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「もぐっ」
大きな口を開けてカトリーヌがハンバーガーに齧り付いた。
もちろん、このハンバーガーは私のお手製で、料理魔法で温めた事になっている。
というのも、本当はサブスキルの『マイクロウェーブストレージ』で温めているんだけど、サブスキルを持っている事は大公様にも内緒にしているのだ。
大公様によると、世間広しと言えど料理魔法を持っているのは今の所私だけらしいので、全部料理魔法で通せちゃうのだ。
『マイクロウェーブストレージ』に一旦収納しなければならないので、ハンバーガーはカトリーヌの目の前で一旦消える事になり、私の頭の中でだけ『チン』という音がしてストレージから取り出すと、ホカホカのハンバーガーが目の前に現れるのだ。
「カトリーヌさんもハンバーガーを食べるのに抵抗が無くなって来てますね」といたずらっぽく笑うと、「美味しいは正義です!」と30代の背の高いメイドさんは真面目な顔をして大きな口を開け、ハンバーガーを食べ続ける。
彼女は私の立ち振る舞いの教師も兼ねていて「アウレリア様」と私を様付けで呼び、最初は食事も一緒に摂ってはもらえなかった。
でも、「一人で食べるご飯は味気ないです」と5歳児の幼さを前面に出してお願いしてみると、「確かにその年でご両親と離れて暮らしていらっしゃるのでお寂しいですよね。お食事くらいは私と食べても大公様に怒られないでしょう」と最近漸く一緒に食べてくれる様になった。
ハンバーガーだって、最初は大きな口を開けないと食べられないということで忌避していたみたいだけど、試しに食べてみてと勧めると気に入ってくれた様で一緒に食べてくれる様になった。
最近では他の料理も、「アウレリア様がお作りになられる料理はどれも美味しいですわね。見た事ないものも多いですし」と何でも食べてくれる様になって来た。
今日も午前中はお店の建設現場で温室を作った。
もちろん、スキルを使ってだけどね。
で、ハンバーガーも食べ終わったので、これから作り掛けの温室の中にカトリーヌが用意してくれた休憩場でお昼寝だ。
作り掛けのため、温室の一方は壁がない。所謂吹きっさらしだ。
そんな温室の一角に置かれたソファやテーブルの周りを3枚の木製屏風で囲ってくれている場所が休憩場だ。
本館の方は大工さんたちが作業していて騒音が出る。
とてもではないがお昼寝が出来る状態ではないということで、苦肉の策ではあるがこんな休憩場が設けられたのだ。
だって幼児にはお昼寝は必須なんだもん。
大公家の屋根裏に転がっていたソファなので、古くてもとても座り心地の良いソファなのだ。
お昼寝にはもってこいのソファに横になると、カトリーヌがブランケットを掛けてくれる。
お昼寝から覚めると父さんが店に来て庭の作業をしてくれていた。
孤児院から雇い入れたハムという10代の男の子が手伝いで来てくれている。
開店後も働いてもらう事になっているのだけれど、今はまだここで寝泊まりできないので、孤児院からの通いだ。
当然、父さんがいないと作業なんて出来ないので、ハムが来るのも午後からだ。
孤児院の子供が就職をするのは難しく、大抵の子は冒険者ギルドに登録し、冒険者となるのだが、園芸スキル持ちであったためウチで雇うことになりハムはとっても父さんに感謝しているみたいだ。
父さんのどんな指示にも嫌な顔一つせず、せっせと陰日向なく作業をしてくれるって父さんがこの前褒めてたよ。
「もしかしたらもう一人、孤児院の子を雇うかもしれん」と父さんが言うくらいにはハムの仕事ぶりは良いということだろう。
早く本館の工事が終って地下の使用人の居住区に住まわせてあげたいのだが、こればっかりは工事が終らないと無理なのだ。




