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「えっ?料理魔法?そんな魔法あったんだぁ。初耳だぞ。それにサブスキルがいくつだって?」
私はユーリのスキルを知っているけれど、結婚するまで私のスキルを家族以外には伝えた事が無い。
大公様にも学園にも料理魔法については明かしたが、サブスキル持ち、それも複数のスキル持ちである事は家族以外は知らないのだ。
でも、夫は家族だから伝えないとと思ったので伝えてみたら、ユーリが目を真ん丸にして驚いていた。
サブスキルは『食材鑑定』『調理ストレージ』『調理具製作』『食材育成』の4つだと伝えた。
本当は『調理ストレージ』なんて、『時間停止』や『冷凍』なんかの6つの細かなタイプに分かれているから、それも数に入れるとちょっとドン引きだよね。だから、ストレージに種類があるって事は黙っておこうかな~。
「そうかぁ・・・・。だから大公様の目に留まったのか・・・。それにフローリストガーデンの料理が他の店とは一線を画すことが出来ていたのは、これが理由かぁ」
「あ、うん。そうだね。ただ、大公様にはスキルの事は話した事は無いよ」
「そ、そうかぁ。まぁ、尋常ではない数と種類だから、おいそれと口には出来ないな。しかし、食材を育てられるスキルまでとかズルいなぁ。あっ、いや、神様から授かった力だからお前が悪い訳じゃない・・・・、あ、いや、悪い事じゃないな。優位性がありこそすれ、悪い面は無いか・・・・」
よっぽど驚いたのね。言ってる事が支離滅裂になってる。
「じゃあさぁ、オレの好きな点心とか、お前のスキルで特殊な調味料を呼び出さないと作れないんだ」
「えっと。本格的な物を作ろうと思ったらそうだね。でも、ほら、ウチは調味料工業団地で似た物を作っているから、ある程度のモノならそれで事足りると思うよ。だから鉄道のコンビニでも肉まんを売ってるんだし」
「あ、そうか・・・・。でも、コンビニの肉まんも美味しいけど、お前があややクラブで作ってくれてたのはもっと美味しかったぞ」
「ああ、私が作ったのは2種類のオイスターソースを混ぜ合わせて味の奥行を出す様にしていたし、たけのこの水煮が入ってたものね。歯ごたえが違うよね」
「それってこの国には無い食材なのか?」
「うん」
「はぁ~。お前のスキルは凄いな。ところで、肉まんの話をしてたらお腹が空いて来た。作ってくれるか?」
「うん!」
私達の新居はホテル王都店の庭園の中、ホテル本体のある反対側でお隣さんとの境界線に建てられた。出入りのため、庭の奥行的にはあまり奥まった所ではないけれど、大通りからは建物が見えないくらいには奥まっている。
土地は私の物だけど、建物は「オレが建てるから、お前の要望を全部教えてくれ」と、ユーリが建ててくれた。
大きなガラス類と台所は私のスキルで色々と加工したけれど、残りの部分の設計は私で費用はユーリ持ち。
新居の費用を全部女房に出させるのは沽券に関るそうだ。ふふふふ。
ユーリのそんなところ、嫌いじゃないよ。だ・ん・な・さ・ま♪
私の作る物は何でも「美味しい美味しい」と食べてくれるからか、最近ちょっぴり夫のほっぺがふっくらとして来た様な・・・・。
ダイエット料理に切り替えた方が良いかなぁ。
おからがあるとダイエット料理の幅も広がり楽だから、お豆腐でも作ってみようかな。
こんにゃくは手作りすると手間なので、スキルで呼び出しがいいかなぁ~。
白滝にしてすき焼きってのもいいかも。焼き豆腐も入るしね~。
でも、すき焼きにしたらお肉食べ過ぎてダイエットにならないかぁ・・・・。
『ストレージ』に冷凍機能があるから、肉の薄切りも比較的簡単に出来るんだよね。
まぁ、それも最初っから薄切り肉をスキルで呼び出すって手もあるんだけどね。
契約農家から仕入れている卵は全部農家さんの方で洗ってもらっての納品だから、生卵も食べれるのがいいよね。ああ、卵かけご飯食べたくなって来たかも・・・・。
あの前世で売っていたTKG専用醤油も呼び出しちゃう?
