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塩釜焼きのサーブは私でないとできないので、料理だけは伯母さんに運んでもらい、小さなナイトテーブルにテーブルクロスを掛けた上に置いてもらった。
木槌でトントンと塩を割り、トングで剥がし、トングで押さえつつ肉切包丁で厚めに切って行く。
肉に刺しておいたにんにくとタイム、そして火の通った牛肉の良い香りが広がり、パフォーマンスも成功した。
「!!」
「まぁ、これは本当に柔らかいお肉ですこと」
先ほどのアペタイザーの伯爵夫人が口を手で押さえながら思わずの様に感想を漏らした。
「ほんに、柔らかく、塩加減が絶妙ですね」と、侯爵夫人もご満悦な様子。
「スープといい、パンといい、あの珍しい熱々の料理といい、今まで出て来た料理はどれも初めての物だ」と伯爵夫人の夫も顔を綻ばした。
「その白い物はなんだ?」との大公様の問に、「贅沢に塩を固めた物でございます。単純に肉を塩で閉じ込め、天火で焼いた料理にございます」と私から説明をした。
一通り、サーブが終ると、今度は伯母さん1人が厨房に戻り、用意してあったパンプキンパイを取って来た。
本日のパンプキンパイはかぼちゃの形で作って見た。
普段は四角いパイシートを半分に折った三角のパイなんだけど、今日は特別なのでちょっと凝った形にしてみた。
お皿には、泡立てられた生クリームも飾りの様に添えられていて、自分で言うのもなんだけど見た目にも美味しそうだ。
私は塩釜焼きで汚れた各自のディナー皿を下げ、紅茶の用意の為に調理場へ。
今日はこの様にして伯母さんと私で、厨房とこの部屋を行ったり来たりだ。
村長に無理を言って取り寄せてもらった茶葉を使って、私が紅茶を淹れた。
だって伯母さんは今まで紅茶を淹れた事もないので、カンカンに沸かしたお湯でないといけない事や、適切な茶葉の量、蒸らし時間を知らないのだから。
私だって前世のお陰で、ちょっとくらいは知識を持ってるけど、この瞬間、ドンピシャリでいれるには、鑑定を使わないと無理なのだ。
だから、目の前に大公様がいらっしゃるけれど、バンバンスキルを使わしてもらった。
パンプキンパイはとても好評で、お代わりをする人まで出た。
『熊のまどろみ亭』のパンプキンパイは普段から大人気だが、大公様ご一行も全員気に入ってくれた様だ。
「ふー。本当に美味しい料理でしたわ」と伯爵夫人が言うと、「ほんに」と侯爵夫人も合いの手を入れてくれた。
「御不浄へ」という伯爵を連れて、私は1階を通って裏庭へ、そして新設のトイレへ案内した。
有料トイレであることは、扉に書いてあるので問題はないだろう。
村人なら字の読めない大人は多いが、貴族は大抵字が読める。
伯爵をカマチョの婆さんに任せて、食器類を下げるため、再び2階へ。
そこでは、まだ紅茶をお代わりしていたり、葉巻をくゆらせている大公様などがくつろいでいた。
そこへトイレから戻った伯爵が、「ここのトイレはすごいぞ!トイレ係がいるぞ。造りそのものは普通の田舎の宿屋の物だけど清潔なんだ。で、お金は少し掛かるけど、気持ちよく用を足せるのはすごいと思う」と言ったために、伯爵夫人たちもこぞってトイレに行った。
「いつも移動の度に汚いトイレを使うのが嫌だったんですよね」なんて言いながら・・・・。
綺麗なトイレというのもポイントが高いかもしれないが、新しいシステムって事が大きいのかもしれない。
お貴族様は新しいモノ好きが多いからね。
モンテベルデ伯爵もそうだったしね。
5人の内の2人がトイレへ行っている間に片付けて、テーブルの上にはテーブルクロスと薔薇の生けられた花瓶、お水の入ったグラスと、男性が吸うタバコの灰を入れる灰皿だけになった。
5歳の私には重たい物を一度には運べないので、部屋の片隅に並べたナイトテーブルの上に皿などを纏めて、伯母が片付けやすい様にしていた。
自分では空になったティーセットを持って降りようとしていた。
その時、徐に大公様が私を呼び止めた。




