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「うわぁ。すごい素敵!」
「お貴族様の館みたい!」
馬車から降りるなり、トム伯父さんの二人の娘は庭と屋敷を見て駆け出した。
「おい、お前たち!自分の荷物は持てよ!」
トム伯父さんから言われ、サブリナもサマンサも渋々馬車の方へ戻って来た。
そうなのよ。大公様の馬車なので、到着すればすぐにでもお返ししたいのだ。
ウチの店は庭に敷地をたくさん取ったので、馬車回し用の道はないのだ。
だから馬車は正門の外側に臨時で停めているのだ。
往来の邪魔にもなるから、早く馬車を空にしようね。
父さんと私が御者たちにお礼を言い、親戚二世帯を本館の裏口まで案内した。
裏口に着くまでも、「うわぁ、池があるぅ」だの、「あの大きなガラスの建物は何?」なんてトム伯父さんの娘たちは姦しい。
普段ならトム伯父さんや奥さんのマルタ伯母さんが注意するんだろうけど、伯父さん達も口をあんぐり開けたまま父さんについて歩いているので、それどころではない様だ。
「店や庭については後で案内するから、今は荷物を持って、それぞれの部屋に置いて欲しい。それが終わったら簡単に屋敷の案内と、お茶を飲みながら仕事やここでの生活について説明をしよう」
大公様の資金で開業できるのだが、一応この店の店長は父さんである。
だから、親戚一同への説明も父さんの仕事だ。
私はまだ学園が始まってないので、それまでは父さんのブレーンとしてこの店に携わっている。
店の立ち上げだけでも私のスキルを山ほど使うので、私の果たす役割はとても重要だ。
一度開業して、植物などの育成も波に乗ったら、私の手からはある程度離れると思っている。
というか、そうでなければ学園でおちおち勉強とか出来ないもんね。
「さぁ、この二階が兄さんたち家族に住んでもらう所だ。寝室が5つと居間が2つ、トイレは共有になる。俺たち家族は上の階に住むことになるから、何かあればいつでも来て欲しい。寝室の割り当ては二家族で話し合って欲しい。居間は隣りあわせになっていて、真ん中の仕切りは壁にしか見えないだろうが、折りたためるので大きな一つの居間としても使える」
私の前世の記憶を活用して、レールを使用したスライド型木製折り畳みパーテーションを設置したのだ。
もちろんレールは私のスキルで作った。
父さんが実際にパーテーションを折りたたんで居間を繋げてみせると、みんなから「「「「おおおー!」」」という声が上がった。
「家族毎で使ってもいいし、どちらかの家が客を呼びたい時にパーテーションを畳んで広く使ってもいい。もちろん、普段から二家族で一緒に使いたいなら、最初っから折りたたんでいてもいいし、好きに使ってくれ」
父さんの説明を聞きながら、スティーブ伯父さんところのパンク君が忙しなくパーテーションを畳んだり、広げたりしている。
男の子って・・・・こういう物を前にすると落ち着きがない・・・・。
さっきまでの落ち着きはどこへ行ったのだろう?
「じゃあ、みんな全員で話して、誰がどの寝室を使うか今決めてくれ。荷物を部屋に置いたら、ここに集まってくれ。あっ!パンク、パーテーションは開けたままにしといてくれ」
父さんに促されて、みんなで寝室を決めて、荷物を置きに散った。
サブリナとサマンサはこちらの世界のじゃんけんを何度も繰り返して部屋決めをしていた様だった。
仲が悪いのかな?
それとも姉妹ってこんなもんなのかな?
現世でも、前世でも、前々世でも兄弟のいなかった私には永遠の謎だ。