ダイエットと言えば、後で、ウチの私有地内にある私専用の温室にキウイを採りに行って来よう。あれならフルーツでも太らないからね。
ホテルの客が迷い込んで来ない様に、自宅の庭園とホテルの庭園の間には私達夫婦専用の温室と目立たない柵があるのだ。
背の高いホテルの建物から自宅をのぞき見されない様に、私たちの家や庭は本当に敷地の端っこに造られているんだけど、そのお陰かホテルの庭園が手入れの行き届いた森の様で、ホテル側だけに目をやれば森の中に住んでいる気分になる。
反対側はお隣さんの館との間に塀を作った上で、ウチの庭木で家の中から直に塀が見える様にはしていないんだぁ。
それにところどころに色ガラスが嵌めてあるから、塀であってもお洒落なのよ。大人締めのガウディ風とでも言えるかな?
自宅の庭も温室も、父さんがちゃんと手入れしてくれているから、隣接するホテルの庭園と比べて見劣りする事も無い。
家そのものは大きいんだけれど、森の中の隠れ家的な雰囲気があり、最近の私達夫婦の問題はこの家が居心地良過ぎて外へ出たくなくなる事なんだよね。
新聞社の本社をホテル内に大きく構えなおしたユーリも、そして私は元からホテルが職場なので二人とも職場が同じで家のお隣りなんだけれど、庭園を横切ると散歩道が曲がりくねっている事もあり徒歩二十分。馬車を使って表通りまで出て移動したら十分弱。但し、馬車の用意とか何やかやで乗るまでが結構面倒くさいし時間が掛かる。と言っても、用意は使用人がしてくれるんだけどね。
一番楽なのは部下たちを自宅に呼びつける事なんだけど、自宅に友達でもない他人をしょっちゅう入れるのは嫌だから、渋々二人とも自分たちの事務所へ通っているのだ。
友達が来てくれるのは大歓迎だよ。
セシリオ様やランビットやフェリーペ夫婦、ボブがしょっちゅう遊びに来るので、家はいつも賑やか。
メグにも遊びに来て欲しいけれど、ゴンスンデからは遠いからねぇ。メグたちもお店を経営しているから、長期で店を閉めるのも難しいだろうしね。でも、何時かゆっくり会いたいなぁ。結婚式の時には流石に来てくれたけど、終ったら直ぐに帰っちゃったからね、今度は時間を気にせずおしゃべりしたいよ。
王都に住んでいるみんなは可成りの頻度で遊びに来てくれるので、みんなが好きそうな料理を出して、美味しいお酒で会話が弾み、新聞の記事の裏話や、学園の時の逸話とか、話題には事欠かない。もうねぇ、あややクラブの時みたいで、お互いが大人になった事もあり、ウチの中では学園時代より貴族・平民の垣根が薄くなった気がするよ。お酒が入るとそういうのが割と簡単に出来ると言うか、垣根を取っ払うのにお酒は特効薬だと思うよ。
もちろん、お酒も私のスキルで造った物や調味料工業団地から直接搬入して厳選したものだよ~。
フェリーペの奥さんはいつも控えめだけれど、出された料理をどうやったら再現できるかについては貪欲に質問して来る。問題は普段使用人が料理しているのか、料理の知識が著しく乏しい事。
「アウレリア様、料理教室とか開いて下さると人気あると思うんですけど・・・・」なんて暗に早く開いて欲しいというご自分の希望前面押しで言って来るんだよ。商人の奥様になるくらいだから、押しは結構強めだ。でも、仕事が忙しいから無理なんだよねぇ。
これでも出張が多いからね。
結婚してから出張の頻度は可成り減らしたんだけれど、ランビットを総合マネージャーと言う、実質雇われ社長に任命した後でも、私でないと解決できない事が結構あったりするものね。
ユーリが、女性の社会進出に理解のある旦那さんで良かったよ。
でも、あんまり出張が続くと、ちょっぴり不機嫌になっちゃうから、匙加減が大事だよね。




