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 今日のメニューは鶉のワイン煮をメインとした赤ワインに合う料理。

 旦那様であるユーリは何でもおいしそうに食べてくれるから、作り甲斐がある。

「ん!この鶉、しっとりしていて美味しいなぁ」と必ず簡単な感想を言ってくれるのも嬉しいし、滅多な事では残さないので、それも作る側としては嬉しい。

 いくらスキルで簡単に作る事も出来るとは言え、一生懸命ユーリの健康や好みを考えて献立を立てているので、残されるととっても悲しいのよ。

 まぁ、それも体調が悪い時くらいしか残さないので、食べ切れない時は風邪とかそういうのを疑っちゃうレベルなんだけどね。


「ありがとう。長時間煮たからかな?で、セシリオ様の事業は上手く行きそうなの?」

「うん。人は集まって来ているみたいだから、早晩何とか開業に漕ぎつけるんじゃないかな?」

 ユーリの大好きな人参とジャガイモのバターソテーを、上品な動作なんだけど口に入れるスピードは驚くほどの速さで、その結果彼の皿の上には鶉肉は残っているのに付け合わせのバターソテーはほぼほぼ空だ。

 しかし、どうやればあんな上品に早く食べる事が出来るのだろう?


「ドレス作りをしたいんだよね?」

「う~ん。セシリオ自身はドレスを作りたいと言うよりも、自分の工房で作られたドレスをどの様に社交界に見せるか、そして売り抜くかを考えているみたいだよ。どっちかって言うと、仕組みを考えるのが楽しくて、ドレスの流行を自分で作り出したいみたいだ。だから事業を始めてみたいらしいぞ」

「うわぁ、セシリオ様らしいって言えば言えるねぇ・・・・」

「ふふふふ」


 ウチの旦那様はセシリオ様の力になりたくて仕方が無いみたい。

 少しの心配と大きな期待と、なんなんだろうね。彼ら二人の仲は妻でも立ち入れない何かがあるよね。

 多分、幼馴染時代に加え、留学時代の二段重ねでお互いへの信頼が揺るぎ無いんだと思う。


 彼らを見ていると男同士の友情と女同士の友情は違うって言われているのが良く分かる気がする。

 例えば私とメグはずっと友達だと思うけれど、恋人や自分の家庭が第一で、どうしても友情はその次になってしまう。

 もちろんユーリも私たちの家庭第一なんだけれど、セシリオ様との友情は恋愛のきったはったや、家族への愛情とは明確に別のモノでその全てが並列で並んでいると言うか、女性の方は順位を付けているのに、男性の方は平行なんだよね。

 ちょっと羨ましいよ。


 ユーリだって、私が怪我したり病気したら何を置いても私を優先してくれるのは分かっているから、セシリオ様との友情にやきもちを焼く事はないけどね。

 これで子供が出来ちゃったらどんな風にユーリが変わるのか見てみたいなぁ~。

 ああ、早く赤ちゃんが欲しい・・・・。


「なぁ、奥さん」

 ユーリって何か恰好付けて私を呼びたい時は態々「オレの奥さん」って言うんだよね。

 なんだろうね、この拘り・・・・。


「なぁに?旦那様」

「セシリオが何か助言を頼んで来た時は全力で協力してやって欲しいんだ」

「え?私の助言?料理の事ならなんとかなっても、モードの事は分からないよ?」

「モード?」

「あっ!?えっとね、服飾の流行の事だね」

 うっかり前世の言葉が口を突いて出てしまった・・・・。


「何語なの?」

「あ・・・私の造語・・・」

「なるほど!このアイデア、アイツに教えても良いか?」

「そりゃあ、良いけど・・・」

「ホテルみたいに洒落た雰囲気を出すために、特別な用語を作るのはありだと思うんだ。オレの奥さんがホテルって言葉一つで高級な宿ってイメージを国中にアッと言う間に広めちゃった前例があるからな。それと同じ手法が使えるなぁって」

「まぁ、使えるなら使ってみて」

「ありがとう!」

 ユーリが本当に嬉しそうに笑ったから、まぁ、いいかぁ。

 私の造語ではないのだけれど、そういう事にしておいてもらおう。


「ところで、今新聞社で捜査しているお貴族様の件、確証が取れたの?」

「ああ、ファルベル伯爵の件?」

「うん」

「仕事の中身については極力漏らさない事にしているんだけれど、オレの大事な奥さんの願いじゃぁ、無碍に出来ないからなぁ」と、食事の終ったユーリがいつの間にか席を立ち、後ろから私の前に腕を回し軽く抱きしめてくれた。

 こういう何気ないスキンシップは大好き!


「まぁ、可成り証拠が集まって来ていて、証言も3人から取れて、それぞれの証言の整合性が取れた所かなぁ」

「ファルベル伯爵の領地でまた血の雨が降るのかなぁ・・・・」

「う~ん。今の王がどれくらいスピーディに対処できるかによるんじゃないかなぁ?」

「現王にそれだけの手腕があるかなぁ?」

「どうだろうなぁ?王になって初めての大きな事件になるだろう。伯爵が侯爵を騙して大金をせしめたんだからな。王がさっさと処分を決めないと侯爵が自らの手で制裁を下すだろう。そうなると、貴族間の均衡は崩れるだろうな」

「いかさま商品を自分の子飼いの商人を通じて売り、自分より上位の貴族からお金をせしめるなんて、以前だったら考えられなかったわね」

「まぁ、それも貴族社会の終わりの始まりなのかもな。貴族自身が己の立ち位置のよりどころである血の尊さを軽視し始めたって事だからなぁ。まぁ、そういう事なんだろうな」

「ふぅ~」

 昨年から続く社会的動乱の齎す息苦しさから思わずため息が出てしまった。


「ふふふ。これからはお前の言う平民の時代になるのかもな」

 そう言って私の頭のてっぺんに軽いキスをして、仕事場へ行かず自宅で仕事したり、仕事へ行っても早い時間に帰って来る事で溜まっている仕事を片付けに、第二の仕事場となっている自宅内の書斎へ移動して行く夫の背中を見て、美味しいコーヒーを持って行ってあげようと急いでキッチンへ入った。

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