの肩がピクっとなった。
「その年で、それ程ちゃんとした受け答えが出来るということは、お前は相当優秀なのだろう。学園を卒業し、事業を始めたら大公様のお力になる様に」
「はい」
ガルフィールドさんに言われなくても大公様の御恩に報いる心算でいる。
だって、大公様のお力がなければ王都へ戻って父さんたちと一緒に暮らす事も出来なかったし、魔法について学園で学ぶ機会さえなかったのだから。
もちろんお店の方も大公様の財力や人脈がなければあんなに素敵なお店を作る事もできなかったし、素材だって簡単に手に入れる事はできなかっただろう。
心から感謝しているのだ。
「この子は今までにないくらい優秀な子で、学園の入試にも全然不安がない」と大公様がおっしゃると、この壮行会に出席している数人の大人が所在なげにあらぬ方を見やった。
恐らくだが、大公様の援助を受ける際、学園への入試で非常に苦労した事のある方たちなのだろう。
そんな出席者に目も向けず、大公様は「それにしても世の中、いろんなスキルがあって面白いのぉ」とカカカカと笑う。
趣味を兼ねたノブリス・オブリージュなのか、これまで大公様が援助してきた平民や下級貴族は可成りの数に上る。
たまたま私がその人たちの末席に名を連ねる可能性があるので、本当にラッキーだったと思うよ。
王都へ来てこれまでは大公館で学園の入試に向けて勉強していたのだが、大公様が手配して下さった講師の方々からもう教える事はないと言われ、今後は大公館に来なくて良くなったので、大公様が壮行会を開いて下さったのだ。
実はまだ入試直前に復習を兼ねて一度は大公館へ戻り最後の勉強をする予定だけれど、毎週2日勉強のために通う必要はなくなった。
レストランの準備でバタバタしているので、行ったり来たりしなくて良いだけで可成り体が楽になる。
今夜のお食事会の料理は大公館の調理師が作ったモノで、珍しい食材なども使われており豪華だ。
私の料理の勉強も兼ねているんだと思う。
ガルフィールドさんはさっきから健啖家ぶりを発揮し、話をしながらも口には常に何らかの料理が入っている状態だ。
彼は平民で火魔法スキルを持っており、金属の加工に使えるくらいの火力を誇っている。
この国の主要産業である鉄鋼業のトップである工房の持ち主であり、今後、鉄関係については直にガルフィールドさんに相談する様にと大公様に言われた。
私の右隣に座っているハロルドさんは可成りお年を召しており、水魔法スキルで他のスキル持ちに比べ非常に大量な水を生み出す事ができるという事で紙パルプ産業を興したそうだ。
「こやつは農業に水を活かせば良いものを、ただ水を生み出すだけでは面白くないと言って、羊皮紙しかなかったのに木で作る紙を作り出してしもうた。お陰で最近は手軽に大量の紙を入手できているので助かっておるがのぉ」と大公様が嬉しそうに横に座っているハロルドさんの肩を叩いている。
「ハロルドだ。ここに居るみんな、大なり小なり大公様に援助頂いて今の地位にいる。お前もいずれはそうなるはずだ。お前のスキルを活かして大公様のお役に立つように」
『大公様の精鋭集団』のみんなは一様に縦に頭を振っている。
「はい。私もスキルを活かしてお役に立ちたいと思っております」と言うと、またみんなが無言で頭を縦に振っている。
「こ奴は王都にレストランを開業する予定で、既に箱ものの準備は済んでいる。お前たちも贔屓にしてやる様に」と大公様からウチの店の宣伝をしてもらった。
いや、宣伝というよりは、私にみんなへの便宜を図る様にという事なのかもしれない。
急ぎで用意しなくちゃいけなくなる事もあるかもしれないので、常にテーブル1つ分は大公様や『精鋭』の皆さまの為に空けておく方が良いかもしれない。
「儂が援助をするのは、恩返し云々を求めているのではなく、我が国の産業や文化が発展する事を願っての事だ。だから、やりたい様にやれば良い。多少の事なら儂の後ろ盾でトラブルを解消したりもできるだろう」
そうはおっしゃって下さったけれど、やはり私も含め皆が大公様に恩義を感じているので、大公様のお役に立つ機会があればもちろんそれを逃す心算はないし、大公様にご迷惑を掛ける事は極力避けたいと思っているのだ。
「そいつは変わり種でな、漁師をしているペドロだ」と大公様が私の左側に座っている比較的若い男性を紹介してくれた。
精鋭集団の一人なのに漁師なの?と思っていたら、「ペドロです。雷魔法スキルを持っています」と自己紹介された。
え?雷魔法なのに漁師なの?なんて思っていたら、海の一部を囲ってその中で雷魔法を使い、麻痺して水面に浮かんで来た魚を獲っているらしい。
王都オルダンテは隣国との境にある内陸地に位置しているので海は遠いのに、魚は豊富に売られている。
どうやら麻痺させた魚を運ぶので、鮮度が落ちずに王都で売る事が出来るということらしい。
大量の魚を鮮度が良いまま運べるペドロさんは年に見合わず可成りのお金持ちらしい。
う~ん、折角の雷魔法をそんな事に使っているのかと少し呆れてしまった。
その他にもいろんな魔法スキルを持っている人を紹介されたけれど、不思議な事に魔法省のトップとか役人はいなかった。
後でダンテスに尋ねると元々が平民や下級貴族なので役人的なポストのトップを占める事はないとのことだ。
大公様の精鋭集団の特徴として魔法スキルを活かした工業・産業のトップが多いそうだ。
そう言われてみるとなる程~と納得できた。
学園を卒園する頃には、私も大公様の精鋭集団の一人になっていたい。
その為にも学園へ入学し、レストランを成功させないといけないなと今一度気持ちを引き締めた。




