闇王もといユーリの新聞王への道1
「ふ~ん。これは盗難事件かぁ。あっちは殺人事件か。いや、まだ殺人とは断定できないのか。おい、アウレリア、お前ならどの記事をトップに持って来るんだ?」
「やっぱり人が一人お亡くなりになっているこの件をトップでしょうかね。次はこっちの大手商会の支店が駅村に出来たことでしょうか?」
「殺人事件がトップなのは納得だが、どうして盗難事件より大手商会の支店の話が次なんだ?」
どの記事を紙面のどこへどの大きさで配置するかは密かにオレの楽しみになっている。
アウレリアが2週間に1度の頻度でオレの館に来てくれた時は、ある種の答え合わせの様で面白いから、毎度毎度質問している。
各記者から送られて来た記事を自宅内に設けた事務所のデスクの上に並べ、今週のオルダル・トゥデイにどの記事を採用し、どう配置するかなんだが、オレとアウレリアの意見は違っていた。
「えっとですね、殺人かそうでないかははっきりしない事を前面に出し、言葉は悪いですがドラマチックな事件にする事が出来るのでトップにしました。盗難事件は盗られた金額は大きいですが、犯人が見つかる可能性はとても低いです。来週以降の新聞の記事に繋ぐ事は難しいと思います。でも、大手商会が駅町に出店した事は、鉄道で旅行する人たちには朗報だし、他の商売敵には商売上の大きなニュースです。全ての商店が情報網を持っているとは限りません。そうなるとウチの新聞からの情報が大きく役立ち、今後もこの新聞を買おうかなと思わせる事が出来ると思います。だから2番目と思いましたよ」
「う~む。相変わらずお前は凄いな」
「え?」
こいつはキョトンとした顔をしているが、学園1年の時からこいつだけは特別だった。
まず最初に目が行ったのはその容姿だった。
服装は貧しい家のものではないが、平民のそれだった。
それなのに、そこら辺の貴族の令嬢より数段美人だ。
まぁ、今も美人だがな。
貴族っていうのは見栄が物を言う世界で、容姿は大きな武器の一つなので、魔法スキルや魔力以外にも美しい女性を代々娶るので容姿の良い者が貴族には普通にたくさんいるが、こいつはその中でも学園で1、2番の美人と言えた。
そして学園在学中は常に学年トップをキープしていた。
それもあややクラブでの様子を見るに特段試験勉強みたいな事はしていない雰囲気だった。
料理もオレが今まで見た事の無い美味しく珍しいのを毎日作ってくれた。
お陰でオレや部員の口は奢ってしまった。
まぁ、あれだけ美味しい料理を毎日出されると当然の事だな。
そしてアイデア。
こいつのアイデアは特別なんだ。
イベントにしろ、部室の内装にしろ、ものすごい能力だ。
何よりイベントを企画した後の準備の進め方や、イベントそのものの見せ方が凄い。
オレたちあややクラブの誰も思い付きもしない視点で注意点等を言ってくる。
オレは侯爵家の総領息子だったから本当に幼い頃から英才教育を受けて来た。
それこそ人の上に立つ事を小さい頃から頭に入れて発言、行動する様に口をすっぱくして言われて来たのに、こいつはそんなオレでも焦るくらい、色んな事を軽々と進めて行く。
何よりあの年齢で大公様の精鋭の一人って言うのが凄い。
大公様の精鋭の中にはめずらしいスキルを持っている事で幼い時に学園に通わせてもらえる奴も結構いるのだが、学園に入園する前から活躍したのはこいつのみだと思う。
学園入園前から自分で王都一、いや、国一と言って良いレストランを造り、運営していたものな。
オレはこいつと比べて何て能力が無いんだと軽く落ち込んだ時もあったが、あの頃はセシリオとボブが物事の進め方や仕組みについて考察するのが好きなので、段々とこいつの物事の進め方について学んでいってくれたから、セシリオを通して色んな事をオレも吸収させてもらった。
平民のメンバーと言う事でクラブの中では貴族メンバーに対し一歩離れた感じで接していたが、本当にびっくりしたのは今回、セシリオが居ない時にオレの命を救ってくれ、今後の道筋まで示してくれた事だ。
学園時代はあれだけ距離を置いていたくせに、これ程献身的に看病してくれたり、匿ってくれたり、そんな事をしてくれると思っていなかったので余計にありがたかった。
オレの命うんぬんに関してはアドリエンヌにも感謝しないといけないな。
彼女の犠牲の上に今のオレが居るんだ。
ただ、今のオレでは彼女に直接礼を言ったり、彼女の婚約を破棄させてやる力も地位も無い。
いつか絶対彼女に報いたい。
この気持ちだけは絶対、忘れちゃだめだな。
アウレリアが記事を彼女の言うA2サイズの紙の裏表に並べている。
本来ならば、彼女は自分の事業の方が忙しいと思うのだが、最初の1年はオレの新聞社に協力してくれるとのことで、月に2度もヤンデーノのオレの館に来てくれる。
来ると毎回2~3日は滞在してくれ、何くれとなく新聞造りに協力してくれるんだよな。
マジでありがたい。
オレが気軽に鉄道を使うにはまだまだリスクがあるので、どうしても移動するのはこいつになってしまう。
妙齢と言って良い年齢の入口に立った絶世の美女に旅をさせるのはちょっと気がすすまないんだが、ダンヒルとか言う執事っぽい奴か、ランビットが必ず同行するし、護衛も2名同行しているので、大丈夫だとは思う。
思うが、何かあってからでは遅いからな。
早く侯爵家の方が落ち着いて、オレが平民として外を歩いても問題が無い様にしたい。
あの家は治水に湯水の様に金を消費する様になるので、領からの税収だけでは管理が難しく、オレの個人財産が欲しい叔父たちは未だにオレを探しているとは思う。
でも一旦平民として市民権を得、自分の資産として金や不動産を登録しているオレに対し、如何に貴族と言えど取り上げるのは難しいはずだ。
まぁ、出来る事と言えば、オレを亡き者にするくらいか。
オレが死ねばオレの全財産はアウレリアに遺産として渡す様に既に弁護士事務所を通して手続き済みだ。
何がどうひっくり返っても叔父たちの手には渡らない。
アウレリアが作った記事の配置をオレに見てもらいたがっているな。
「どれ、見せてくれ」
「はい。これです。どうですか?」
こいつのやる事に間違いは無いが、今はその技術や知識をオレの物にする為のモラトリアムだからな。
精々頑張ってこいつの考え方を学ぼう。




