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「アウレリア、話がある」
「はい」
「昨日のお前の話、オレなりに考えてみた」
「はい」
「やってみようと思う」
「!」
「社会をひっくり返す事も出来る可能性があるってお前は言っただろう?」
「はい。可能性はあります。時間は掛かるとは思うけど・・・・」
「いいんだ。時間くらい掛かっても問題ない。それにもう貴族籍からは外されていると思うから、見つかっても叔父たちに命を取られる事は無いとは思うが、この国で貴族を向こうに回し顔を出す様な仕事は事業を潰してくれって言っているも同然だしな、以前の身分もなしに留学先に戻っても大した事は出来ない。昨日お前が見せてくれた新聞を読んでみて、とても面白いと思った事もお前の話にのろうと思ったキッカケだ。本当に俺にこの仕事を任せてくれるのか?」
「はい。任せます」
「・・・・ありがとう」
闇王様は手に私が作った仮の新聞の紙を持ち、「オレはこれからオレ個人の資金を全部現金化して、オレの手元に保管する必要がある。セシリオはもう帰国しただろうか?」と聞いて来た。
「今、ランビットにフェリーペ経由であややクラブのメンバーに同窓会の案内を出してもらっています。その際にセシリオ様も含めてもらっていますから、そろそろお返事を求めても良いかと思います。まずはフェリーペにセシリオ様の御自宅に行ってもらいます。ただ・・・・」
「ただ?」
「ただ、セシリオ様は信頼が出来るのかどうか私たちは判断が出来ないのです。もちろんあややクラブの時にセシリオ様の人となりはよく存じておりますが、今回は貴族の思惑と言うものが絡んでいます。セシリオ様個人はアドルフォ様の御友人ですが、お家の考えと言うものもあり、それがどの様に作用するかは・・・・」
闇王様はニヒルに「ふっ」と笑った。
「セシリオは大丈夫だ。オレが平民になったとしても変わらない。ただもし実家がオレとの付き合いに良い顔をしないとしても、表向きはその意向に従いつつ、裏でちゃんとオレのために動く」
闇王様がどうしてそれ程貴族でもあるセシリオ様を信頼できるのかは分からないが、本人がそう言うのなら、そうなのだろう。
でも、ランビットにもフェリーペにも一応はそうで無い可能性も頭に入れて闇王様の件に当たってもらう様にしよう。
私の顔をじっと見ていた闇王様は「お前は貴族としてもやっていけそうだな。流石大きな商売の数々を成功させているだけある。人間と言うものが分かっているのだな。そうだ、オレがどれだけセシリオは信用できると言っても、オレを匿っているお前の立場としては、オレとお前の関係が審らかにされる事は避けねばならぬ。そうだな?」と、何故か私の考えを見通した様だ。
「そうですね。でも、セシリオ様の協力を得られれば百人力である事も確かです。まずは、接触を図ってみます。そして大丈夫であればアドルフォ様の個人資産の現金化を急ぎます」
「うむ」と闇王様は頷いた。
「資産を我が手に取り戻せれば、お前の言う新聞事業をオレの事業として、お前の事業の下請けという形が取れる。そうしたら何かあってもお前に迷惑を掛ける事がなくなる。お前は事業としてオレに業務を委託しただけと言えるからな」
「そんな事を気にしなくても・・・・」
「いや、こうやって助けてもらっているだけでもリスクがある。そう言う意味ではアドリエンヌにも感謝を伝えたいが、今のオレではそれすら出来ん。まぁ、今は体力を回復して、自分で動ける様になる方が先だ。お前も王都に戻らなくてはならないのだろう?お前の不在の間の事について話し合おう」
私たちは漸く色んな事に対して腹を割って話し合った。
ランビットと入れ替わりで王都へ戻った。
ホテルのメッセンジャーに頼んでフェリーペをランビットの名前で呼び出してもらい、フェリーペとウチの事務所で打ち合わせをし、ある程度の事を伝え、すぐにセシリオ様の所へ行ってもらった。
ありがたいことにセシリオ様は既に帰国しており、闇王様の身に起こった事、その後、ウチのホテルでその身柄が忽然と消えた事までを把握していた。
「リア。セシリオ様はお前が闇王様を匿っている事までちゃんと当たりを付けていたぞ。で、安心だと思ったから、闇王様の個人資産の現金化を頼んでおいた。数週間は掛かるらしいが、金額の太いものから対応するって言ってた。で、同窓会は現金化が済んだ時に開催して欲しいって言ってた。その時にお前に色々と頼みたい事があるって言ってた。現金を渡す安全な方法を決め次第、連絡をするし、現金の受け渡しは複数回になる可能性がある事も気にされていたよ」
フェリーペも闇王様の事を心配していたのだろう、少しでも力になれると思うと嬉しいみたいだった。
「お前も大変だろうけど、今は闇王様が一番堪えているはずだ。くれぐれもよろしくな」
「うん」
「俺もボブも、何かあれば力になるから」
「ありがとう。多分、これからもセシリオ様との橋渡しとか色々お願いすると思う」
「うん。分かった。お前も気を付けて」
「ありがとう」
フェリーペが帰って行くと、ダンヒルさんにアドリエンヌ様の家と闇王様の家からホテルで闇王様がいなくなった事についてどんな事を言われたかの確認をした。
闇王様を運び出した翌々日には一応は書面で経緯を説明してもらっているけれど、これはちゃんと口頭で確認した方が良いと思ったのだ。
アドリエンヌ様の御実家は、何も言って来ず、この件には関り合いになりたくないって言うスタンスらしい。
文句を言って来たのはジェラルドの方だった。
鍵を掛けていた部屋から人が居なくなったのはどう責任を取ってくれるのかとウチのホテルに詰め寄って来たらしい。
コンシェルジュが、「お客様のお部屋の中では、何時どの様な事をされていらっしゃるのかは、ホテル側には分かりません」と説明したらしいが、「ホテルにはマスターキーがあるはず」と向こうも引かなかったらしい。
「鍵を使って誰か中に入った形跡がありましたか?」と言うコンシェルジュの問に、ジェラルドは答えられなかったらしい。
音は立てなかったからね。
で、「事件があったのなら、衛兵を呼びますか?」とのコンシェルジュの問に無言で立ち去ったらしい。
そりゃそうだ。衛兵を呼ばれて一番困るのは自分だしね。
本年は大変お世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願い致します。
来年が皆さまにとって良いお年になりますよ~に。




