闇王もといユーリの新聞王への道3
オレは治水の専門家と領地経営の専門家を見つけ、セシリオ経由で叔父の管理の下で起こった水害被害についてコテンパンに批判した記事を3週に渡って一面記事にして報道した。
叔父から新聞社に抗議があったが事実しか載せてないのでむこうも反論は出来ない。
後は貴族として平民を押さえる方法しか残されていないが、新聞社を敵に回したらそれ自体を記事にされる可能性に気付いているらしく、まだ直接何かをされたと言う事は無い。
セシリオやアウレリアからは叔父が被災地の救済を行う事もせず、イライラを周囲に当たり散らしている様子を教えてもらっている。
これで領地の金は尽きたはずだ。
お父様やオレの個人財産が手元になければ、それまで貴族の次男として何の職も持たず、お父様の慈悲で生活費を工面してもらっていただけの叔父では資金調達も楽ではないはずだ。
まぁ、今回のオレの廃嫡事件では裏に王がいるらしいから、王家からいくばくかの資金を回してもらえるかもしれないが、焼け石に水だろうなぁ。
王家から不当に叔父に資金が渡ったら、それも記事にするつもりで記者を貼り付かせている。
だが、今の所、どこからも資金を引き出す事に成功した様には見えない。
もちろん新聞は叔父の記事だけではなく、事故や犯罪、商売関係の情報等、いろんな記事を掲載しているが、絵師に頼んで叔父の記事だけは読者の目が行きやすい様にイラストにも力を入れてもらっているし、ゴシップ新聞の方にもゴシップとして記事にしているので、叔父がどれだけ無能なのかは文字の読める平民には知れ渡っていると思う。
また、オレの不当な廃嫡の経緯もな。
そんなこんなで新聞の号数を重ねている内に、叔父が破綻した。
王家からの支援もなかったのは予想外だった。
まぁ、オレを不当に廃嫡するのに王家が関与していると匂わせてた記事を複数回載せたからな。
あっちもそうそう身軽に動けないだろう。
資金の無い領主はどうするか?
寄り親に借金をお願いする身となるのだが、侯爵家は王家や公爵家の次の位だ。
オレん家の派閥のピラミッドではウチの家が頂点なのだ。
だから叔父に出来る事と言えば、借金として貸している寄子に借金返済を急かせるか、領民の税額を上げる事くらいしか出来まい。
あと何ヶ月で詰むかな?
そう思っていたら存外早い内に破綻し、領地は王家にはぎ取られてしまった。
王家の狙いは領地召し上げだったのか?
あんな水害が定期的に起こる様な土地が欲しかったのか?
分からん。
まぁ、あいつらが貴族籍から外されればオレも大手を振って世の中を歩けると言うものだ。
平民が平民に対し何かするとすれば財力の多い方、貴族への伝手の強い方が勝つ。
今のあいつらに比べれば両方オレの方が上だ。
財力はもちろんのこと、セシリオ経由で貴族との繋がりがあるオレが有利だ。
先祖伝来の土地を王家に召し上げられてしまったのは悔しいが、オレはもう平民だ。
貴族でなくなって良かった事の一つに自由がある。
もちろん貴族の妨害等あったら平民は泣き寝入りしか出来ないが、事業だって、結婚だって自由なのはオレとしては嬉しい。
それにオレの最終目的は王制の転覆だからな。
アウレリアが言う民主主義という考え方に共鳴したのだ。
ただ、アウレリアが言っていた愚民政治は王制より始末が悪いかも知れないと言う意見は分かる様で分からなかった。
頭の悪い人気者が自分の利益だけを目的に国を切り盛りして、国を傾けるケースもあるらしい。
「実際に遠い遠い極東の国・・・・うん、そうだね、行く事もかなわない程遠い国では、何十年も平民の収入は増えないのに、分配だの、保険料だの、被災地復興だので税金や隠し税金はどんどん上がり、何年金を搾り取れば気が済むのよ?って状態なのに、その国の平民はのほほんと生活が苦しいねぇって言いながら一揆を起こす事もなく、言ってしまえばデモすら起こす事なく、国をこんな体たらくにした議員を相も変わらず選挙で再選させるのよ。これが愚民の国でなくてなんなのよ。だから、ポピュリズムに毒されている国民の国はもうすぐにっちもさっちもいかなくなるでしょう。マスコミすらまともな報道をしていないし・・・・」なんて、息巻くアウレリアの言う事の半分も分からなかったよ。
知らない単語のオンパレードだ。
学園時代もアウレリアの言う事は知らない単語だらけで、子供だった俺たちは自分たちより語彙の多いアウレリアが教えてくれる様々な新しい単語をそのまますんなり受け入れたけれど、国外に留学したオレやセシリオはあれはアウレリアの知識が普通じゃないんだって分かってる。
つまりアウレリアの語彙が多いと言うよりは、アウレリアがその類まれなる知識を表すために新しく作った単語だったのだと思っている。
社会とか、経済とか、意識とか、他の人や国ではそんな定義自体知らなかったよ。
つまり言葉が無いと言うことはちゃんとその意味を理解していないと同義だと思う。
まぁ、ぼんやりとは考えた事のある人はいるかもしれないけれどな。言語化するところまでは突き詰めていなかったって事だ。
だからアウレリアに教えてもらったとんでも語彙は、オレやセシリオにものすごく役立っているのだ。
これまではそれがアドバンテージだったけれど、今やオレんところの新聞で平民たちにも徐々にアウレリア語彙が広まりつつある。
こういう地道な教育や啓蒙が王家転覆の礎になるとアウレリアも言っていた。
そろそろアウレリアが新しい雇用人を連れてくる頃だな。
さて、あいつが来る前にこの記事の推敲を終わらせておこうか。