闇王もといユーリの新聞王への道8
ビラ配りは農家の息子たちを主に巻き込んだ。
もちろん秘密結社の主要人物が直接関りを持つ事は避けた。
何故ならビラ配布係と作る係の命を守るためだ。
ビラの文面を考えているのは主にセシリオとオレだしな。
元高位貴族の総領息子であるオレがこういう文を作っているというのもある意味皮肉だよな。
雇った男にビラを運ばせ、農家の次男、三男の目に触れやすい所や、大きな商店で人が出入りする所にそっと置いて来る様にさせた。
ビラ配布はスナメリと言って王都のスラム街に燻っていた男を採用する事にした。
オレは直に会った事は無いが、物陰から盗み見たからスナメリの容貌は知っている。
暗い顔をした玉になっている髪の薄汚い男だった。
この男を探して来たのはダンヒルの親戚が手配した男だ。
つまり直ぐにリアに辿り着くダンヒルも簡単には行き着かない様にスナメリとダンヒルの間には2名の人間が間に入っている。
ダンヒルの遠い親戚、その男が雇った男が仲介して、漸くスナメリに行き着ける。
「スナメリは帝国との国境にほど近い村の出身で農家の4男でした。長男でなければ長男が畑を継いだ後は奴隷の様にこき使われるだけで、妻を娶る事も出来ないからと王都に単身出て来たのですが、多くの農家の子と同じで手に職があるわけではないために仕事にめぐまれず、スラムに行き着いた男です。今の社会体制を恨んでいますし、捕まれば命を刈り取られる危険がある事も承知しています。一応、スナメリの過去の調べは付いていますし、どこの貴族ともつながっていない事は確かです。そしてまだ学校制度が始まる前の世代なので、彼自身は字が読めないのも万が一捕まった時彼自身を守ってくれる要因になる可能性があります。2、3度ビラ配りをさせた後に、ビラを運びやすい仕事を見つけたと言ってこいつをサッカーチームの荷物運びとして潜り込ませます。ビラ配りは大きな町でプロサッカーチームが試合している時にスナメリ自身か奴が都度都度雇った者に配布させます」
これまでもダンヒルにはオレの救出後のゴンスンデのアパートの賃貸や、ヤンデーノの市民権登録や今の館の購入手続きから使用人の雇用まで色々と世話になっており、その手腕も知っているので、この男に任せておけば大丈夫だと素直に信用している。
サッカーチームの荷物運びもリアの所の募集なので潜り込ませるが、ビラ配りを雇い主には気付かれるなとスナメリに言い聞かせれば、まさかビラを作っている者がサッカーチームの所有者であり直接雇っているとはスナメリ自身も思うまいとのカラクリだ。
だからこそスナメリにはチーム関係者にはくれぐれもビラの事はバレない様にやってくれと念を押すそうだ。
まぁ、それが彼自身の命を守る事になるので、スナメリもちゃんとやってくれるだろう。
サッカーの方は大人気となり新聞で大々的にプロチームを募集した所、すぐに名乗りを上げて来たチームが3つもあった。
試合をする度にサッカー場は満席になり、入りきれない観客がサッカー場をぐるりと囲み、アナウンサーや解説の声だけでも聞こうとするのはもう風物詩と言って良い。
王都のチームはリアん所が所有し、何とゴンスンデの方はセシリオの家が所有している。
まぁ、セシリオん所は領地を持っていない法衣貴族なので、ゴンスンデと直に関係はないが、誰も声を上げていない時に真っ先に手を挙げてくれたのですんなりと決まった。
この状態でスタートして、各地で試合を繰り返し、アッと言う間の成功だ。
「アディ、やっぱり大会を主催する新聞社がチームを保有するよりも、第三者が持っていた方が良いんじゃないかと思う」との判断でセシリオがチーム作りに協力してくれたからこそ、新聞社が金儲けのためだけにやっている事業と言う認識は世間には無い。
あいつにはいつも助けてもらっているから、感謝しかないな。
新しいチームの内2つは金満家の貴族の所有だ。
残り1つがモンテベルデの大きな商会のチーム。
これでサッカーチームは王都、ゴンスンデの他にもヤンデーノとモンテベルデとナイトル村に出来た事になる。サッカー場の運営と言う視点で見ると、鉄道が止まる町でなければ集客が見込めないし、村と呼ばれていても鉄道の止まる村は今やどこも大きな町の大きさになっているので問題は無い。
