闇王もといユーリの新聞王への道11
「ようこそお出で下さいました」
「おおお!アウレリアさんも出席してくれるんだね」
「ええ、前以てお知らせせずにすみません」
「いえいえ、良いですよ。それで安心してもらえるなら大歓迎だ」
アーベルがオレに話しかける時よりも数段丁寧にリアに話しかけている。目がキラキラしている。
何か面白く無い。
リアは右手を部屋の中へ向け、入室を促す。
「奥へどうぞ」
アーベルに続いてキースキネン子爵、オイカリネン男爵、パーッキネン男爵家の当主たちが部屋の奥に入って来た。最後にリアが入り、ドアを閉めた。
オレも元貴族の総領息子だっただけあってこれらの当主の顔は知っているので、本人である事は間違い無い。
ツインルームのベッドを全て取り除き、ソファやコーヒーテーブル等が並べてある角部屋をリアが用意してくれた。
ツインルームと言ってもスイート程いろんな部屋が用意されていないだけで、部屋そのものの広さは結構広い。
ソファセットも何れの壁からも相当な距離に設置されているので大声で話さなければ隣の部屋の壁に耳をくっつけていたとしても何も聞き取れないはずだ。
それに、さすが高級ホテルと言われるだけあってスイートでなくても、壁紙も絨毯も超一流の物が使われているし、何よりもフローリストガーデン関連でなければ見る事の出来ない大きく透明で歪みの無いガラス窓が否応なく部屋の高級感を上げている。
その大きなガラス窓から出られるテラスにはランビットが念のためと言って陣取っている。
だから、ここでの話が外へ漏れる事は無いだろう。部屋を用意してくれたリアに感謝だ。
「アーベルにこの会合はキヴィマキ王国再建の分岐点になると説得されました。あなたの事情も知っていますし、それ故にここはお互いに知り合い、手を組める所は組みたいと思い全員参加しています。ご存知の通り、我々は王家の足ですが、オルダル王家に心から忠誠を誓っている訳ではありません。オーバリ元子爵家に対して行われた無碍な仕打ちで我々キヴィマキ貴族の心は完全にこの国から離れています。あなたがビラ活動を始めた時から程なくして、我々は情報を掴んでいましたが、王家やオルダル国貴族にはその情報を流していません。何故なら、あなたと共闘できると踏んでいたからです。あなたの家とこのアーベルの家が被った理不尽は同じだったので、お互いに心情を理解し合い、この国の王制の転覆に向かって協力出来るのではないですか?」
連中を代表して特徴的な顎鬚のキースキネン子爵が話を進める心算の様だ。
彼は続けて「アーベルの所もですが、あなたの所の鉱山資源も膨大な量が埋蔵されていなければ、王家もこんな無体な事はしなかったのでしょうが、それにしても馬鹿な王だ・・・・」と発言したので、よっぽどの量が埋蔵されていたのだろう。
「それならば開発は領主に任せて、その上前を税として取り立てれば良いものを・・・・」と返すと、彼ら全員が無言で頷いていた。
短絡的な思考に走りがちな現王に対し、先王が危惧して中々後継ぎに指名しなかったらしいと父上から聞いたことがあったが、先王の心配が正に形になった様だな。オレが言うのも何だが、この国も先行きが怪しいと思うぞ。
しかし、オレたちのビラ活動、特にビラ作りはオレ所有のヨットの中で行われたのに、どうやってオレたちの情報を得たのだろう?
