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温室とは反対側の塀の付近でハムと一緒に花壇をつくっていた父さんに駆け寄った。
「父さん、大工の棟梁が今週末にはウッドデッキを設置するって言ってたよ」
「そうか。分かった。じゃあ、今週は邪魔にならない様にこの辺りで作業するよ」
「わかった~。私はこれから本館の大きなガラスを作るね」
「休み休みでいいんだぞ。無理はするな」
「うん」
ハムは父さんの横で掘り起こした土と石を選別しているところだが、ひょこっと私に向かって頭を下げる。
私も同じ様に頭を下げ、ガラス作りのために本館へ向かった。
カトリーヌはいつもの様に私の後ろをゆったりと歩いてついて来てくれる。
本館の店舗部分はもうほぼ出来上がっており、正面の玄関を挟んでウッドデッキを設置する方は引き戸タイプのガラス窓に、そしてデッキのない方はガラスを嵌め殺しにする予定だ。
で、ガラスの材料を用意し手で触りながら「嵌め殺しの一枚強化ガラス出て来い」と頭の中で唱えると、あっさりと大きな1枚ガラスが壁に嵌め込まれた形で作られた。
「温室のガラスとはちょっと雰囲気が違いますね。こんな大きなガラスって見た事ないので、びっくりです」
『調理具製作』で作り出した大きな一枚ガラスをカトリーヌが見上げつつ、そんな感想を漏らした。
温室は2m角の鉄筋の枠を作り、そこにガラスを嵌めている作りなので、お店の一枚ガラスとは全然違う印象だ。
「割れづらくするために強度を上げているのと、天井から床までつなぎ目のない大きな1枚ガラスだから雰囲気は大分違いますよね。お日様の光を妨げないのでとても綺麗でしょ」とついつい自慢げな口調になってしまった。
「そうですね。日光を遮るモノがないので店の中が明るい感じになるんですね」とカトリーヌが周りを見渡しながら感心する様に頷いていた。
嵌め殺しのガラスを見ながら、さて、引き戸タイプのガラスは明日にでも作ろうかと思っていたら、ハムがすごい勢いで走って来た。
「お嬢様!こんな大きなガラス、俺見た事がないっす!」
庭から見ていたのだろう。
ハムの後ろからは父さんがゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
「こりゃあ、すごいなあ」
「店長、これ、ここにガラスがあるって知らないと、何もないと思っちゃうくらい綺麗なガラスっすね。しかもこんなに大きい!」
まだハムは興奮している様で、まくしたてる様に父さんに報告している。
父さんも現物を見ているので報告は必要ないのにね。
父さんは店よりも庭の作業を専門にしているのだが、世帯主だし、私たち親子の店なので責任者ということになる。
まだ土地や建物は大公様の持ち物だけど、店長という役職にすることにしたのだ。
料理の部分は私のプロデュースだけどね。
「ふむ。これは大工さんたちがぶつからない様にガラスが嵌ってる事を知らせないと危ないかもしれんぞ」
「そうですね。アウレリア様、張り紙か何か付けた方が良いかもしれませんね」と、カトリーヌまで心配するので、花の絵を描いた小さな紙を大人の目線に位置する様にガラスに貼った。
模様の様でおしゃれかもしれない。
ふぃ~。スキルでガラス作るより、手書きで花の絵を描いてガラスに貼り付ける方が、作業量が多かったよ。




