記者は辛いよ マルクスVer.
学園の同級生だったペペの紹介で一つ上の学年だったユーリ様の新聞社へ入社出来た。
元闇王様。まぁ、あだ名だったけど。本人は自分の事を皆が闇王と呼んでいたのは知っていたのかな?彼の名前はアドルフォ様からユーリ様に変わったが、本質は未だに闇王である事は変わってないかぁ・・・・。つまり、平民になっても貴族の様な佇まい。横暴ではないが、何かあるとユーリ様から発せられる圧は以前と変わらない・・・・。
その闇王様の新聞社では毎日がとっても忙しい。
正直に言おう!
記者の数が足りていないんだと思う。
それでもアーベル様と30人の配下が入社してくれてからは少しはマシになったけど、あの人たちは僕たちの様な町中の出来事では無く、どちらかと言うと各地の貴族の動向を探っている事が多いので、やっぱり記者の数は足りていないと思う。変な意味で棲み分けが出来てるっつーか・・・・。
新聞社としては市中の出来事も、貴族の動向も、両方載せているウチの新聞は他の新聞より頭2つくらい突き抜けていると思う。
実際、国内で一番売れている新聞だしね。
地下活動家たちが活発に暗躍していた頃はもっと忙しかったけど、今は王家も変わり、少し落ち着いて来たと思う。
ユーリ様やアーベル様は未だに辺境伯領への関心を手放していない感じだが、その他の領地は幾分落ち着いて来ている。
だけど町中には馬車同士の事故やら、商会の破産やら、船便の大幅な遅れやいろんな事を契機に見られる物価の変動とか、細かな事件には事欠かない。
そんなのを取材するのって、結構煩雑なんだよなぁ。
それに以前はヤンデーノ本店で紙面の割り振りとかもされていたし、支社から届いた記事の確認事項なんてのもあったりするから、残業は頻繁だったんだよ。
でもなぁ・・・・ユーリ様は今度本社を王都へ移すそうだ。
前から皆でひっそりと見守っていたアウレリア様との恋が成就して、結婚することになったからだ。
お二人が結婚されるのは皆が望んでいたことだけれど、新居をアウレリア様の仕事場近くに構えるって言うのが問題だよなぁ。
だって、そうなると今まで本社だった、ここ、ヤンデーノの事務所は支社になってしまう。
支社から送られて来る記事の内容確認や、足りない情報についてのやり取りって言う業務は無くなるだろうけど、色んな事がスピーディーに行えなくなる様な気がする。
今まで様々な決定はここヤンデーノでユーリ様がやっていたけれど、今後、その決済機能は王都の本社に移る事になる。
今まではヤンデーノで取材をして記事にする際、タイムラグ無しでユーリ様の判断を仰ぐ事が出来ていたのに、これからは自分たちで取材対象や記事の方向性を決めて、原稿を書き、記事の裏付けの為の証拠類を鳥便や鉄道で送らなければいけなくなる。
で、週1回発行される新聞を見て、はじめて自分の記事が採用されたのか、大幅な手直しが入ったかを知る事になる。
なんとももどかしい・・・・。
それに、ユーリ様の移動で、引っ越しの準備も手伝わないと。
もちろん居住スペースの方はメイドとかのあちらの使用人たちが準備するだろうけど、新聞社のオフィスにも王都へ持って行かれる書類等はてんこ盛りだ。
通常の取材等の仕事に加えて、事務所の引越準備もとなると、ここしばらくは残業続きだろうなぁ。
テイマー達の鳥便でいろんなやり取りは以前よりも早くなったけれど、それでも直ぐ隣の事務部屋へお伺いを立てるのとはわけが違う。
はぁ~。
ペペなんかはテーマパークでのイベントが順調で抱えている人員も増えたこともあり、通常の業務の上に、ユーリ様の結婚式も是非自分のところの商会で仕切らせてもらわなきゃとか言ってたけど、実際に任せてもらえる事が決まると、どんな仕掛けを用意しようかとか悩んでいたな。この前偶々一緒に飲んだ時には、リア様との打ち合わせについてちょっとだけ情報をリークしてくれた。
