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「大公様がお見えになる!?」
村長さんが家の宿に駆け込んで伯父さんに何かを言った途端、伯父さんがそう叫んだ。
漸く中型の天火も設置され、パイもかなりの数捌ける様になり、ポンタ村のパイが方々で有名になって来た春の事だった。
「お前んところの、パイだっけ?あれを食べられたそうで、今度こちらを通られる時に是非昼食をここで摂りたいとおっしゃってるそうだ」とエラそうな爺さんが突然熊のまどろみ亭に現れた。
「えっ!?で、何時頃ここを通られるんで?」
「来週中には、はっきりするけど、再来週の半ばだ」
「何人くらいになられるんですか?」
「それもはっきりするのは来週になる」
「はぁ~」と伯父さんの口からは気の抜けたため息が零れた。
「とにかくマノロ、粗相の無い様にな。頼んだぞ」
そう言って、パウロの爺さんである村長は、ウチの店を後にした。
「ちょっと、あんたぁ。大公様って王様の伯父様だよね?」
「ああ」
「何をお出しすればいいのかねぇ」
「ああ」
「ちょっとあんたぁ。しゃきっとしなよ。しゃきっと」
「ああ」
伯父さんは呆けてしまって、今使い物にならない。
でも、私はいろいろと考えてしまった。
ウチに大公様が来られて、何が一番困るか・・・・。
設備の不十分さだ。
食器も木で出来た物が殆ど。
もちろんカトラリーもだ。
テーブルは削りだしたままの木のテーブル。椅子もそうだ。
そして何より食堂だと、一般のお客様と一緒のスペースでのお食事となる。
常連客のカミーロなんかが良い例だが、平民は食べ方も汚いし、何より騒々しい。
部屋を一つ用意して、そちらでゆっくり召し上がって頂く事で、スペース的な物はある程度解決するかもしれないが、トイレなどの共通スペースはどうしようもない。
食器類は買う事が出来るんだろうか?
銀のカトラリーとまではいかなくても、金属のカトラリーでないと恰好がつかないのでは?
ナプキンやテーブルクロスなんてのもいるんじゃないの?
でないとウチのあの素朴な木のテーブル剥き出しだと・・・・。
なんて事を考えていた。
メニューなんてのは、どんな食器が揃えられるかが決まってからでもいいと思う。
そこで私は家族会議を開いてもらう事にした。
「伯父さん。まずは客室の一つを大公様のお食事スペースとして用意する必要があります。食堂だと他のお客様と一緒になるので、騒々しくて料理以前の問題です」
「ああ」
伯父さんはまだ半分呆けているので、ちゃっちゃと私のやり方で進めさせてもらう。
「後、食器とかカトラリーの用意がいります。今からでも買いそろえられるのか。その辺を調べて下さい」
「あ、あんたぁ、それは、村長さんの家の食器を借りる事が出来るんじゃない?」
という事で、借りられるかどうかも含め、伯父さんの方で食器の手配はしてもらえる事になった。
「借りられる食器が決まったら、どんなお料理にするか決めやすくなるので、食器はワンセット、早めに借りて来て下さい。それと最大何人分まで借りられるのかも聞いておいてくださいね」
「あいよ。わかったよ」
呆けてる伯父さんの代わりに伯母さんが応えてくれた。頼もしい。
「食器を借りるとお金が掛かるのですか?」
「そんな事はないと思うよ。ねぇ、あんた、村の一大事だからって言って何とか無料で借りて来ておくれ」
「・・・・」
伯父さんはまだ呆けている。
「もう!あたしも一緒に行ってあげるからさぁ。食器類は絶対に村長から貸してもらわないと困るんだからね」と言いつつ、伯父さんの背中をバン!と叩いた。
「っ!」
「しゃっきっとしておくれよ。しゃきっと」
「わ、わかった・・・・」
爺さんも一緒に座っているけど、伯父夫婦の漫才を聞く気はないみたいだ。
「アウレリア、お前は大公様を迎えるのに他に必要と思うものはないのかい?」
よくぞ聞いてくれました!
いっぱい詰めないといけない事は多いのだ。
呆けてる伯父さんを横目に、私はグイグイ話を進める事にした。




