闇王もといユーリの新聞王への道13
「どうした?」
荷物を持って事務所に戻るといつの間にか王都から来たアーベルが待っていた。
そして、ペッパーが既に知らせてくれた例の鉄道ジャックの話をしてくれた。
違う点は、リアが事件後王都へ戻っている事と鉄道が便数を減らして護衛付きで運行していると言う2点だけだった。
それでも、一度リアの顔を見ておきたかったので、オレは王都へ向かう事にした。
今なら便数を減らし不定期運行している鉄道を使わず、他の手段で移動する方が確実かもしれない。
そうなると陸路で南下する方が早く、さっきまで考えていた国をぐるっと回る形で辺境伯領の港までヨットで行き、そこから馬車か騎馬で王都までのルートより魅力的だ。
でも、滅多にヤンデーノから出ないオレが移動するなら、ゴンスンデ近くの事件現場やアイツが良く使う鉄道周りの状況も確認しておきたいしなぁ・・・・。
リアがゴンスンデ付近にいると思っていたからヨットの仕度を指示した後だし・・・・ヨットを使うか・・・・。
オレが移動経路と手段に頭を悩ませているのにお構いなしのアーベルはどんどんと話しかけて来る。
「ユーリさん、ダルトとパリィの地下組織ならスナメリ経由で渡りを付ける事が可能だと思う。それか俺の部下を記者として送り込んでもいいし・・・・。兎に角、アウレリア様のホテル等を襲わない様に、国中の地下組織に情報を流そうかなと思ってるんだ」
「ん?どんな情報なら効果があるって?お前の案を言ってくれ」
「まず所有者が大公様の精鋭の一人である事。この国で大公様は多くの人から崇拝と言って良い程の信頼を得ていた方だったので、その精鋭の一人と言うだけで凄いアドバンテージとなると思う。それとホテルが国の施設ではない事や、平民や孤児を積極的に雇っていて、彼らの生活を支えていると伝えたらどうだろう?あそこは従業員の扱いが良心的な事で有名で、平民たちの憧れの職場でもある。活動の的にされ、最悪、ホテルを全店閉めなければならなくなると、何千人という平民が路頭に迷う事を強調すれば良い説得材料になると思う。だってそうなると今は彼らも他の平民たちの声援を受けて活動できているが、ホテルの職を失った者やその親戚、知人たちから恨まれ、衛兵などに密告されて摘発されやすくなると「なるほど!」・・・・」
リアの安全にかかわる事なので気が急いてしまい、思わずアーベルの話を途中で遮ってしまったが、良い案だと思う。
サッカーチームの荷物運びをやらせているスナメリとは、ウチの誰も直接やり取りをした事はない。
もうオレたちはビラ活動をしていないので、今のスナメリの仕事はサッカーチームの荷物運びと言う真っ当な仕事が主となっているが、遠征の度に各地のビラを集める事だけは未だに続けてもらっている。
ビラについてはもちろん各支局の記者たちも集めて来てくれているが、手は多い方が良い。だから未だに雇っているのだ。
そしてオレたちは、そのビラを読んで大体どの辺りにどんな地下組織があるのかの把握に努めていたのだ。
「それじゃあ、アーベル、オレが不在中、マルクスと二人でここを頼む。特にアーベルはスナメリや各支局の記者を使って広くさっきの情報を流す様にしてくれ。ペッパー、オレと一緒の船に乗れ。ゴンスンデに戻り取材を続けてくれ。何かあればここと王都へ人を走らせろ」
「「「はいっ!」」」
リアがどこに居るのか分からなければまずリアの所へ行くが、アーベルの言う事を信じるならば、王都の実家に居るはずなので安心だ。だから先にゴンスンデ付近の事件現場へ行く事にした。
陸路は鉄道の便数変更がまだ調整中で、確固たる発着時間や便数が分からないと言う不安要素もあるからな。
メイドのルルデに用意させたオレとペッパーやヨットクルーの弁当を運ばせ、自前のヨットでまずは辺境伯領の港まで行き、そこから馬で事件現場へ行った。
現場には何の痕跡も残っていなかったが、自分の目で見た事で納得した。
ペッパーとはそこで別れ、オレは王都を目指した。
鉄道に比べ馬車や騎馬だと移動のスピードが極端に落ちるが途中宿泊するため、出来るだけ線路沿いに移動をする。まぁ、騎馬の方が馬車よりもちょっぴりだけ早いから、今回オレは一人で騎馬での移動とした。
今やいろんな領地が鉄道の便利さを知っているので馬車や徒歩で移動する道も旧街道とは別に線路脇に造っている所多いのだ。便利になったなぁ。
「何だって!?それは本当か?」
事件現場からナイゴン駅村に到着し、ビジネスホテルに宿を取ろうとしたところ、何とリアがここに来ているとナイゴン村支局の記者が教えてくれた。
それを聞いて何をフラフラ王都から離れてるんだと腹も立ったが、この騒乱状態はここ数か月ずっと続いていたのだから、今更王都から出るなとも言えない。家族でも、婚約者でも無いオレがそんな事を強要出来る訳もなく、ただアイツを心配だというだけで何も出来ない。
くそっ!何て不甲斐ない・・・・。
でも会ってみない事には安心できないから、早速、リアを呼び出してもらった。
「ユーリ!どうしたの?何でここにいるの?」とオレがヤンデーノの町の外に出た事に驚いた様子だが、嬉しそうに駆け寄って来た。それこそ何の屈託もないのほほんとした様子で。
「このっ・・・・おバカ!」
「お・おバカぁ?」
リアが大きな目を更に大きくして素っ頓狂な声を出した。
本当は此奴の呑気な表情を見た瞬間、バカっ!と怒鳴りつけたかったんだが、妙齢の独身女性にバカと言うのもちょっと気が引けたので、つい普段は使わない『おバカ』なんて言葉が口を突いて出てしまった。
リアは『おバカ』と言う言葉がウケた様で、「ユーリがおバカぁだって。似合わない~」とお腹を抱えて笑い始めた。
その緊張感のなさに段々腹が立って来たが、ここで怒ってまた変な言葉が口から飛び出してはいけない。落ち着け、オレ!
