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「メグ、居間を貸してくれてありがとう」
闇王様が出て行って直ぐにメグに場所提供のお礼を言った。
「ううん。大変そうだねぇ。男女二人だけだと場所を選んだりと気を使うものね。必要だったら何時でも声を掛けてね。協力できる事はやるから。で、これからセシリオ様と会うんだっけ?」
「ああ、闇王様がね。あっ。今度から闇王様アドルフォ様ではなく、ユリシーズ、またはユーリって呼んで欲しいみたいよ」
「平民で登録するから名前を変えたのね」
「うん」
「そっか。ところで今回リアは色々と大変だったね」
メグの実家の雑貨店舗内で話す内容ではないので、さっきまで闇王様と居た居間へ二人して移動した。
「私は何もしていないけれど、アドリエンヌ様が大変みたい」
「婚約者が変わったんだっけ?」
「うん。ただ変わっただけじゃなくって、例の叔父さんの息子が新しい婚約者なんだって」
「うわぁ。アドリエンヌ様、あそこのお父様だと文句も言わせてもらえなさそう」
「ってか、闇王様を逃がすために、先に例の婚約者を受け入れる案をアドリエンヌ様から提示されたのよ。今回、闇王様を助けるのに一番動いて、一番犠牲になったのはアドリエンヌ様だと思う」
好きでもない人と、と言うか、好きな人を陥れた人と婚約しなくてはいけないってどんだけ辛いだろう。
勇者様と二人でしみじみ頷いて、今後の事について少しだけ話して、私はホテル内の自分の事務所へ戻った。
新聞記者募集をかけないといけないので、その内容を詰めて、ダンヒルさんにお願いする前に、闇王様に確認しないとだね。
夕方、闇王様が借りているアパートに、ランビットと一緒に顔を出す予定なのだ。
その頃にはセシリオ様もそのアパートに居るはずなので、4人で今後について話す手筈になっている。
記者の勤務場所は駅町全部かな。
それと、就業時間が不規則でもOKで、尚且つ頻繁な出張も嫌がらない人でないとダメだなぁ。
記事ってお貴族様の恋愛模様とか、流行の服、それから商売に役立つ情報や新しい法律とか、事故とかだよね?
服に関しては女性記者の方が良いかな?
貴族女性が良く集まるのは冬の王都かぁ。
なら、臨時で冬だけ雇うのもあり?
商売に役立つ情報かどうかは商人出身の人が良いかなぁ。
政治は貴族でないと分からないし、貴族の集まる社交界に出入りする人でないとだめだし、もしそういう人物が居たとして、その人からの情報が正しいかどうか分からないしなぁ。
取り敢えずは各駅に1人は男性記者を置いて、駅町や駅村で取材してもらって、場合によっては馬車とか使って取材旅行もしてもらわないとだから、やっぱり男性だよね。
まって、馬車よりは馬に乗って単騎で移動の方が早いかぁ。
じゃあ、馬も常備しておかないといけないかな?
給与は固定給プラス記事1本あたりのプラスアルファで、出来高払いと併用が良いかな?
だって事務所にずっといたら取材できないしね。
将来的には広告も取りたいから、記者とは別に事務や広報を兼任できる人も雇わないとだね。
広告の取り方とか、記事の書き方にしても一度は研修しないとね。
新聞づくりに必要な人とか物を思い付く限り書き出してみた。
後から後から、あれが抜けていた、これも抜けていたと書き足す物が多くなり、用紙は7枚になっていた。
「リアお嬢様」
「あ、ランビット。ご苦労様~」
「そろそろ行く?」
「うん。じゃあ、ダンヒルさんに一言言ってから行こう」
ランビットと二人、ウチの馬車に乗って闇王様のアパートへ。
ゴンスンデでは良くみかける木造の3階建ての建物。
狭い階段を登って3階には3軒のアパートが並んでいて、闇王様のアパートは大通りに面している。
「トントン」
「どうぞ」
鍵がかかっていないみたいなので、ランビットが戸を開けて入ると、中には闇王様とセシリオ様がテーブルについていた。
「お久し振りです。セシリオ様」
先に部屋へ入ったランビットが挨拶をした。
「お元気そうで」
続いて私が。
「やぁ、元気だった?」
少し痩せた様に見えるセシリオ様が飄々と挨拶を返してくれた。
闇王様より久し振りに会ったセシリオ様への挨拶が先になってしまったので、闇王様へは頷く形で挨拶を。
「お前たち座ってくれ。ところで、オレの名前、新しくなったんだ。ユリシーズって言うから、今度からは様無しのユーリで呼んでくれ」
「いい名前ですね」と言うランビットに意味ありげに笑う闇王様。
「今後は闇王とか呼ばないでくれよ。そっから足が付くかもしれん」
あっ!なるほど。その危険もあった。
今まで、しつこく心の中で闇王様と呼んでいたけれど、この習慣は止めないと、いつ、うっかり闇王様って呼んじゃうかもしれないものね。
あややクラブの時みたいに一歩引いた付き合いではなくなるものね。
ぽろっと口から零れ出る危険性は上がっているものね。
「で、ユーリだっけ?誰が名付けたのかい?」
セシリオ様、そこは闇王様、もといユーリが自分で考えたって思って欲しいよ。
「う~ん、今一番オレに近い女性かな~」
「へぇ~」とセシリオ様は思わせぶりな目線をこっちへ寄こしたので、すぐさま視線を外した。
クスクスとセシリオ様とユーリが笑ってるのが腹立だしい。
「で、アウレリア嬢。また面白い事を考えたってユーリから聞いたんだけど?」
「はい。新聞っていう事業なんです。これならユーリも人前に出なくても仕事が出来るし、情報を制する事ができれば、色んな事をコントロールできる様になると思うんです」
セシリオ様は黒い笑顔を浮かべて、「面白いなぁ。情報を制すか」としたり顔。
私は先ほど書き出した記者の募集要項をテーブルの上に載せて、新聞事業について説明を始めた。




