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皆に少し遅れてセシリオ様が顔を出した。
今夜はコース料理ではない。
いろんなツマミを並べ、各自好きな物を摘まみながらお腹をいっぱいにしてもらう心算なので、セシリオ様が到着する前に、皆で既に始めていた。
まぁ、ウチではこういう事も多いので、セシリオ様も別に咎めたりはしない。
「こんばんは。遅れてすまない」
「先に始めてたぞ。ここ、空いてる」
「「「こんばんは」」」
自然な流れで席に納まったセシリオ様が、卓を見渡してほほ笑む。
「で、ランビットから聞いたけど、おままごとセット、出来上がったんだって?」
「そうなんですよ。漸くですよ」
普段、無口なボブが珍しく前のめりで言うところを見ると、彼も相当食材模型作りには手こずったみたい。
「セシリオ様。お待たせしました」
「うん?」
「こちらのお祝いですが、漸く発送できるところまでこぎつけたので、そちらのお祝いも一緒に鉄道で送ろうと思うんですが、何時頃準備が整いますか?」
「あ、何時でもいいぞ」
「おい、先に飲み物は何がいいか言ってくれ。何時ものでいいか?」
発送の手筈を整えようとしていた私とのやり取りの間に、飲み物係のユーリが割り込んで来た。
「ああ、それで頼む」
この二人は相変わらず仲が良い。
会話の途中で自然に割って入れるのは、元貴族のユーリにしかできないだろう。
私たち平民組は、そうはいっても若干の遠慮がセシリオ様にはあるのだ。
「で、セシリオ様!プレゼントの中身は何なんですか?」
フェリーペはこういう事には遠慮が無いみたいで、結構ズバズバ聞いちゃうんだよね。
「あ、家族全員の服」
「え?セシリオ様のところの工房の服ですか?」
「ああ。もちろん貴族用のデザインではなくて、商家の家族向けに落ち着いた色とかにしてもらってる」
「へぇぇ。喜ぶだろうなぁ」
「で、色は変えてあるが、デザインには統一感を持たせたんだ」
「統一感?」
「一緒に着ていれば、誰が見ても家族と分かる感じかなぁ……」
「え?ペアルック?」
「何?それ?また、リアの造語か?」
「僕も聞いたことないよ」
「俺も~」
そうか、この世界にはペアルックなんて言葉ないのか。
服そのものが高価だから、裕福な商家ならばまだしも、平民は新品の服を着ること自体、機会があまりない。
その裕福な商家であっても、貴族に難癖を付けられないように、一目で平民と分かるような服を仕立てるのだ。
ただし、生地やレースをとても高価な物で仕立てたりはするけれどね。
あまり平民が貴族に対抗するような真似をすれば、待っているのは手痛いしっぺ返しだ。
そんな世界で、家族や恋人同士で服を合わせるなんていうのは普通は無いよね?
「家族で着るのに、ペアってのは?」
フェリーペの素朴な疑問に、私は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、ファミリールック?」
「えええ!?何かゴロが悪いぞ。造るんならもっと言いやすい名前にしてくれよぉ」
「う~ん、じゃあ、フェリーペが考えて」
「おっ!やば、お鉢がこっちへ回ってきた……。良く考えたらペアルックってのいいんじゃないか?」
早々に逃げの一手を打ったフェリーペのお陰で、ペアルックで定着しそうだ。
「で、ユーリ様からのプレゼントは?」
「あ、オレはセシリオんところの奴の、材料代とか工賃を出してるから、共同のお祝いだな」
「えええ?何かズリィ!」
フェリーペは容赦が無い。
ユーリが平民になってから、真っ先に平民に対する態度に切り替えてくれたのもフェリーペだ。
彼は不器用な所があるけれど、グループ内の平民代表的なところがあるのを自分でも理解しているんだと思う。
ありがたいことに、彼が早々にユーリを平民として受け入れてくれたので、スムーズにユーリの新しい立ち位置を確保できたのだ。
そこからは、王家主催の料理コンテストに話が移行した。
王家の動向などは貴族であるセシリオ様か、新聞社に元王家の足を抱えているユーリに聞くのが一番だ。
「アドリエンヌ様がお輿入れしてから、王が王妃の寝所へは渡らなくなったらしい。これは貴族の間では有名な話なんだ」
「「「……」」」
「で、王としては、側妃でしかないアドリエンヌ様を更に盛り立てようと、リアと言う知己を持つアドリエンヌ様に都合が良い、料理コンテストってのを開催しようとしたらしい」
「あちゃ~」
思わずと言った感じで、ランビットの口から零れた。
これは、ここに居る皆が同じ様に思っているので、誰の口から出たとしても不思議はなかった。
「で、王妃がいち早くこの情報を得たから、先にフローリストガーデングループを押さえにかかったんだ」
「「うわぁ。えげつねぇ」」
「もし、ウチが王妃の推薦で参加するとなって……」
「いや、確実に参加するとなるだろう?王家から平民への要請だぜ?」
フェリーペの言うことももっともな話だ。
「で、ウチが参加するとなると、アドリエンヌ様はどこへ依頼できるんだ?」
ユーリの心配はそこだった。
それは私も心配したことだ。
「フローリストパークは既に王子妃が抑えたみたいだ。となると、残りは『トムソン食堂』か『遠き落日』なんかの老舗くらいかなぁ」
はっきり言って、ウチの店はどこも国一と言って良い店で、他の店はどこも足元にも及ばない。
レベルがかけ離れているのだが、その下でうごめいている数多の食堂の中では、ウチのコンセプトの真似っこをしているフローリストパーク辺りが次席と言ったところか……。
「でも、セシリオ様。老舗と言えば聞こえは良いけど、ウチのレストランと比べれば、いずれも月とスッポンですよ?」
「ランビットが言うのも分かるが、そこは競わせ方によるんじゃないか?」
「と言うと?」
「自由に料理させてくれるかどうか分からないぞ」
「えーと……、という事は食材が限定されるとか、皆同じ料理を作るとかですか?」
「流石、アウレリア。その可能性は高い」
「そうかぁ……。ウチの温室で作っているものまで入れて良いなら、ウチが勝つのは目に見えてるって事かぁ……」
ホテルを任されているランビットからしたら、こんな変な条件下での競い合いにあまり魅力を感じないところに、まだ正式には決まっていないけれど、ウチの売りである温室作物を使えないというのが、如何にも大きな足かせに見えるようだ。
今日はこの話題で、とても鉄道模型の話にまでは行きそうにない。
一気にこの場は、料理コンテスト作戦会議に早変わりした。




