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 最初の子の才能は栽培だった。次の子は裁縫で、その次の子は槍術だった。

 アウレリアの一つ前の子は、風魔法だった。

 礼拝堂の中に大きなざわめきが起こった。貴族ならば魔法を授かる事も珍しくないが、平民や奴隷が魔法を授かる事は稀だ。

 だが、その子は風魔法を授かったので、親子共々大喜びしている。魔法をスキルとして授かると、貴族や大商人のお抱えになる事が多いから、平民としては高給取りになれるのだ。


 また、魔法だけでなく、武術であったり、大金を稼げそうなスキルを得ると、魔法の時と同じ様に、貴族などのお抱えになる道がある。


「ごくり」

 私は音が出る程大きく唾を飲み込んだ。自分がどんなスキルを授かっても神を恨んだりしない様に一生懸命心の中で言い聞かせていた。

 一般的に有益と言われるスキルならば感謝しかないが、自分の就きたい仕事に全く関係のないスキルや、使いどころがないスキルだったりすると、思わず神様を恨んでしまうかもしれない。

 でも、スキルは神様からの贈り物なので、恨んではいけないのだ。


 母さんが私の頭にチュっとキスをして、銀貨1枚を渡し、優しく背中を押してくれた。

「心配しないで、行ってらっしゃい」と笑ってくれた。

 勇気を出して祭壇に向かって歩きながら「神様!どんなスキルでも感謝致します。ただ、ちょっとだけ商売に向いているスキルだと大変嬉しいです!!貴族に仕えるのは嫌なんです。よろしくお願いします」と心の中で繰り返しお願いした。

 椅子から祭壇なんて短い距離、あっと言う間で、手数料を徴収している見習いさんに銀貨を渡し、とうとう黒い箱の前に立ってしまった。


「そこへ手を入れなさい」と司祭様が小さな声で言った。

 私は司祭の顔を見る余裕などなく、じっと黒い箱の穴を見つめたが、もう一度心の中で神様にお願いした後、勢いよく手を穴へつっこんだ。


 暖かい何かが、手に纏わり着いて来た。

 その間、黒い箱はガタガタと小刻みに揺れている。

 じんわりとした暖かさが掌から肩あたりまで広がった頃、ポッと箱の上に透明な板・スキルボードが出現し、『メインスキル 料理魔法』という文字が見えた。


 それを見て司祭様が大きな声で「り、りょうっ、料理魔法?」と発表した。

 母さんも大聖堂にいた他の親子もみんなざわざわとしだした。

「そんな魔法あるのか?」

「俺も初めて聞いた」などという会話があっちこっちで繰り広げられていた。


 私は司祭様と神様の像にペコリと頭を下げ、もちろん心の中では神様に五体投地の勢いで心からの感謝を述べつつ、速足で母さんの所へ戻った。

「アウレリア、あなたのスキルを見せてくれる?」と母さんが言ったが、ここでスキルボードを開示するのは得策でない気がした。

 だって、黒い箱の上に現れたスキルボードには『メインスキル』と書いてあったのだ。


 一般市民も最近は子供を学校へ行かせているので、子供たちは文字が読める子が多いが、難しい単語や文字になると理解があやふやだ。

 親に至っては、文字の読めない人も少なくない。

 これは時代の流れのせいで、親たちの世代では子供を学校へやるのは裕福な家か貴族だけだったのだ。


 私は転生者という事で文字を習う事に苦手感がないし、文字を知らないと損するということをよく知っているので、幼い頃から文字の読み書きを勉強したのだ。

 伯爵家では使用人の質を上げようと、オルランドさんに読み書き計算を教える教室を時々開かせており、父がそれに参加していたので、付いて行ってちゃっかり勉強させてもらったのだ。

 色々と問題を抱えている伯爵家ではあるが、この点では感謝しかない。


 さて、話をスキルボードに戻そう。スキルを授けてもらった後に個人で確認するには、スキルボードを呼び出すのだ。

 他人に自分のスキルを確認させるには、そのスキルボードを開示すれば良いのだ。

 ただ、開示してしまうと、見せたい相手のみだけでなく、見える位置にいる人は誰でも見る事が出来るのだ。


 で、黒い箱の上に浮かび上がったスキルボードには『メインスキル』と書いてあった。ということは、『サブスキル』があるということだ。

 司祭様はあまり一般的でない『料理魔法』なるものが出たので、そっちに気を取られてたのか、『メインスキル』の方には注意が向いていなかったのだろう。


 サブスキルを持つ者はいないわけではないが、宝くじに当たるより低い確率で、一生を通してたくさんの人と出会ったとしても、サブスキルを持つ者に出会う事があるかないかくらいのレアさなのだ。

 恐らく教会は、鑑定の儀のスピードアップの為に『メインスキル』だけ見れる様調整を加えているのだろう。

 国にとって有益なスキル持ちが出ると教会がその人物を確保した後、国に申請しなければならないので、珍しい料理魔法というスキルがそれに当たるのかどうかを考えていたのかもしれない。


 料理魔法くらいなら見逃してもらえても、サブスキル持ちだと気づかれると、教会から国へ申請されるかもしれないので、とっととこの場から逃げるに限る。

 サブスキルや魔法スキルを得た人は将来の事を考え、教会から国へ紹介してもらえる事を望んでいる。

 そんな事情があるので、まさか魔法スキル持ちなのにその場に留まらず、黙っていなくなる人がいるとは教会も思わないだろう。


 母さんは私が魔法スキルを得たからだろうか、若干顔色が悪い。

「母さん、ここではなく、父さんと一緒の時に見た方がいいよ。もう、家に帰ろう」

「そうね。父さんにも相談しなくちゃいけないしね。帰りましょうか」


 まだ他の子の儀式は続いていたが、母さんと手を繋いで急いで伯爵家に戻った。

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