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「今日の料理はどれも初めて見た物だったし、とても美味しかった。そして、魔法やスキルがふんだんに使われていた。お前の魔法か?」
そう聞かれて、ドキリとした。
伯父さんや爺さんにもバレてないのに、どうして?
片付けの為に上がって来た伯母さんも私の横でびっくりしている。
そりゃそうだ。だって私が持っているのは調理スキルって伝えていたんだもの。
そこへ実は魔法スキルって言われても信じられないよね。
「お前は王都の学園へは入学しないのか?」
私が返事をしなくても、大公様はお構いなしに話を進めた。
「お前が魔法を使えるのは分かっている。儂のスキルは魔力感知だからな。料理からもお前の魔力が漂っている。ごまかせんぞ」と言われ、青天の霹靂とはこのことかっ!と固まってしまった。
髪も髭も白髪で好々爺を体現している様な大公様だけれど、今は目力が強い鷹の様に見える。
ポタージュをクリーム状にするのに道具がないので魔法でやったのだ。
恐らく、その時の魔力を言われているのだろう。
うう。目つきが鋭い。何か誤魔化せそうにもないなぁ。
「ま、魔法は少し使いました。でも、王都へ戻る心算はございません」
焦っていて、『行く』ではなく『戻る』という言葉を発してしまった事に気づかなかった私と違って、大公様はその『戻る』という言葉にすぐに反応された。
「ほう。元々は王都に住んでおったと?」
貴族の老人に詰め寄られている5歳児の図はインパクトがあったのだろう、伯母さんが庇う様に前に出てくれた。
「大公様。この子は私共の姪で、両親は王都の貴族家に勤めておりますが、先方の事情もありまして、この子だけこちらで預かる事になったのです。お貴族様のご事情も関係しておりますので、内容の説明は控えさせて頂きたいのですが・・・・」
「どこの貴族家か?」
「・・・・」
答えない私を見て、伯母さんは不敬罪を恐れたのだろう、「モ・モンテベルデ伯爵家様です」と代わりに答えてくれた。
「なる程な、あそこは魔法スキル持ちの子供がどうしても欲しい家だから、使用人の子供が魔法スキルを持っておれば、いずれお手付きになると危惧したか」とすぐに事情を見抜いた様だ。
当然、私は否定も肯定もできないが、答えない事それこそが答えでもあった。
「お前の魔法スキルはどの属性か?」
大公様の興味は私から離れない様で、答えるまでは解放してもらえそうもない。
「・・・・料理魔法です」
「なんと!初めて聞く魔法だな」
何のリアクションも取れず、ただただ俯くしかできなかった。
「お前は儂が後見するので王都の学園へ入学しなさい。儂の後見であれば、モンテベルデ家も手は出せまい。何ならお前の両親も儂の館で雇ってやるぞ。モンテベルデ家とは無関係になれる。どうだ?」
そんな事を聞かれても、私に返事が出来る訳もなく、やっぱり何もリアクションできないでいると、「それに、お前の魔法スキルを余すことなく活かしたいのなら、学園への入学は不可欠ぞ」と言われ、もうずっと魔法やスキルの事を知りたくてしょうがなかった私は断る言葉を発する事ができなかった。
「お前の両親の事もあるだろう。お前は儂が学園へ入学させるが、お前の親がどうするかは、お前たちでゆっくり話し合えば良い。私の館に勤めるもよし。そのままモンテベルデ伯の屋敷で働くも良し。・・・・そうだな・・・・勤め人を辞めて自分たちで起業したいなら、ある程度であれば援助も視野に入れておくぞ。どうだ?」
この世界で平民や奴隷が貴族の言う事に逆らう事はできない。
不敬罪に問われるからだ。
だから大公様がこうおっしゃっている時点で、私の学園行きは決定したのだ。
ただ、ウチの両親の身の振り方を自分たちで選択させてやるぞという意味だ。
「ありがとうざいます。私自身はモンテベルデ家と無縁の扱いになるのであれば学園で学ばせて頂けるのは大変名誉な事です。ただ、両親の身の振り方については、本人たちの意見も聞きませんと私では決められません。この後、手紙を書こうと思っておりますが、もしかしたら、私が学園に入学する直前まで決まらない可能性もございます」
「よいよい。儂が気になっておるのはお前の珍しい魔法だけじゃ。お前の両親の身の振り方はいつ決めても差し支えないぞ」
「ありがとうございます」
そう言って、目線を床に落としたまま軽く会釈をする私を、伯母は真ん丸にした目でガン見していた。
伯母さん、スキルの事偽っててごめんなさい。
心の中で謝るも、大公様御一行の前で身内のやり取りをする訳にもいかず、とりあえずは無事に一行を馬車に乗せてこの昼食を終わらせる方が先だ。
「それでは何時頃どこへ来れば良いか、その方法も併せて後日家の者から知らせる。お前は学園入学の準備を進める様に」
「はい。ありがとうございます」
大公様ご一行は馬車に乗って『熊のまどろみ亭』を発った。
この後、繰り広げられるだろう伯父・伯母からの質問の嵐を恐れて、身を竦めてしまったのは仕方のない事だろう。




