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「お着きになりました」
大公の使用人が先導役として『熊のまどろみ亭』に現れた。
店は一般人向けにも営業されており、大公様ご一行が一般人の目に晒されない様に、裏庭から中に入ってもらう事になっている。
暫くすると裏庭がザワザワして来た。
護衛の騎士が馬から降りたり、その馬を厩舎に繋いだり、馬車が到着する音等が続く。
伯父さんと爺さんは裏口の前まで出て、大公様を迎えた。
伯母さんが一張羅を着て、大公様ご一行を2階へ案内した。
ランディが御者や護衛の騎士らを食堂の屏風で囲った席に案内する担当だ。
最初、御者の食事を心配していたら、その返事の中にお付きのメイドや護衛の騎士の数まで言われたので、あわてて席を確保するために、追加で村長から木製の屏風を貸してもらったのだ。
大公様ご一行の5名分はアウレリアが調理を担当するので、お出迎えは免除してもらった。
ポタージュは護衛達にも提供する事になっているが、その他は一般客と同じメニューだ。
グラタンは塩釜焼きでスペースがある程度占有されるので、大公様たち5名分しか作れないのだ。
ポテトグラタンにした。
もう、用意は出来ており、後は天火で焼くだけだ。
ポタージュはほうれん草にした。
生クリームもあるので、深みのある味に仕上がっている。
スキルで超絶早く育てて収穫したレモンを入れた薄味の白ワインをアペリティフとして伯母に持って行ってもらった。
二つの武骨な木のテーブルを繋げ、こげ茶のテーブルクロスの上に白のテーブルクロスを重ね掛けし、その上に黄色の薔薇が活けられた花瓶が二か所。
一つ一つの調度品はいかにも田舎の食堂といった感じなのだが、隅々まで『いらっしゃいませ』の精神が反映されており、大公様ご一行は気持ちよく入室した様だった。
「あら、このお酒、とってもさわやかだわ。アルコール分もそんなに高くないし、飲むとお腹が空くけど、とってもいい感じですわ」
大公と一緒にこの部屋に入って来た、どこかの伯爵夫人が嬉しそうに言った。
私は給仕の人数が足りないのと、次の料理を出すタイミングを計るため、ちょこちょこ2階と調理場を行き来した。
カトラリーとスープ皿、パン皿、フィンガーボウル、グラスは最初からテーブルに並べてある。
スープ皿の上にはテーブルクロスと同じ布で作られたナプキンが置いてある。
「ふむ」と頷首した大公はナプキンを膝上に置いた。
それを合図に伯母さんは大きな陶器のスープサーバーから、各自の皿へスープを注いだ。
その間、私は籠に入れた焼き立てのパンをトングで各自のパン皿へ載せていく。
このパンも今朝早くに私が焼いた物で、天然酵母を使ったフワフワパンだ。
「これはまた、変わった料理だな。スープなのか?」と大公がにやりと笑って聞いて来た。
「はい。こちらはポタージュスープという新しいスープで、ほうれん草などの野菜のスープです。どうぞお召し上がりください」と伯母さんがちゃんと料理の説明を終えたのを確認して、調理場へ戻る。
鑑定を使い、丁度良く焼けたグラタンを天火から取り出し、伯母さんが運びやすい様にお盆に載せていく。
お盆も、やっぱり村長の家からの貸出だ。
伯母さんが降りて来たので、私は何も載せてないお盆を手に入れ違いに2階の部屋に入り、空になったスープ皿と使ったカトラリーを持って下がる。
すぐにグラタンを手に戻って来た伯母さんがサーブを始める。
調理場に戻った私は、伯母さんが忘れずに「器も料理も熱いので、気を付けてお召し上がり下さい」と言う注意事項を言ってくれたかどうかヤキモキしていたら、降りて来た伯母さんは「しっかり伝えたよ。特に、皿には絶対に触らない様に繰り返し言っといたから、安心をおし」とにこやかに返された。
大公様ご来店で私も結構神経質になっているんだなと自覚した場面であった。
グラタンは小さ目の器で出しているのだが、「美味しいけど量が少ない」と言われたらしく、伯母さんは大公一行の反応を色々と教えてくる。
伯母さんが有能で、ありがたいよぉ。




