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「ここは調理場です。調理器具は私のスキルで作った物が多いので、最初の内は慣れないかもしれませんが、明後日から一緒に調理の練習を始めるので、使い方はその時に教えますね。とにかくここで料理をして、こちらのテーブルに出来上がった料理を載せると、給仕が運ぶシステムになっています」
「「「おおおお!」」」
「こちらはバーになっています。お客様が夕食の席に案内されるまで、お酒を飲みながら待つ所です。ここでは料理は出しません。飲み物と簡単なおつまみだけです。全てのお客様が利用されるのではなく希望者だけが使います。当分はお昼のみの営業にするので使いませんが、夜の貸し切りパーティは承るので、その時は利用します。お酒を出す人は別途雇う心算なので、みなさんはバーで働く事はありません」
「「「ほうほう」」」
バーといってもバーカウンターで固定の背の高いスツールが7席あるだけだ。
しかし、壁は鏡張りになっており、お洒落な電灯の下にいろんな種類の酒瓶とお洒落なグラスが並んでいる。
スキルで作ったネオンサインも飾ってある。
食堂に必要な物として無理くりスキルでネオンサインの部分は作った。
電気の無い世界なので魔石を使えば点灯できるんだけど、魔石に関する知識が私には欠落しているためはっきりと想像ができずスキルでもちゃんとは作れなかったので、結局ネオン部分だけスキルで作り、魔石と結合する部分はプロの錬金術師に頼んだ。
これは予想外の出費で結構痛かった・・・・。
でも、光が点ったらめっちゃお洒落になる予定。
バーの内側にはこの世界の高価な冷蔵庫と冷凍庫が客席からは見えない様に配置されている。
こちらも魔石で機能するのだ。
「ここからがレストランになります」
庭に面した壁一面が全て仕切りのないガラスになっており、陽が燦燦と降り注いている。
カトリーヌ推薦の調度品は貴族仕様でお洒落な物を搬入してもらっており、もちろんカラー等も統一感を持って揃えたのでただただ素敵なのだ。
アルマグロに特注で作ってもらったレースのカーテンもそこはかとない高級感を醸し出し、席と席の間にはしっかりとスペースが設けられ、座った人の頭の高さの鉢植え植物がそこかしこに配置されている。
「これは強化ガラスなので、ちょっとぶつかったくらいでは割れないんですが、けが人が出てもいけないので、こんな風にシールが貼られています」と、ガラスに貼った小さな花の絵を指さした。
「「「おおおお!」」」
「これはすごい!何にも無い様に見えて、ちゃんとガラスがあるなんて。こんなきれいなガラスは初めて見た!」と誰かが言った。
そして、ウッドデッキへ出るガラス戸を開けて外へ出ると、7つのパラソルの下に夫々テーブルと椅子が配置されている。
こっちには仕切りになる様な植物等は置いてない。
戸外なので開放感を大切にしたのだ。
ステンドグラスを嵌めこまれた玄関ドアの横のクロークの部分を説明し、一路、客用温室へ向かった。
「実は温室は中で二つに分かれています。こっち側がお客様が入られて軽食を頼まれたり、お茶会をされたりするところです。あっち側の温室は熱帯気候の植物を育てており、基本、庭師か料理人以外立ち入り禁止で、普段は鍵がかかっています」
「「「おおおお!!!」」」
ウチの親族のボキャブラリーは少ない様で、今のところ殆どが「おおお!」しか言ってない。
でも、この世界ではオーパーツになる物がゴロゴロしているので、カルチャーショックは半端ないと思う。
みんなを正門まで連れて行き、「ウチは下級貴族の屋敷を買い取ったので、庭を作ると馬車寄せを作るスペースは取れませんでした。基本的に正門の前で下車して頂き、近所迷惑にならない様にお客様の方で適当な所に駐車してもらう事にします。決して高位の貴族様が来られたからと言って、馬車を中へ入れる事だけはしないで下さい。ウチの店の売りには庭園も含まれていますので、庭園を荒らす行為はご法度です」
親族全員が無言で頭を縦に振っている。
「明日は、身の回りのモノを揃えたりするのに使って下さい。お仕事は明後日からにします。仕事中は制服を支給しますので、必ずそれを着て下さい。質問はありませんか?」
誰も何も言わなかったので、疑問があれば追々聞いてくださいと言って、夕食までは自由行動にした。




