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「すみませーーん。それでは今日はこっちに強化ガラスを作りますね」
工事の現場監督のタルボットさんに声を掛けて、大工や作業員たちには昨日と同じ様に店舗側ではなく調理場側へ移動してもらった。
店舗側はほぼほぼ改装が終っており、今はバーと調理場、そしてトイレに取り掛かってもらっているので、私が店舗側でガラス作業をしても大工さんたちに影響はない。
壁と同じ高さの大きな強化ガラスは全部で3枚必要だ。
レストランの客室部分から外のウッドデッキに出るための引き戸タイプが2枚、玄関扉を挟んでバーが出来る側に嵌め殺しが1枚。
食事待ちのカウンターのみのバー側は、普通の壁でも良かったのだが、夜ほのかな照明を放つバーを庭から見て幻想的な雰囲気を楽しんでもらおうと思いついたので、ガラス壁にしたのだ。
これで、正面から見た本館1階の壁は全てガラスになる。
嵌め殺しの1枚は昨日作っておいたので、今日は引き戸の2枚分を作るつもりだ。
玄関を入ってすぐ右は受付のカウンターとクロークがあるので、バー側のガラスは少し細目だ。
階段を上って店に入る様になるので、床は少し高い位置になる。
そんな事を計算して、父さんに背の低い観葉植物をこちらのガラスの前に並べてもらう心算だ。
そうすると、外から店舗を見た時に目線の位置に植物があり、一種の目隠しになるのだ。
スキルで作ったサッシのレールを今朝大工さんたちが据え付けてくれていた。
ちゃんと真直ぐだ。真直ぐというのがこの世界では難しいらしい。
ちょっとぐらい曲がるというのが普通にあるらしいのに、ちゃんと真直ぐなので大工さんたちもとっても頑張ってくれた様だ。感謝、感謝。
ステンレスのレールにしたのだが、これも必要な量作るのは大変だった。
まず、鉄を用意し、触りながらサッシのレールを思い浮かべ5センチのレールを作り出した。
その後、『食材鑑定』で材料を紐解いた。
鉄の他に少量のクロム、ニッケルが必要だったので、大公様にお願いして何とか入手してもらった。
ステンレスは調理器具にも多く使うので、多めに取り寄せてもらうのを忘れたりしなかった。
お陰で、大きな調理台やオーブンや冷蔵庫、ミンサーや数台のミキサーなら問題なく作れると思う。
サッシを見つめながら、床から天井までの1枚ガラスを細部まで思い描きながら材料を触り『引き戸の強化ガラスよ、出て来い!』と願う。
するとちゃんとサッシに嵌った形で強化ガラスが具現化した。
ご丁寧にサッシの取っ手も付いている。
至れり尽くせりである。
スキルで一部だけ作り出し、鑑定し、できるだけ材料を集めてからの『調理具製作』スキルでの製造は無敵のシステムだ。
食材や調理具にちょっとでもひっかかりを付けて製造すれば、大抵のモノは前世のクオリティで作れちゃうのだ。
今日、大きなガラスを全て嵌めてしまえば、残りは玄関扉に嵌め込むステンドグラス作成で店舗エリアの作業は終わりで、次は調理場作りになる。
店舗のレースのカーテンとか、テーブル、椅子、テーブルクロスなどの細々した物はスキルでは作らず、購入する事にした。
私からしたら目の玉が飛び出る料金であっても大公様は気になさらず、「折角、貴族街に店を構えるのだから予算を抑える必要はない。お前は平民も客として扱う心算だろうが、大方の客は貴族になると思うぞ。だから調度品をケチってはダメだ」と、カトリーヌに相談しながら貴族趣味な調度品を発注する様にと言われた。
カトリーヌは30歳前後で決して若くはないが、年を取っているとも言えない。
でも、幼い頃から大公家に仕えており、貴族の好みなどには精通しているので店舗作りに役立つだろうと私に付けて下さったのだ。
実際、彼女の経験に裏打ちされたアドバイスには何度助けられたか分からない。
「汚れが目立たないから茄子色のテーブルクロスというのは良いですが、布を多く使うのも貴族らしいので、一色にせず、白やクリーム色の差し色を入れた方がおしゃれですね。なので、ナプキンは大きめの布の方を茄子色に、小さい方を白にして、この様に重ねて飾り折りにしてはいかがですか」
「椅子はクッションも大事ですが、ある程度背もたれの高さがある方が貴族の方々は喜ばれますね」
「どのテーブルにもお花は必要なので、これくらいの大きさのテーブルでなければ少人数でも座れません」
「カーテンをレースでと言うのは聞いた事はございませんが、レースと言えばアルマグロ製が有名です」
聞けばなんでも答えてくれるカトリーヌ。
大公様にとっても感謝です。
さて、今日もたくさん働いたので、残りは明日続きをするとしましょう。




