54
「先生、スキルを使う事なんですが、体の中から何かがズルって引き抜かれる気がするんですが、それって普通の事ですか?」
「ん?アウレリアは調理スキルでしたっけ?」
「はい、そうなんです」
「ん?魔法スキルとかなら魔素という物を消費しますが、調理スキルや例えば清掃スキルなどはパッシブと言って、常時発動されているものと思われています。なので、アウレリアが魔法スキルを持たないのに、意識してパッシブスキルを使おうとして魔素を消費するというのは、稀有な事例ですね。あるかないかで言うと、私には分からないとしか答えられません。普通かどうかで言うと、普通ではないという事になります」
先生にじっと見つめられて、何を開示し、何を隠さないといけないのかを必死に考えていた。
「先生、そうすると、ランディのスキルもパッシブなんですか?」
「ん?ランディのスキルは何でしたっけ?」
「っ!」
平成と令和を生きた記憶のある私には、他人の個人情報を勝手に開示することに抵抗がある。
「ランディ!ランディのスキルを先生に教えてもいい?」
従兄の方を振り返って若干大きな声で聞いてみた。
ランディはトトトと走って来て、「経営です」と直に先生に伝えた。
「これはまた、変わったスキルですね。使い方の確立がまだ出来ていないスキルでもあります。パッシブでもあり、アクティブでもあるといった所でしょうか・・・・」
先生はひとしきり、考え込んだ。
「ねぇ、ランディは今まで経営スキルを使おうと思って使った事はある?」
先生が悩んでいる間に直接ランディから情報を引き出す。
上手くすれば、それを元に先生の考えもまとまるかもしれない。
「ううん。どうやって使うのかまだ分からないから。まずは学校の勉強を終えてからって言われてるしね」
「先生にはよく分からないけど、意識してスキルを使えば魔素を使うのかもしれません」
私は一番聞きたかったことを聞く事にした。
「先生、魔素って使い切ったらどうなるんですか?魔素の量って増えますか?」
「そうですね。パッシブスキルでということなら分かりませんが、魔法であれば、使い切ったら意識を失います。命までは取られない様です。恐らくですが、命にまで関わらない様に安全装置として意識を失う様になっているのではないかと言われています。魔素の量は個人で違いますが、魔素を使い切る回数が多い程、徐々に増えるとも言われています。また、年を取ることでも微々たる量ではありますが、増えると言われています」
「先生、魔素を使って意識を失ったら、魔素は元に戻るんですか?」
「魔素は意識を失う、失わないに関わらず、寝たり食事を摂ったりすると少し回復すると言われています。中でも寝るのは一番効率の良い魔素回復と言われています」
「先生、魔素ってどこから呼び込んで回復しているのでしょうか?」
「アウレリアはいつも通りすごいですね。そこまで考えが至りましたか。そうですね・・・・水に顔を浸けていると苦しくなりますね。なので、こうやって普通に話している私達の周りにも、何かがあるという学説が数年前に出されました。それは味もしないし、臭いもなく、掴む事もできないのだけれど、確かに私たちの周りに存在しているのです。魔素は、その何かの中に内包されていると考えられていますが、まだ証明はされていません。本当に、君が魔法スキルを持っていたら王都の学園行きを強く推したのですが、残念です」
そうか、まだこの世界では空気とか酸素というものが発見されていないけれど、何かがあるという所までは解明できてるのね。
算数のゼロと同じで、その概念がなくても生活は出来るけど、知っているのと知らないのでは雲泥の差があるんだなぁ。
どっちにしても、この村ではパルマン神父が一番の識者なので、私の質問にいつも丁寧に答えてもらえるのはとても嬉しい。
「色々教えて下さり、ありがとうございます」
「あ、アウレリア。もし、これからもパッシブスキルを使って魔素を消費する事があれば教えて下さいね。とても興味深いです」
「はい」と答えたものの、面倒事は避けたいので先生に伝える事はないなと思いつつ、給食の列に並んでるランディたちのグループの方へ歩いていった。




