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記者は辛いよ フールVer. ②

 テロン先輩がゴンスンデへの連絡の為に1時間くらい前に宿を引き払ったので、先輩が戻るまではオイラが一人で聞き込みをしなくちゃいけない・・・・。ふぅ~。

 今頃、先輩は領都から出て最初の村で食事してる頃かなぁ?


 う~ん、オイラの住むポンタ村は発展著しいが最近まで村だったからかどこかのんびりしていて、ここの領都の様なきな臭さって無いし、こんな風に領民がピリピリしていたり、見るからに苦しい生活に喘いでいたりしている様な、そんな閉塞感いっぱいな中に身を置いた事がないんだよなぁ。

 ふぅ~、本当、気が休まらないって言うか・・・・。まぁ、その分記事を書くのにネタは困らないけどね。


 どうして気が休まらないか?

 どこから火の手が上がって辺境伯の個人私財が焼き払われるのか分からないし、そして火つけ犯としてそこらの全然関係の無い領民が衛兵に連れて行かれて二度と戻って来ないとか、そこに居るだけで何が我が身に降りかかるのか予測が付かない事の恐ろしさよってな感じなんだよ。


「マルタ、定食を一つ頼む」

「は~い」

 オイラはここの所泊っている宿の食堂で昼食を注文しながら、入口から死角になっている席に座った。

 今日の給仕は呑気な中年女のマルタだ。声を掛けても直ぐに料理は来ないだろうなぁ。ゆっくり待っていれば定食を持って来てくれるだろうとドカリと椅子にもたれかかる様に座って待つ。

 切り出したままの木材で簡単に作られたテーブルは今まで色んな客が使って来たのだろう、シミも傷もてんこ盛りだ。その傷を数えながら料理を待つ。


 テロン先輩と一緒の時は、先輩がオイラに色々指示してくるので、先輩は宿で休んでる中、オイラは日中はあっちこっちで取材活動をするんだけれど、どうにも今日は外へ出る事に食指が動かない。

 テロン先輩が5日後くらいに戻って来た時に先輩の留守中にオイラが何をしていたかって聞かれたら、宿のスタッフたちに取材していたとでも言えばいいかな?ちょっと苦しい言い訳だなぁ・・・・。

 でもなんか今日は外へ出たくない気分なんだよなぁ。

 オイラだってテロン先輩の様に、宿でゴロンとしていたい時だってあるんだよ。


 流石マルタ。定食は注文してしばらくして漸くサーブされた。結構待たされたな。

 いくばくかの具の入ったスープと硬めのパン、そしてコップ一杯のエール。他の店と変わり映えの無いメニューだ。

 ポンタ村だとどこの食堂も宿も食事には工夫を凝らして客を獲得しようとしているので、こんな何の変哲も無い定食を出す店は無いんだよなぁ。

 あ~あ、早くポンタ村へ戻りたいよぉ。


 木のスプーンで掬った具の少ないスープを口へ持って行こうとした時、息急き切ってテロン先輩が入口に顔を出し、素早く内部に目をやってオイラを見つけた。

「おい!宿を引き払って出るぞ」と語気は強いが低い声で言って来た。

 何でテロン先輩がここに?

 さっきゴンスンデへ向けて馬に乗った所だっただろう?


「え?ええっ?メシが今来た所で・・・・」

「お前、死にたくなかったら直ぐに荷物を纏めて領都から出るんだ。お前がその具の少ないスープの方が命より大事ならゆっくり食べな。オレはここから出る。お前は好きにしろ。オレはちゃんとお前に忠告したからなっ。何があっても自己責任だぞ」

「えええ?先輩!?」


 テロン先輩はオイラが先輩の後に続いているかどうか確認すらせず、馬が繋がれているだろう宿の厩の方へ走って行った。

 泊っている部屋には大したモノは置いてない。

 洗濯前の汚れた服が散らばってるだけだが、それでも昼食を諦め代金の銅貨数枚をテーブルの上に置いて、急いでリュックを取りに部屋へ行き、そこらへんに散らばっていたモノをちゃっちゃとリュックに詰めて、宿の受付へ。

 今日の給仕がマルタじゃなければ余裕で食事を終える事が出来ていたのに・・・・。


「すんません。宿の方、引き払います。忘れ物があったら取っといて下さいっ」

「え?あ、ええ?お客さぁぁぁん?」

 宿の看板娘は最初口をポカーンと開けていたが、オイラが受付の横を走り抜ける様に出て行こうとすると呼び止めて来た。でも、宿泊代の清算は前払いで終わっているのでそれを無視。テロン先輩が居ると思われる厩へ走った。


