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「姉さん、水色のシーツは私のよ」
「何言ってるの。サマンサのは白色でしょ?お店でそう話し合ったじゃない」
「えええ!?違うよ。姉さんは結局白にして、自分で刺繍を入れるとか言ってたじゃない」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
買って来た生活必需品をサブリナとサバンナが姦しく分けているが、仕事は明日からなので自由に喧々囂々やってくれて構わない。
今、私がやらなければならないのは、みんなに合ったサイズの制服を支給することだ。
給仕はみんな同じ制服にしないと、サブリナとサマンサが喧嘩をしそうだ。
ウチの店のシンボルカラーは紫にした。
紫は地球でも高貴な色とされていたが、この世界でも王家等が好んで使う色なので、ロイヤルパープルの青味の強い紫とは趣の違う茄子色にした。
偶然にも先に手配していたテーブルクロス等が茄子色だったしね。
料理人はコックコート、給仕は女性と男性で少しデザインが違うが、白と紫が基調だ。
男性は執事が着る様な白シャツにグレーのベスト、丈の長い紫のコート、そしてクラバットの代わりのスカーフ。
女性は裾の長いメイドドレスで袖はレッグオマトンスリーブ、背中でクロスにして結ぶ白のエプロンと襟の下にスカーフ。
ウエイトレスの頭にはフリルカチューシャで白色にして清潔感を強調。
給仕長はスカーフが艶のある黄色、その他はこれまた艶のあるグレーのスカーフを飾り結びする様になる。
当初はスカーフの色はそれぞれが好きな色にしようかと思ったが、今日のサブリナたちを見ていたらわざわざ喧嘩の種を植え付ける事もないと、給仕長以外は同じ色にする事にした。
この世界の女性使用人は、裾の長いスカートの上に、ステイズ・ペティコートを纏い、その上からジャケットやガウンを羽織る。
頭には現代地球のアーミッシュが被っている様なボンネットを被り、髪をあまり見せないのが普通だ。
だから、ウチのレストランの制服はとても変わっていて目立つ事間違いなし。
でも、ただ悪目立ちするのではなく、都会的な香りを醸し出す事を目標としている。
絵を描いて、それを元に地元の洋装店に製作を頼む様手配しており、親族みんなのサイズは、昨日の内に洋装店の人が家に来て一通り測って行った。
まぁ、コックコートの方は先にMとかLとかの大まかなサイズで作ってもらっていたので、明日からでも着てもらえるけど、ウエイトレス、ウエイターの服はちゃんと各自に寸法に合わせて作ってもらうので数日は掛かるだろう。
もちろん、コックコートの方も後からゆっくりそれぞれのサイズに合わせて作ってもらうんだけどね。
ま、とりま、早く調理の練習をしてもらわないとなので、あり合わせの制服で仕事してもらうってだけ。
バーテンダーは『麦畑の誓』の紹介で、トマムという40代の男性を雇った。
彼には白のワイシャツに、紫のベストとネクタイ、黒のソムリエエプロンを身につけてもらう事にした。
トマムは痩せて背が高く、ポンタ村を管轄している貴族家で働いていたそうだが、仕えていた老子爵が亡くなり、その後を引き継いだ現子爵と折り合いがあまり良くなかったそうで、辞めてウチへ来てくれた。
この世界にはまだカクテルなんてないので作り方を教えなければならないが、貴族家で給仕の経験が長いので、即戦力になってくれるはずだ。
この世界にもジンやウォッカに似たお酒はある。
テキーラは追々作るつもりだ。
サイドビジネスで酒蔵を経営するのも良いかもしれない。
まぁ、その辺はこのレストランが軌道に乗ってからだね。
それにまだ、学園に入学すら果たしていないので、先にやらなくちゃいけない事から順繰りにだ。
ここのバーで出すカクテルは5種類にして、慣れて来たらいろいろ増やしたいと思っている。
ジントニック、ジンフィズ、ブランデーなしのシンガポールスリング、モスコミュールとソルティードッグの作り方と、盛り付け方を一つずつカラーで絵を描き、バーカウンターの内側に貼り付けている。
そして!カクテルのグラス。
これも楽しみながらスキルで作り出した。
横から見たら逆三角形に見える一般的なカクテルグラス。
丸みのあるソーサー型のシャンパングラス、モスコミュールを入れるための細長のコリンズグラス。
カクテルだけじゃなくてワインも出すので、ワイングラスも作った。
全て手で持つところのステイの部分やテーブルと接するプレートの部分に紫色のシンボルカラーをお洒落に入れている。
コリンズグラスなどは飲み口から2ミリのところに紫色のラインが入っているし、食器も含めて全てウチの店の紋章を紫で入れている。
ダンテスに言われて店の紋章を作ったんだよね。
商店として登録する時にあった方が良いと言われたんだよね。
だから庭の花々に恵みを与えてくれる太陽を示す円の右下に重なる様に私の好きな桜の花と円の中にはトライバルなラインで飾りを入れたものにした。
もちろんメジャーカップやシェーカーなどのカクテル作りには欠かせない道具も作った。
生のフルーツもふんだんに使うため、手動のジューサーも造り出した。
もう、いつでもカクテルなら作れるぞって感じだ。
トマムへのカクテル作りの特訓は、来週から始めるので、まずは親戚たちの研修が先だ。
ふぅ~と、思わずため息が漏れた。




