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『オルダル・トゥディ』では記者だけでなく、絵師も一人雇った。

 記者が撮った画像を大きさを変えてそのまま印刷できなかったので、一旦絵に落とす必要があったのだ。

 画像本来の大きさなら問題は無いんだけどねぇ。

 錬金術の装置を使って印刷板を作成し、プレス機を使って印刷するのだが、錬金術の装置では画像の大きさを変えて印刷版を作ると場合によっては色の濃淡のせいか、或いは線がぼやけるせいか、鮮明な写真として印刷できないのだ。

 だから、狙った大きさにしつつ、白黒で見て何が描いてあるのかはっきりわかる様に一旦絵に落とすための絵師なのだ。

 絵師はユーリが住んでいるヤンデーノの町で働いてもらう事にした。


 他の町や村は新聞社の設備として記者が記事を書いたり、ユーリや私たちと連絡を取るために、各駅のホテル内に小さな事務所を用意した。

 記者たちには週2日は事務所へ顔を出す様にお願いしており、記事は事務所でも、別の場所で書いても良いが、第三者には見せない事を徹底させた。

 事務所に顔を出す回数は低いが、遊ばせないためにも週2本の記事の提出を義務化している。

 もちろんもっと記事の数が増えればプラスアルファの収入になるし、採用された記事が多ければ多い程、プラスアルファも増えて来るという仕組みだ。


 また村ではまだ用意できていないが、町では各事務所で事務と広告を取ってくる仕事をする人を雇い、ホテル内の事務所に常駐してもらっている。

 書きあがった記事は駅町では新聞社の事務所を通して、駅村ではウチのビジネスホテルのレセプションを通して鉄道を使ってヤンデーノの駅留めで集めている。

 ただ、モンテベルデーノには駅はあってもホテルは無いので、駅舎に2階を建て増しし、そこを事務所とした。


 ヤンデーノに引っ越したユーリの館の使用人が毎日鉄道が到着した後に記事を受け取りに行っている。


 通常の新聞とは違い、ゴシップやファッション専門の新聞は、セシリオ様の推しで、社交界の花、マダム・パルティエと言う50代後半の女性が貴族や豪商の妻や娘たちのファッションや動向について記事を書いてくれる事になった。

 それとは別にファッションが大好きな平民の娘、ダニエラが王都内の商店やゴンスンデのデパートなどを適宜取材し、各洋装店の一押し商品なんかも記事にしている。

 これはゴシップ系の新聞で、『王都ゴシップ』なんてタイトルだ。

 マダム・パルティエ以外にゴシップを漁る記者も2名雇っている。

 記事の監修はセシリオ様が担当だ。

 

『オルダル・トゥデイ』は各駅の記者が定期的に鉄道で運ばせている記事をヤンデーノでユーリが纏めている。


 既に17号まで出版されているが、売れ行きは順調だ。

 売上げを上げるために、新聞の代金を出来るだけ抑えて平民でも買える値段にした。

 それが出来るのも私たちの少し上の代から、平民でも学校へ通える様になった事で、識字率がぐ~んと跳ね上がっているおかげなのだ。

 つまり出版部数を上げて、薄利多売を実行している。


 記事の内容の中には求人募集や人の誕生や死亡広告まで含んでいるので、当初A3裏表で発行を予定していた新聞だが、結局はA2で半分折、そして15号あたりからA2版で2枚になった。

 地方都市ごとにチラシを入れるサービスも始めたので、紙面内の広告だけでなくちらし印刷の収入まで入り、業績は順調だ。


 問題はゴシップ新聞の方だ。

 ファッションチェックの方は好評で取材された側も新聞を読む方も満足しているのだが、ゴシップの方はそうはいかない。

 貴族の性生活は元々乱れていたので、だれだれの夫とだれだれの妻が不倫をしているなんてあっちこっちに転がっているのだが、例えば劇場には不倫カップルの誰と誰がいつ劇に一緒に来て、着ていた服はこちらですという記事は、無粋だと貴族たちにはあまり評判が良くない。

 でも平民はこういう記事が大好物の様で、通常の『オルダル・トゥディ』よりも売り上げが良いのだ。

 こちらはA3サイズの裏表だけなので値段も『オルダル・トゥデイ』より若干安いのも人気の理由なのかもしれない。


 記者には面が割れない様に最初から重々言い聞かせていたが、段々誰が記者なのか分かると、買収なんかも頻繁になって来た。

 元々買収される場合は新聞社に打診する様にとは言っていたけれど、ゴシップ記者の内一人はそれをせず全額をポッケないないしていた。

 ユーリは間髪を入れずその記者を首にして、新しい記者を雇った。

 それからは買収されてポッケないないをする記者は出ていない。


 買収を打診される場合でも取材対象を敵に回してでも記事を出した方が良いか、買収されて記事をお蔵入りさせるかの判断はあくまで新聞社が持っていると言う事だ。

 買収された金額の半額は記者に行くので、勢い買収金額は跳ね上がるのだが、まだ結婚前で婚約者がいる貴族の火遊びなどは金に糸目をつけずに買収の額をレイズしてくるのだ。

 うまうま~♪

 まぁ、これは全部ユーリの新聞社の利益になるんだけれどね。


 ユーリはどの記事を紙面のどこら辺に載せるかとか、見出しの文字のデザインや大きさに拘っているのだが、それがとても楽しそうで安心する。

 もちろん記事そのものの書き直しもやってるけどね。

 記者たちが書いた記事とその記事の取材メモも一緒に鉄道で送ってもらっているのだ。

 だから、この記事は・・・・と思う時は取材メモを元に書き直す事も少なくない。


 ユーリは毎日楽しそうに、そして忙しそうに新聞を造っている。

「お前は昔から突拍子も無い物を考え出すけれど、そのどれも凄い物だった。この新聞もそうだ。オレにこの仕事を振ってくれてありがとう」なんて、珍しく礼を言って来るくらい、今の仕事が面白いのだと思いたい。

 

 私は2週間に1回はユーリと会合を持っている。

 新聞の中身についてが目的だけれど、ユーリ自体の体調とか精神状態を確認する意味もあるのだ。


「おい、あれを作ってくれよ」と会合の度に言われ、必ず点心料理を作らされるのにはちょっと辟易だけど、食欲が戻って来て良かったよ。

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