「キャンドルサービスとケーキカット、それに楽団くらいかな。流石にゴンドラは絶対に嫌!」と眉根を寄せたリア様に言われたらしい。他のも初耳だけどゴンドラとは何だろうってペペも悩んでいたが、絶対に嫌だと言われてしまえば、知らなくてもいいか・・・・となったらしい。
リア様ご自身は特別な事は何もしたくないらしいのだが、ホテル経営者として結婚披露宴はある程度派手にしないと、ホテルの販促にならないとご自分でもわかっていらっしゃるらしく、本当はやりたくないけど・・・・と言いつつ、色んなアイデアを出されたらしい。
そんでまた、その数々のアイデアにペペが嬉々として準備を請け負ったらしい。
そこで、結婚式は大聖堂だけれど、楽団を用意して、先に神父の前で待つ新郎の所まで、後から教会に入るリア様がお父様と腕を組んで、楽団の奏でる音楽に合わせ静々と新郎の所まで真ん中の花道を行くんだと。リア様はその花道を歩く時の曲までご自分で考えたみたいで、凄い凄いとペペが感動していた。
で、式の最後には参列者の前で結婚指輪の交換。これも全く新しい試みで、今までは参列者の前で新郎新婦が軽くキスするだけだった。それをその前に指輪を交換するそうな・・・・。
婚約の時、男から女へ指輪か腕輪を渡すのは今までもあったけど、結婚指輪なる物はリア様の発想だ。
いつもいつもリア様の発想力には驚かされるよ。なんてったってあややクラブが打ち出した数々の伝説のイベントは、ほとんどリア様のアイデアだって言うじゃないか。それに新聞ってのもリア様のアイデアらしい。う~ん、自分の仕事がリア様のアイデアで産み出されたと思うと感慨深いなぁ。
で、大聖堂からホテルの会場に移り披露宴。
別の楽団が音楽を奏でる中参列者は会食。ある程度みんなの食事が終わりそうな時に、ケーキカット、各テーブルを回ってキャンドルサービス、最後にブーケトス。
そこまでいったら楽団にダンスミュージックを奏でてもらい、新郎新婦が最初のダンス、途中から有志にもダンスに参加してもらい、最後にお土産を渡して終わり。
そのまま家族や親しい友人に駅で見送られ、新婚旅行と言う計画らしい。
このリア様の考えた披露宴に何かをプラスしたいとペペは頑張って頭を捻っているらしい。もう十分だと思うんだけどなぁ。ペペはペペで自分の存在感を表したいって所なんだろうなぁ。ガンバ!!
新婚旅行はナイトル村だそうだ。この新婚旅行って言うのも新しい取り組みだよな。
貴族の中には普段から旅行ばかりしている様な人もいるので、そういう方たちは結婚しても伴侶や浮気相手なんかと旅行をするのは珍しくないけれど、平民で結婚したから夫婦で旅行って言うのは今まではなかったんだ。
二人でゆっくりテーマパークを楽しみたいし、新婚旅行はビジネスホテルではなくちゃんと高級ホテルで過ごしたいからナイトル村なんだと。
準備の段階から色々と記事のネタが散見できていて、これを記事にしたいと思ったけど、結婚式の記事は本社の記者が書くだろうし・・・・。
僕、ちゃんと結婚式に呼んでもらえるのかな?
今後色々と流行りそうな仕掛けがてんこ盛りなんだもんなぁ。実際、色んな富豪や貴族が真似するだろうなぁ。
あの二人のやる事だから、みんなの耳目を確実に集めるだろうしな。
そうしたらペペの奴、「ハネムーンの旅企画します」とか売り出して、また事業の幅を広げそうだな。
それはともかく、僕は結婚式には出席させてもらえるんだろうか?
出席できたら、絶対後からみんなに自慢できると思う。
それに絶対フローリストガーデンで贅を尽くした料理や酒が出るはず!
これを逃してなるものかっ。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
来週からは新章になります。
ユーリ目線の話が当初思っていたよりも長く続いてしまいましたが、次章からはまた主人公目線にもどります。
これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。




