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「次に、テーブルや椅子は村長さんの家から借りられるのなら良いのですが、ダメならテーブルクロスっていう物を使って表面が見えない様にする必要があると思います。同じ布を使って口や手を拭いてもらうナプキンも必要です。とっても汚れた場合に取り換えられる様に、人数分の倍あった方が安心でしょう」
「それはあたしが用意するよ」
「ありがとうございます。伯母さん、それなら布の色は汚れの目立たない色にしてください」
「あいよ。何色がいいかね」
私はとっさにモカブラウンを思い浮かべたが、この世界の染料がどんな物なのか知らないので、ただ単にこげ茶とだけ伝えた。
コットンの方が吸収力が良いので、出来たらコットンでというのも言い添えておいた。
「で、椅子はお付きの人はウチの椅子で良いとして、お貴族様の椅子だけは布で誤魔化す訳にはいかないので、これだけは何としても人数分、村長の家から借りて下さい」
「あいよ」
「次に部屋には花を飾ります。客室を一つ使うといっても、元々絵画が飾ってある訳でもないので、花を飾る事でごまかしましょう」
「じゃあ、それもあたしがやるよ」
伯母さんが有能すぎる。使い物になってない伯父さんよりよっぽど漢だ。
「次に、トイレですが、お貴族様に気持ち良く使ってもらえる状態でないといけないと思うので、臨時でトイレ掃除の人を雇いませんか?」
「臨時で?」と、大分正気が戻って来た伯父さんが話に加わって来た。
「はい。新しいのを建てられればそれが一番ですが、建てたとしても他のお客さんたちが使っちゃうとすぐに汚れますよね」
みんなが頷いた。
家の宿のトイレは2つ個室があるが、他の宿と同じではっきり言って汚い。
毎朝ちゃんと掃除してても、何人もの人が使うと汚れてしまう。
あまりに汚れが目立てば昼や夜でも掃除することもあるが、それは比較的人手がある時のみで、普通は朝の掃除のみだ。
「そこで、一つのトイレだけ、臨時で雇う人を常に付けます。その人は、1人トイレを使う度に、チャチャッと掃除したり、トイレに必要なアメニティを補充したり、手水を掛けたりします。ただ、その時、利用者から使用料、つまりチップを貰う様にするんです」
「チップ?」
「はい。小銭でいいんです。で、その小銭はトイレ掃除担当の人が全額貰います。そうすれば、担当の人も一生懸命掃除をしてくれると思うので・・・・」
「でも、トイレに行く度にお金が掛かるとなると、普通のお客さんはウチに来なくなるよ」
「いいえ、伯母さん。一般の利用客の方は今まで通りにして、お金を払ってでも綺麗なトイレを使いたい人専用のトイレだけ掃除担当が付くんです。もちろん、トイレ専用の雇用なので、朝、昼、晩と定期的に一般トイレも掃除してもらいますが、優先するのは有料トイレの方です。で、気持ち良く使ってもらうために、有料トイレは新しく建てた方が良いです」
「なるほどねぇ~。お貴族様からしたら、はした金を払ってでも綺麗なトイレで落ち着きたいだろうしね。いいね、その案。カマチョさんのところの婆さんならやってくれるかも」
「じゃあ、伯母さん。新しいトイレの建設と、カマチョさんへの話はお任せします」
「あいよ」
この世界のトイレは掘っ立て小屋みたいな物なので、作ろうと思えばすぐに作れるのだ。
だからこの案を思いついたのだ。
一般トイレに併設するが、建物は別にして、個室部分とは別にパウダールームの様なスペースを持たせる事にした。
掃除係はパウダールームの隅に控えておく様にする心算だ。
まぁ、トイレの件はこれで良しとして、後の事は、食器が手元に来てからかなぁ。
伯父さんを差し置いて色々差配しちゃったけど、別にいいよね?
だって伯父さん使い物になってなかったんだもん。
爺ちゃんは「儂の孫はすごい~」を連発している。
『熊のまどろみ亭』は、実質女が動かしているの図と言ったところか・・・・。