「お前、大丈夫だったか?鉄道が襲われたんだろう?アーベルがお前は王都に居るって言ってたから、それなら安心かとも思ったが、念のために王都へ様子を確認しに行く途中だったんだ」
「ええ!?ありがとう。事件があった時もここに居たんだけれど、鉄道が動いている間にと思って一旦王都に戻ったの。でも、一応、事故の後始末とかもあるのでゴンスンデへ移動しようとしていたところだったんだぁ」
「何でお前が後始末を?鉄道の方は他の人間もいただろう?」
「ガルフィールドさんの事ね。彼は既にゴンスンデ入りしているんだけれど、私もホテルやデパートを襲われたらいけないので鉄道を確認がてら護衛の手配も兼ねてあっちこっちのホテルを見て歩いているのよ」
「このおバカっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
リアがビクっとオレの声の大きさに体を固くした後、またクスっと笑った。
どうやらオレと「おバカ」と言う言葉がミスマッチに思えたんだろう。そうだな。普段のオレなら「バカ」とは言っても、「おバカ」とは言わないもんな。
しかし、こんな時に若い女性があっちこっちへ移動とか何を考えているんだ?こいつの親は何してるんだ?
そう言いたかったけれど、お腹を抱えて笑っているリアを見ると、あまり強い事が言えなくなって、結局は嫌味っぽい言い方で出歩くなと言ってしまった。
「そういう時のためにダンヒルさんやランビットがいるんじゃないのか?・・・・心配させるなよ・・・・。頼むよぉ・・・・」
つい怒鳴ってしまったのが心配から来た行動だと分かったからか、リアの表情が柔らかくなった。
「ダンヒルさんは今回も私と一緒に来てくれてるよ。ランビットはヤンデーノ線の方を回ってくれてる。父さんはモンテベルデーノの方にと、急いだ方が良いと思ったから三手に分かれたのよ」
「怒鳴って悪かった・・・・。だけど、こんな危ない時期に移動はやめてくれよぉ」
「・・・・うん」
そこで事務所の人間やリアの護衛を人払いし、ダンヒルさんを呼び出し、アーベルが画策してくれているスナメリ経由の調略について二人に説明した。
とりあえずゴンスンデの警備についてはオレがヤンデーノに戻る際に手配するからと、真直ぐ王都へ帰ってもらう事にした。まぁ、リアは不服そうな顔つきだったが、オレの剣幕に負けたんだろう。一応は同意してくれた。
もちろん王都まではオレが同行するのも条件の一つだ。本数は少なくなってしまったが、事件後鉄道会社が手配した護衛付きで動かしている列車での移動となった。
叔父の起こしたウチの乗っ取り事件後初の王都入りとなったが、オレは鉄道駅まで送っただけで、そのまま同じ列車でゴンスンデまで移動する事にした。一瞬セシリオに会って帰ろうかとも思ったが、今は例の事件で新聞社の方も長く不在にできない。
本当ならヤンデーノ線に乗りたいのだが、ゴンスンデの警備の手配があるからしょうがない。大人しくゴンスンデに行くかぁ。オレのヨットもゴンスンデ近くの辺境伯領の港に係留したまんまだしな。
「リア、頼むからしばらく王都から動かないでくれ。何か必要なら新聞社の人員も動かすから、オレに言え」と言い、数か月は王都から動かないと言う約束を取り付けオレは独り車上の人となった。




