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「父さん、温室の前に池を作って欲しいの。でね、本館からお客様がお食事できる温室までは砂利の道とレンガの道、どっちがいいかな?」
私が作っている温室は外見は1棟なんだけど、真ん中にガラスの壁があり、中で行き来できない様にしている。
門側は胡椒など貴重な食材の調達のための温室で、本館側はお客様がお食事したり、パーティを開いたりするための温室なのだ。こっち側は見栄えの良い花などを父さんに選んで購入してもらっている。
「池かぁ。どのくらいの大きさがいいか?」
私は足で地面にズズズと線を引いていく。
「そのくらいの大きさかぁ。中で魚でも飼うつもりか?」
「うん。魚と亀と睡蓮とか・・・・」
「小さなサンクチュアリが欲しいのか?」
「うん。お庭を散歩するお客様から温室の中が見えない様にするために、庭と温室の間に距離を置くための池でもあるの」
「ほう。アウレリアは幼いのに良く考えているな」と、土で汚れたままの手で頭を撫でられて、慌てて後ろに飛びのいた。
「ごめんごめん。うっかり手が汚れていたのを忘れていたよ」と大きな口を開けて笑う父さんは、一度は手放した子供が一緒にいる事が嬉しいらしく、事あるごとに頭を撫でてくる。
土のついた手で撫でられたのは、王都に戻ってから既に何度もやられている・・・・。
まぁ、私も父さんたちと一緒に住めるのが嬉しいので、多少の事は気にしないけどね。
「で、本館から客用の温室までは、料理を運ぶ道という理解でいいか?」
「うん」
「トレイに乗せて運ぶのか?」
「あっ!」
そうだった、本館から一度外に出なければ料理を運べないので、パーティなどの大人数ならばトレイでは捌ききれないかもしれない。
これはキャスター付きのワゴンでないと難しいかもしれないが、この世界ではそんな物はまだ作られた事がない。
だって、お貴族様の館でも使用人の数に物を言わせ、人海戦術でトレイで運んでいるのだ。
父さんにワゴンがどんな物か分かってもらうために、作ってみなくちゃ。
「父さん、ワゴンで料理を運ぶんだけど、ちょっとスキルで作ってくるね。待っててー」
言うやいなや鉄等が置いてある資材保管場所まで行き、『調理具製作』でワゴンを作ったが、結構なMPを消費した。
ゴムやプラスチックが用意された材料の中にないからだ。
この世界にもゴムってあるのかな?あるといろいろとモノづくりが楽になるのだけれど・・・・。
パイプで中抜きしているので見た目より断然軽いワゴンをカトリーヌに頼んで両手で持ってもらい、父さんの所まで移動した。
キャスターが付いているから押して行きたい所だが、地面の上を転がしてコロに傷がつくのが嫌だったのだ。
大公様からお借りしているメイドをこんな事に使って良いのか・・・・?
うん、良い事にしよう!
客用温室の飲食スペースには琥珀色のアンバーメイプルの様な木材で床を張っている。
そこでワゴンを転がしてみせると、「本館からの道は両脇をレンガにして道の部分を石畳にした方がワゴンが安定するだろうし、色味も綺麗だ」と言いながら、父さんは既に道を真直ぐに敷くか、遊びを設けるかの方に気がいっている様子。
ちなみに客用温室の花壇の部分は赤レンガで囲っている。
イングリッシュガーデンの手法で、温室の壁際は背の高い木を、手前になる程背の低い木や花を植える予定で、父さんがあっちこっちから植物を仕入れて来てくれている。
食材用の温室は100%土床なのだが、植える物は私のスキルで呼び出した珍しいものが殆どだ。
胡椒以外にもバナナやパイナップル、いちごなんかも育てる予定だし、普段は市場にあふれている野菜でも冬になると姿を消してしまうモノも育てなくちゃね。
私のスキルで呼び出すのではない苗や種等は、父さんがせっせと集めてくれていて、すぐに植えないモノは私のストレージで保管している。
庭が売りのレストランなので、父さんが好きなように造る庭は母さんも私もとっても楽しみにしているし、何より主家に言いつけられたデザインではなく自分好みの庭園を造れるとあって生き生きした父さんを見るのが何より嬉しくて、私たち親子はここのところずっと笑顔だ。