 果たして先輩は馬を2頭引いており、一頭の手綱をオイラに放ってよこした。

 オイラ用に一頭追加で馬を借りてくれた様だ。

 先輩もオイラも無言でそれぞれの馬にまたがり、領都の狭い道を右に左に折れながら東門まで通行人を避けながらソコソコのスピードで駆け抜ける。


「火事だぁぁーーー!!」

「あっちも火事だぁぁ!」

「練兵場にも火の手が上がっているぞぉぉ」

 大通りの通行人や通りに面した店の中から出て来た人達があっちこっちを指さしながら叫んでいたが、オイラは無言のままの先輩について領都の出口である東門を急いで潜った。

 門番たちは元来入場者には気を配るが、出て行く方は気にしない。

 かてて加えてあっちこっちで火の手が上がっているのが馬上で振り返った時に容易に確認できたので、門番たちの目にもそれらの光景が映っているだろう。屋根越しに煙や酷い所では火そのものが見て取れたのだ。横を馬2頭で駆け抜けても何もして来なかった。


 先輩もオイラも無言で東門から2時間くらい馬で走っただろうか? 馬に水をやるべく街道の横の休憩スペースの川へ馬を連れていく。


「先輩。そろそろどうして領都をあんなに急いで出なくちゃいけなかったのか教えて下さいよぉ」

「・・・・」

「先輩っ」

 テロン先輩は複数の行商の馬車等が見られる街道横の休憩スペースの方へ目をやり、「後でな」と小声で答えて来た。


 結局、テロン先輩が事の経緯を教えてくれたのは、ゴンスンデへの道の途中にある宿場町の宿に二人して納まった後の事だった。


 今日、先輩は最初の村で昼食を摂ろうと言う算段で辺境伯領都を出ようと急いでいたが、東門の近くには件の小さな教会があるので、念のため立ち寄ったらしい。

 先輩がビラの有無を確認し終り、他の礼拝者たちに不審に思われない様にと神像の前で蝋燭を灯し、お祈りの真似事をしていたら、後から男が2名入って来て、先輩が来る前から居た男3人と合流したらしい。

 この小さな教会に昼間から若い働き盛りの男たちがこんなにたくさん居るのは珍しいなと思っていたら、その5人全員が一か所に集まったのを見てこれは何かあると思ったそうだ。


 奴等は先輩が礼拝堂を出て行くまでは重要な事は何も話さなかったが、先輩が礼拝堂を出て馬にまたがったのを確認したら、また礼拝堂の中に集まって話し始めたそうだ。


 先輩は馬を教会から少し離れた木に繋ぎ、音を立てない様に気を付けながら教会へ戻ったらしい。

 礼拝堂の入口には教会そのものの外扉とは別に簡易な扉があり、その横に隠れて男たちの話に聞き耳を立てたらしい。


 薄い扉を挟んだ声はボソボソと小さくて幾何も内容は分からなかったが、焼き討ちの打ち合わせである事は、時々大きくなる声を聞き取り察しが付いたそうだ。こいつらがここにビラを時々置いていた連中だろうかなんて思いながら更に聞き耳を立てていた。

 領都内の幾つかの地名や建物名が出て来て、5人の男それぞれが担当する様に聞こえたので、大規模な焼き討ちが始まると予想したそうだ。

 普段取材とかせずサボり気味なのに、ちょっと寄った所でスクープって、先輩って何か持ってるなぁとちょっと羨ましい・・・・。


 焼き討ちが成功して領民側が力を持ったとしても、領主が焼き討ち側を取り締まったとしても、その後直ぐは戒厳令が敷かれるのではないかと思ったそうだ。

 そうするとオイラが身動き取れなくなり、先輩を含む外との連絡が取れなくなったり、下手をしたらオイラの命そのものが危険に晒されると思ったとのこと。万が一間違いなら直ぐに領都に戻れば良いだけなので、一旦は領都からオイラを連れ出す事にしたんだそうだ。


 結果としてはオイラたちが東門を出る前に既に焼き討ちがあっちこっちで実施されたのをオイラ自身の目で確認する事になった。先輩には感謝しかない。

 オイラの命を救ってくれたんだ。


「でも、先輩。こんな大きな事件、先に記事を書かなくて良いのかなぁ?」

「ゴンスンデで書けば良い。戒厳令が敷かれたり、領都への出入りが制限されて領都から出られなくなってしまっては、いくら記事を書いても本社へは渡せなくなるから新聞には載せられないだろう?」

「なるほどぉ」

「ここだよ、ここ!」と先輩は自分のこめかみを人差し指で何度か突いて見せた。なんかなぁ、命を救ってくれたのは嬉しいけれど、感謝の気持ちがガクっと減っちゃいそうな憎たらしい仕草なんだよなぁ。


 しかし辺境伯領はこれからどうなるのか?領民が支配体制を覆すのか?それとも辺境伯が領民を更に押さえつけるのか?出来たら記事にしたい所だ。

 どっちに転んでもこれから暫く辺境伯領は大変だろうなぁ・・・・。

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― 新着の感想 ―
大公とか良い人だったのに…王が使えないクズなせいで国が大変な事になっちゃったね〜(ㆁωㆁ*)
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