それ程に高い情報収集能力を持っているのは驚異と言って良い。
「私がビラ活動をしたか、していないかの真偽はひとまず置いておくとして、私としては情報を、それも政治中枢に近い情報を得る事ができる人材と伝手が出来るのは新聞社として美味しいのでこの会合に参加する事にしました」
今や向こうは貴族で、こちらは平民なので、言葉使いには気を使っている。
でも、駆け引きでは一歩も譲る気は無い。
「私達は新聞と言う発信力のある媒体が欲しいのだ」
「新聞社をお譲りする訳にはまいりません」
「もちろん、貴族である事を振りかざし新聞社を取り上げようとは思っていない。記者やその編集をする者がごっそりいなくなった外枠だけの新聞社を手に入れた所で数か月もすれば読者にそっぽを向かれるだろうし、あなただって新たに新聞社を立ち上げれば良いだけですから、取り上げても意味は無い。それくらいは我々も分かっております。なので、私共と致しましては、このアーベルとその配下の者を御社で雇って頂きたいのです。もちろん雇って頂いてビラ活動をしたい訳ではありません。目的はあなたと同じく、王家及びオルダル国貴族の転覆です。取材をし、記事を書かせてもらえれば民衆の意識を我々の思う方に向けさせる事ができるし、何より取材時に新聞社の社員と言う肩書が欲しいと言うのが我々の本心です」
「私は王家を転覆させたいとは一度も言ってませんよ?あなた方が現支配システムを撤廃したい目的は何ですか?」
「既にアーベルからお伝えしているかと存じますが、我々の国の再建です。現王家が廃止された後は、旧キヴィマキ王国の土地を返還してもらい、我々で再建したいのです。元々キヴィマキ王国でなかった土地は、そちらの好きにしてもらって良いです。民主主義でしたかな?オルダル国であなた方がおままごとをされるのは我々にとってはどうでも良い事です」
「元キヴィマキ王国の土地を手に入れても、王家の血は途絶えていると記憶していますが?」
キヴィマキ王国出身の王家の足が揃って不敵な笑みを浮かべた。
恐らくどこかにキヴィマキの王家の血を引く者を匿っているのかもしれない。
まぁ、オレにとってはそんな事はどうでも良いがな。
高々鉱山の為に何代も続いて来た王家の血を引く侯爵家を廃絶させた恨みは現王家を潰す事で一応の終焉を迎えても良いと思っている。
まぁ、そう思える様になったのもリアの献身のお陰なんだがな。
その後、この国が平民の手で統治されてもされなくてもどちらでも良い。
こう言ってしまえば無責任に聞こえるかもしれないが、今のオレには養い護るべき領民はいないのだ。
統治機構がどこであろうと、オレのやりたい事に抵触しなければ誰が実権を握っていても良い。まぁ、現王家以外ならばだけどな。
リアが言っていた民主主義でも全然構わない。
それが一定の金額以上の税金を納める事のできる大人だけに限っての選挙権であろうと、猫も杓子も全部ひっくるめての成人した平民に選挙権を持たせても、王家以外の現貴族の中から新たな王家を輩出し王制を維持しようが、どうでも良い。
結局話し合いの結果、オレはオレがビラ活動の始祖である事は形の上では伏せたまま、アーベルたちを雇う事になった。お互いに真相を知っていたとしても、大事でない事は伏せたまま手を取るというのは大人の世界には良くある事さ。
それと雇う条件として、紙面に載せる記事の決定権はこちらが持つ事、そして彼らが今後一切ビラ活動等、新聞社にとって不利になる活動はしない事を持ち出した。それと、現王家を転覆させる事については積極的に協力と言うのは無理だが、新聞社としては中央の情報を得る事を条件に、ある程度の協力を約束するとし、双方の合意が成り立ったので会合は無事終わった。
本当は全面的に王家転覆に協力したいが、まだ言質を取られるのはリスキーだと思ったので、形式上はこういう形に納まった。
オレにとっては欲しくても手に入らなかった情報に手が届く様になったことと、自分の手を汚さなくても現王家を引きずり降ろしてくれそうな者たちの存在が目の届く範囲に居るという好カードが手に入った形だ。
独特な顎鬚のキースキネン子爵が満足気な表情で差し出した右手をぎゅっと握ってオレたちの密約は締結した。
会合から数か月後、お陰で新聞の記事の精度が上がり、今までは取材する事もかなわなかった事まで記事に出来る様になった。
勿論、新聞の売り上げは鰻登りだし、国中で読まれている新聞に広告を載せたい者も多くなった。
その結果、紙面の数が増え、今では1枚や2枚のぴらぴらな新聞ではなくなった。
入社後、アーベルたちはきっぱりとビラ活動をやめた様だった。まぁ、それが奴等を雇うに当たってこちらが出した条件の一つでもあったからな。
「新聞社と繋がる者がビラ活動をするのは危険を高めるだけだからな。ビラ活動をやめる事は約束しよう。俺たちは王家や貴族に関する情報を手に入れて記事にするので出来るだけたくさんの記事を載せてくれ」とネタとそれを裏付ける証拠をポンポン提出してくるアーベルは今やオレの新聞社に欠かせない人材となった。
気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、先々週、こっそり『料理魔法なんて魔法あったんだぁの世界ガイド ~極夜色の章~』に加筆しちゃいました。
新たな登場人物の紹介です。




