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40個焼いたコーニッシュパイの残りの35個は『熊のまどろみ亭』に持って帰った。
その前に、ガストさんが「家で作らせてくれ」とマノロ伯父さんにシツコク頼み込んで来たが、「いや、これは家の名物料理にする心算なので・・・・」と断った。
それにも関わらず、ガストさんは伯父さんに縋りついて「いやいや、パンはパン屋だぞ」と引き止める。
「いや、これはパイでパンじゃないから」等と何度かやり取りがあった後、逃げる様にして『熊のまどろみ亭』に戻った。
翌朝になっても美味しいかどうか確かめるために、残りのパイは大事に保管することになった。
「おはよう」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
家族が調理場に集まって、昨日焼いたコーニッシュパイで朝食を摂る事になっている。
冷めても美味しいかどうかをみんなで判断するのだ。
「パク」
「うまーーーい。父ちゃん、これ美味しいよ!」
まずランディが待ちきれずフライング気味に試食した。
「昨日の焼き立ての方が美味しいのは美味しいけど、冷めてもとっても美味しいよ」
ランディの感想を聞いて、マノロ伯父さんも早速食べ始めた。
「うむ。旨いし、ボリュームもあるな。これ一個で結構腹が膨れる」
「そうじゃのぉ。いろんな材料が使われておるから、飽きのこん料理じゃのう」
「伯父さん!これお弁当として売れますね」と私が言うと、マノロ伯父さんはお弁当とは何かを尋ね、理解した後に無言で頷いた。
その後、マノロ伯父さんとクリスティーナ伯母さんは目だけで会話する様に意味ありげに視線を合わせていたけど、伯父さんは突然私の方を振り返り、「よし!これを売り出そう。毎日何個ぐらいなら作れるか?」と聞いて来た。
昨日は天火いっぱいにパイを並べて40個で、もう少し詰めれば2~3個は入れられるかもしれない。
2回焼いたとして、焼くのに50分必要という事は、2回分のパイを一度に作ってしまうと、2回目に焼くパイの底がべちゃべちゃになる可能性が高い。
そうなると、パイも天火に入れるタイミングに合わせて2回に分けて作る事になり、もし、私がパイを作るとなると、1回目の天火の温度管理が出来なくなってしまう。
う~ん。悩ましい。
「どれくらい食材を用意できるかと、天火の手配にもよるけど、パイそのものを伯父さんか爺さんが作ってくれるなら、2回以上焼く事が可能です。火加減の調整は私でないと出来ないと思うので・・・・」と言うと、「俺たちでもパイは作れそうか?」と聞かれ、また考え込んでしまった。
フィリングの丁度良い水分量は、『食材鑑定』なしだと最初はなかなか掴めず、難しいと思うからだ。
慣れてしまえば問題はないだろうが、何時慣れるのかまでは分からない。
「フィリングの水分量の調節が難しいので、最初は私と一緒に作ってもらう事になると思います。で、伯父さんや爺さんが慣れて来たら、私なしでも作れる様になるので、後は、食材と天火の手配によって作れる数は変わってくると思います」
伯父さんは少し唸った。
「じゃあ、最初は1回だけ焼く事になるな。水分量の調節と火力の調整はお前でないと出来ないからなぁ」
「はい」
「火力の方は、儂がアウレリアに習うとするよ。そうしたら5歳の子を遅い時間まで働かせなくて済むからのぉ」
「よし!爺さんの案を採用しよう。最初は三人でパイを作って、焼くのは1日1回だけ。火の調整は爺さんがアウレリアと一緒にする。最終的には三人で何でもできるところまで頑張る。で、天火は、売上げ次第ではウチの調理場に作る事も考えよう。あれだけ旨ければ売れると思う」
その後、伯父さんはガストさんの所へ天火の相談へ行った。
だけど昨日のガストさんの様子だと、すんなり引き受けてくれるかなぁ?
私にしてみたら天火もだけど、味の決め手となっている卵の確保の方が気になっていた。
ポンタ村で鶏を飼ってる農牧家がどれくらいあるのだろう・・・・。
フェリシアの家の鶏の数は増えたけど、あれで足りるのだろうか?
今こそ『食材育成』スキルを試してみる時ではないのか?
動物にも適用できるのなら、早めに試してみたい。
今度、フェリシアの家に遊びに行った時に、試してみよう!




