闇王もといユーリの新聞王への道12
今回はちょっと長めです。
2話に分けても良かったのですが、分量的にちょうど半分ずつに分けられなかったので、1話としてアップします。
「ユーリ様、ゴンスンデ線の鉄道が革命家たちに乗っ取られました!」
「何ぃ!?それで?リアは乗っていたのかっ?」
オレの頭の中にはすぐにリアの顔が浮かんだ。
「乗ってはいなかった様です。それと、死者や怪我人は出ておりません。でも運行がストップしたそうです」
ほっとしたので、知らず知らずのうちに肩に入った力が抜けた。
そうなると今度は事件の事が気になりだした。
「それは何時起こったんだ?」
「4日前の夕方です。今、ゴンスンデの記者が船で来ております」
「早く、ここへ通せ!」
「はいっ!」
ゴンスンデの記者、ペッパーが疲れた顔でオレの事務所へ入って来た。
「詳しく話してくれ」
「はい。まずこれを」とペッパーは船中で書いたと言う記事の草案を寄こして来た。
揺れる船の中で書かれた手書きの原稿だったので、ちょっと読むのに手間取ったが、知りたい事は網羅されていた。
ダルトとパリィという農民が率いるゴンスンデとナイゴン駅村から少し内陸に入った小さな町の地下組織が手を組んで、ゴンスンデの少し手前で列車を止め、ハイジャックし、中に乗っていた貴族や豪商たちを降ろし金目の物などを分捕ったそうだ。
ありがたい事にペッパー記者がゴンスンデを出発した時点では死傷者を出していないのでその面では良かったのだが、駅も無い線路の途中で止められた鉄道車両は襲撃者の許可を得なければ動かす事が出来ず、しばらくそこで立ち往生をしたらしい。
最終的には襲撃者らが現場から居なくなり、運転を再開してゴンスンデに到着してから事件が発覚した形だ。
馬車と違い複数の道から選んで走るのではなく、元々敷設されているレールの上だけを走る鉄道にとって、一か所でも堰き止められてしまうと全体の動きに大きな影響が出るし、復旧まで時間が掛かる。そして、運行側は次にどこで襲撃を受けるのか見当も付かないのに対し、襲撃側は襲える場所はレールのある所と襲う場所を決めやすい。それもあってかペッパーは鉄道ではなく船でここまで来たのだろう。
「しかし、運転手は何で列車を止めたんだ?人間1人2人なら轢いてしまえば止める必要もなかっただろうに。こんな事態なんだ。鉄道を乗っ取られるかもしれないってリアが前から言っていて、内部でもその通達は行き渡ってたはずだろう?」
「何でも大きな牛の死骸数頭を線路の上に重ねて置いてたらしくて、如何に列車であっても無理に進めば脱線して大規模な事故になりかねなかったそうです。それに線路上の牛は数が多かったのと、元々襲撃が夕方だったため、撤去作業が翌日朝まで掛かって被害者たちのゴンスンデ到着はその日の夜となりました」
「ふぅ~。・・・・で、今は列車は動いているのか?」
「私がゴンスンデを出た時は、被害にあった人達がゴンスンデに到着したばかりの時だったので、その後の流れはまだ分かりません」
「はぁ・・・・、そうか・・・・。いや、直ぐに知らせてくれてありがたい。で、その後の情報の入手方法はどうなっている?」
「はい、オイッスが第二段をこちらへ知らせてくれる手筈になっています」
オイッスと言うのは背が低く太ったアーベルの部下で、ゴンスンデに配置されているのだが、背が高く痩せているテロンと言う男と常にペアで動いていたと記憶している。
オイッスはバサバサと音がしそうなくらい長いまつ毛に彩られた大きな目の男で、目だけを見れば可憐な乙女かっ!と思う程にカワイイ印象を与えてくるが、残りの部分がおじさん過ぎてムサイ印象が先に来る。
テロンはどこに目があるのか分からない細目の男で、オイッスとは対極にある様な容姿のペアだが、二人とも目立たなさは甲乙つけがたい。
アーベルの部下は全員押し並べて目立たない容姿なのだ。
恐らく情報収集には目立たない容姿の方が動きやすいのだろう。
ビラ活動は元々オレたちが始めた事だが、この鉄道襲撃事件はそれが嫌な形で跳ね返って来た感じだ。
「オルト!まずホテルへ行って、今リアがどこにいるのか確認して来てくれ。それと警護を増やすぞ。交通機関が狙われたなら、情報発信機関の新聞も十分狙われる可能性がある。腕っぷしの良いのを後10人雇ってくれ。出来たら以前に雇った事のある奴等の方が安心だから、そいつらを優先して雇ってくれ。ウチの離れで寝泊まりさせながら3グループに分けて事務所の敷地内を巡回させる。各支社は事務所がホテル内だからそっちはオレたちが警護を配置しなくても良いかもしれないが、リアん所にはちゃんと情報を知らせてやらないと、金持ちが宿泊している施設なら鉄道と同じ様に狙われる可能性があるな」
「ユーリ様、私が船でこっちを目指したのと同時に、事務員を一人別便の船で王都に向かわせました。アウレリア様に状況をお知らせする様に言いつけておりますので、アウレリア様がいらっしゃらなければ部下のどなたかには到着予定の明日、明後日には私と同じ情報を報告しているはずです」
「ペッパー、よくやった!で、その事務員は鉄道を使って移動しているのか?」
「いえ、事件のあった辺りを避ける為、途中までは船で、残りは走っていれば鉄道で、そうでなければ馬車にする様、申し付けております」
「うむ。流石ペッパーだ」
「はい、ありがとうございます」
元々貴族の6男なのでペッパーの服装はパリっとしているのだが、気が弱そうな顔なのでちょっと頼りなげに見える。
でも内実は、学園も卒園していて、貴族の子息としての躾も受けているので、平民上がりの記者なら気付かない所にも気を配れる奴だ。今回もその特性を遺憾なく発揮してくれた様だ。
オレの所と同時にリアの所にも情報を知らせるなんて言うのは時間が勝負なのを分かっているってことだ。
やはり教育って言うのは大切なもんなんだな。
程なくして、ウチの下男のオルトがホテルから戻って来た。
「ユーリ様、アウレリア様が事件当時ゴンスンデにいらっしゃったか、ナイトル村にいらっしゃったかが分からないそうですが、方向的にはゴンスンデの方へ向かっていたらしいとのこと・・・・」
「なに!?」
じゃあ今もゴンスンデ辺りに居るのだろうか?今後は出来るだけ王都から動いて欲しく無い。安全なところに居て欲しい。
今、どこに居るのかはっきりしないと思うと、得体の知れない重しの様なモノが胃の辺りにドスンと居座った気がする。
ゴンスンデからの第二報を待つのではなく、オレが現場へ行った方が良いかっ!
