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「只今より、王家主催の料理コンテストを開催する!」
拡声器を通して、大会の開始が宣言された。
場所は王城前の広場だ。
コンテスト自体は参加者も多いことから、いくつかの広場で分かれて行うらしいのだが、開会宣言だけは参加者全員が一堂に会し、王城前でその開会宣言を聞いた。
「これより、各候補者のデュエルを行う会場と相手を発表する」
舞台に立つ男が、自分の左右にある掲示板を指差す。
「こちらの掲示板に書いてあるので、各自で確認し、該当の広場まで移動せよ」
ペペんところの芸人ではなく、城の役人らしい男なので、言葉遣いや態度が一々太々しい。
まぁ、貴族の横暴には慣れている領民ばかりなので、それを別段不快に思う者もいなさそうだ。
一気に参加者が2つの掲示板に群がる。
「う~んと……。大聖堂前の広場で……相手は『リスの宿』と……。聞いたことがないわねぇ」
私の横にくっついていたナスカを振り返る。
「すみません。私も知らない店ですねぇ……」
結局、この大会は別に王都の店と言う縛りは無く、国内にある店、或いは国内の貴族に仕えている料理長であれば参加が可能なのだ。
恐らく、王都の店ではないのだろう。
「アウレリア様、では、大聖堂前へ移動しますか?」
「そうねぇ」
各料理人に付けられるアシスタントは一人まで。
力仕事もできる男性の方が良いのではないかというみんなの声に反して、「私がアウレリア様のお手伝いをしますっ!これも良い機会なので、勉強させてください!」と一番鼻息が荒く、フローリストガーデン立ち上げ時からずっと勤めてくれているナスカにお願いしたのだ。
彼女は今や立派なパティシエだ。
馬車だとかえって混むと判断した私は、ナスカと二人で徒歩で移動だ。
鑑定の儀の朝、一生懸命歩いた道と同じ道。
あの頃はものすごく時間がかかっていたが、今は体も大人になり、歩くスピードはそこそこ速い。
「あ、アウレリア様!舞台が設置されていますよ。早く行きましょう!」
ナスカは走らんばかりだ。
「まぁ、人出がすごいから、怪我をしないようにゆっくり行きましょう」
そう宥めても、逸る気持ちは抑えられないのだろう。
かくいう私も気分の高揚は凄いよ。
だって、この人混み。絶対デュエルを見ようと集まっているよね。
王都の中ではこの広場が一番の広さを誇るので、組まれているデュエルの数も一番多そうだ。
大円形の広場を形づくる長辺に沿い、左右の端にそれぞれ一列ずつ、舞台が組まれている。
観客席は設けられていない。人々は広場の中央に集い、円の内側から舞台を見上げる形だ。
舞台は横に長いので、観客は自分が応援したり、興味を引かれた参加者の前に移動して見る、そんな造りだ。
舞台の両端、つまり4か所に大きな台が設置されており、今は濃い色の布が被せられている。
大聖堂前には司会者が立つのであろう、小さな舞台と、その前には撮影の器具がスタッフとともにスタンバイしている。
他にも撮影機は舞台に向けて4箇所設置されている。
舞台一列につき、白い布を張っただけの簡易大型スクリーンが2枚離して設置してある。
つまり、舞台から離れていても観客は映像を見ることができるのだ。
「ホットドッグ屋です。参加者番号34です。掲示板には大聖堂-17とありました」
この大会に先立ち、登録終了後に配布された参加者番号が記された木札を見せると、この舞台の担当者が舞台上を指差した。
「この階段で舞台上に登り、17番テーブルは……手前のあの辺だ。デュエルが始まるまでそこで待つように」
案内は付かないが、各テーブルには調理道具や水と一緒に、大きな木札が並べてあった。
17番と書かれたテーブルの前に陣取る。
「アウレリア様。対戦相手は18番ですよね?」
「ええ。『リスの宿』さんね」
「呼んだかい?」
ちょっと野太い女性の声が背中でした。
振り返ると、『熊のまどろみ亭』のクリスティーナ伯母に似た雰囲気の中年女性が立っていた。
「『リスの宿』さんなんですね。私は『ホットドッグ屋』です。どうぞよろしくお願いします」
そうニッコリ笑うと、彼女は不敵にニヤリと笑った。
「料理なんてしそうにない、綺麗なお嬢さんだね。その細腕で、料理なんてできるのかい?」
彼女がそういうのも分からなくもない。
この世界、調理をする食堂や宿屋の女将は、でっぷり……、いや、マシュマロ系が多いのだ。
だから、ほっそりとした私では、大鍋一つ振れないんじゃないの?と揶揄されてもおかしくない。
まぁ、勝敗は料理で決まるからね。
私は何とも思わないよ。
「アウレリア様は、料理の天才ですっ!」
一人、同じように思っていない人物がいたよ……。
「ナスカ……。そう、息巻くこともないでしょう?」
「でも、お嬢様……」
「結果を出せば良いだけの話です」
「……はい……」
これだけの人数が全員、王城前広場からここまで移動し、舞台に上がるのを待つのは、結構な時間が掛かる。
まだまだ、デュエルは始まらないみたいだ。
そんな既に舞台上に待機している参加者にはこのまったりした時間は暇な時間とも言える。
「お嬢様、結構な数の参加者ですね。半分くらいは貴族家の料理長でしょうか?」
「そうかもしれないわね……」
「大丈夫です。貴族家の料理長よりお嬢様の料理の方が断然上ですからっ」
私たちの会話に飛びついたのは『リスの宿』の料理人だ。
「おや、あたいに勝てる気でいるのかい?」
尊大なその態度に、またもやナスカが反応しかけたので、しっかりと左の二の腕を掴み押さえた。
ナスカは少々不満気だ。
そうこうする内に、大会の準備係が、参加者の店名を大きく書いた木札を手に、テーブル毎に確認している。
次は私の番だ。
「すみません。17番さんの店名はこちらでよろしいでしょうか?」
見ると『ホットドッグ屋 王都』と書かれている。
「はい」
頷くと、直ぐにテーブルの観客側に設置されているスリットに、その板を嵌め込んだ。
なるほど、どのテーブルがどこの店が一目で分かるようにってことね。
ペペたちも、色々と考えているのね。
隣を見ると、『リスの宿』はヤンモリ村と書かれている。
なんと!ウチの鉄道で作ったヤンモリ駅に構えた宿のようだ。
それでもこの店名は聞いたことがなかったけどね。
まぁ、それもここ二年くらい私のホテルの仕事を少なくし、出張をしていないから知らないだけかも?
この広場でデュエルをする参加者全員が舞台に上がったのだろう。
拡声器を持った司会者が、声を張り上げた。
「これより、料理コンテスト第一試合を開始しまーす!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」」
観客から大声援が起こり、何と、今迄気付かなかったが、大聖堂横の独立した小さな舞台の上に立つラッパ吹きがファンファーレを鳴らした。
ペペ、分かってるね!
こういうのがイベントを盛り上げるんだよ。
この時の私は、まだイベント運営の在り方の方に気を取られており、自分の対戦相手がどんな料理人かということに気付いておらず、のほほんとしていた。