宿泊にはリアん所のホテルや、最近その周辺に2流3流の宿もボツボツ現れてきてるから、多少観客が増えても対応可能だし、その日暮らしに近い平民でも試合を見るために銀貨数枚を握ってスタジアムまで来て、寝泊まりはその安い宿で雑魚寝なんてのも良く見られる風景になった。
プロチームの方だが、後から名乗りを上げた3チームはまだ試合が出来る水準ではなく、今は選手となる者を集め、特訓しているらしい。
恐らく大会への参加は来シーズンからになるだろう。
それでもヤンデーノなど自分たちの町にサッカーチームの無かった町では、おらが町にプロチームが出来たと大いにサッカー機運が盛り上がり一躍ブームになっている。リアの目論見通りだな。
これに倣って他の町にもたくさんプロチームが出来ると良いなぁ。
新聞も試合の予想や結果、解説を記事として載せるといつもより売れるので、サッカー大会を運営するのは収入の面からみても大きなプラスになっている。
今度、リアが新たに提案してきた素人のサッカー大会をウチの新聞社で開催するのもいいかもしれない。
今後プロ選手となり得る人材を見つけやすくなるので、こういう大会を継続して行えば、プロチームの試合がより面白くなるだろうってアイツが言っていたので多分そうなんだろう。
ビラに関しては、ビラを配る事そのものが記事になるので、ビラを見た事が無い人たちでも、どういう主旨のビラが出回っているのか新聞で知る事ができる。
こんな文面のビラでしたと記事にするからだ。オレからしたら自分たちがやってるからマッチポンプなんだけどな。
最近では王室からビラが配られた事を記事にするなと御達しが来た。
それでもこれまでに2回ビラについての記事を書いているので、今更記事にしなくても、全国の字を読める者ならば大抵はビラの主旨は知っているから問題ない。
後は粛々とビラを作り、ビラを配れば良いだけのことだ。
農家の子供たちまで教会の学校などで文字の読み書きを教えている事で、ビラの内容が一気に全土に広がった。民の質を上げたいと言う王家の良い政策が、自分たちの首を絞めるって皮肉だなぁ。
「ユーリ、もうビラ作りは一旦止めた方が良いと思う」
ビラ配りが小規模ながら結果を出し始めた頃、リアがそんな事を言って来た。
叩き込める時に出来るだけ叩き込み、容易に相手が反撃できない様にするものだと言う教えを貴族時代に受けていたので、今この段階でビラ作りを止めてしまうのはオレにとっては悪手に思えるのに、リアは違うと言う。
「もう他の人達もビラを作って配りはじめてる。特に田舎の農家の3男4男辺りが自分たちの財産も無い中、長男に奴隷の様に働かされることや、伝手も無いのに仕事を求めて都会へ行き、スラム街に住む事に不満を燻らせていたので、彼らが中心になって独自のビラを作っているの。もう、ユーリが危ない橋を渡る必要は無いと思う。今後またビラ活動をするとしても、もっとほとぼりが冷めてからの方が安全よ」
「でもっ!それだと新たにビラ活動をしている平民たちが危ないのでは?」
リアは一度目線を下に向けた後、ゆっくりと視線を上げてオレを見つめた。
「そうね。でも、彼らは彼らの覚悟を持って活動していると思う。万が一、覚悟も無しに活動していたとしても、それは私達の責任ではないと思う。小さな子供が真似をしているのならいざ知らず、大人がやっているのならば、各人の行動の責任は各人が負うべき」
此奴ってこんなにスパっと物事を切り捨てる奴だったっけ?
常に用心や安全に配慮していて、それは自分だけじゃなくてクラブのみんなについてだったり、イベントの参加者であったり、ホテルの利用客も含めていた気がするが・・・・。
「今、この世で一番世の中を変えたいと思っているのは今まで虐げられてきた人たちのはず。私たちは彼らに方法と方向性を示しただけ。その先に進むかどうかは彼ら自身が決める事だと思う。私は世の中を変える事よりも、私に繋がる人達の安全を確保する方が大事なの。もちろん世の中が良くなるのならばそれに協力はしたいけど、それは命あっての物種。ユーリ、お願いだから、ビラ活動は一旦ここで停止して欲しいの」
リアの目は真剣そのもので、オレもちゃんと引き際を考えざるを得なくなった。