アイツが今後襲撃の被害に遭ったとしたら・・・・そんじょそこらでは見かけない程の美人だし、服装とかでも良いところの娘だと丸わかりだろう。ましてやホテルチェーンや鉄道のオーナーでもある事がバレれば連れ去られる事も考えられる。そうなると無体な事をされる可能性も否定できない。
「ユーリ様、ホテルで聞いたところ、まだ事件の事は知らなかったみたいです。支配人の考えでは、今後しばらくは全ての鉄道の便に警護を付け、大幅に便数を減らして運行される可能性が高いとのこと。しかし、次に狙われた時も乗客の命が保証されるとは言えないので、鉄道を止める方が良いと言う意見も出て来るのではないかと思っているそうです」
鉄道が全く止まってしまうと、色んなモノの流通がストップしてしまったり、手に入るまで非常に時間が掛かる事になる。
ほんの数年前までは鉄道自体が無かったので、その頃に戻るだけなんだが、人間とは快適さを味わってしまうと中々元の不便な生活へ戻る事が難しい。
それにオレにとっては新聞の配達に関しても、鉄道が営業されるかどうかは大きく影響を受けてしまう。
でも、事業も大切だが、何よりリアの安全を確保する事が大事だ。
こうなったら少しでも早くナイトル村かゴンスンデへ行って、リアを守ってやらないと。
「オルト、護衛を雇う事はお前に任せる。ウチの庭の番犬は鎖を外した状態にする様に。オレはナイトル村へ行く。マルクス、その間、新聞の方はお前に任せる事になる。すまんが、オレがここにいない間はウチに泊まり込みで情報収集と新聞発行に当たってくれ」
「え?あっ、承知致しました。でも、ゴンスンデからの第二報をこちらで待っている方が情報を早く手に入れられるのでは?」
ひよこイベント商会のペペの紹介で入社したマルクスは最近ではオレの右腕として掛け替えのない社員となっていて、普段なら一を言って三を知るところがあるのだが、流石のマルクスでもオレがこのタイミングでどこかへ行くとは思ってもみなかったのだろう。
ちなみにセシリオなら一を言って十を知る所なんだけれど、マルクスはまだその域までは到達していない。
オレもリアが王都の自宅に居たなら、このままここで新聞作りに集中したと思う。
だが、リアが事件現場の近くに居たと言われると、鉄道もあまり動かない、動いたとしても狙われる可能性がある今現在、傍にいて守らないとって思ってしまう。
何よりホテルは金持ちの客が主だ。鉄道に乗っていなかったとしても、ホテルは貧しさから拳を振り上げ見境なく襲ってくる様な輩には、格好のターゲットとなる可能性さえある。
まぁ、ウチの庭の番犬のアイデアも元を辿ればアイツのアイデアだから、各ホテルでも番犬を複数飼っていても不思議はないがな。
それでもアイツが誰かの凶刃に倒れる姿は見たくないから、今は側へ行って出来る事をするしかない。
「兎に角オレはリアの無事を確かめたい。オルト、お前はすぐにウチのヨットを動かすためのクルーたちを呼び出してくれ。それですぐにでも出発できる様に用意を始める様に。そして出発は今日中だと言って来てくれ。キッチンの方へ人数分の食糧を用意する様にも伝えろ。兎に角一刻も早くゴンスンデへ行きたい。ペッパー、お前もオレのヨットに乗ってゴンスンデに帰れば良い」
「かしこまりました」
オレの指示に従い、みんながそれぞれに動いた。
オレもすぐに居住スペースにいた年寄りメイドのルルデにオレの荷物を用意する様申し付け、オレ自身はヨットの中に置いてあるビラ活動関係の道具を運び出す事にした。
隠しておく場所はオレの寝室だ。鍵のかかる金庫があるから、あそこへ入れておこう。
オレがビラ活動の道具を自室の金庫に収め終える頃、衣装部屋でのルルデの荷造りも終了した様だ。
オレは荷造りを済ませた小さな鞄を抱え、急いで事務部屋へ戻った。
 




